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ある魔女のための鎮魂歌【第1部】  作者: ワルツ
第2章:へっぽこ魔女の武勇伝
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第2章:第9話

「キラちゃん達大丈夫かしら…。」


キラがゼオンを連れてて飛び出していった後、心配そうにホワイトがつぶやいた。

どうも本当にこの人はお人好しの甘ちゃんらしいなとルルカは思った。

先ほどから不安そうな表情を浮かべながらチラチラと何度も入り口の方を見ている。

本人が何考えているかは知ったこっちゃないけれどその様子を見ているとルルカは少しイライラしてきた。

嫌いだ。こういう誰にでも愛想ふるまいて「いい人」をする人は。

あちこち行ったり来たりして落ち着かないホワイトを見てオズが言った。


「まあ、あいつらなら心配いらへんて。

 まあ、ゼオンがいるからすぐに妖精捕まえて帰ってくるやろし、あいつがサボったらキラは困って戻ってくるやろし。

 もしそうなったらルイーネに探してもらえばええ。

 せやから、お前は学校戻っててええで。

 妖精は後で俺が届けとくから。」


キラに妖精集めを押しつけたのは他でもないオズ自身のくせによくそんなことが言えるなとルルカは思った。

大体普通ならまず最初に妖精をからかったシャドウを叱るべきだ。

けれどホワイトはそんな容赦ない指摘はしなかった。

少し迷いの混じったような口調で言う。


「…そ、そうですか。

 わかりました、ありがとうございます。」


まあよくこんな胡散臭い男の言うことなんて信用するなとルルカは思う。

正直オズの言動からホワイトの振る舞い方まで、ルルカからしてみれば全て嘘のように思えてならなかった。

そしてホワイトは少し心配そうな表情を残したまま軽くお辞儀をすると、入り口の重いドアを開けて出ていった。


ドアの閉まる音がしたところでようやく騒ぎが一段落したかとルルカは思った。けれど騒ぎは収まってもうるささというものは何故かなかなか消えないものらしい。

突然ティーナが不機嫌そうな顔をしながらぶつぶつ小言を言い始める。


「あーもうキラの奴っ、あたしを差し置いてゼオンと二人で行くとかどういうつもりさっ!

 しかもゼオンの腕握るなんてっ、明日シメてやるんだから!」


どうもティーナはキラがゼオンと行ったことが気に入らないらしかった。

「あたしを差し置いて」とティーナは言うが、ゼオンを連れていく直前に紙に何か書いていたところを見るとあみだくじか何かで連れていく人を決めたんであって、別に差し置いていく気はなかったのではと思うのだけど。

ティーナの機嫌はすぐに直らず、ぶつぶつ小言を言いまくっていた。

ルルカはため息をつく。

大体ゼオンのどこがそんなにいいのかルルカからしてみれば理解不能だった。

ルルカに言わせればゼオンは恋人とかには絶対したくないタイプなのだけど。


ルルカがティーナにうんざりしていると、突然オズが立ち上がってドアの方へと向かっていった。

どこかへ出かけるつもりだろうか。

シャドウとレティタがフワフワオズのそばまで飛んできてオズに聞いた。


「お、なんだ、どっか行くのかぁ?

 俺も行く行くー!シュークリーム買ってくれぇ!」


「どうしたのよ急に。

 今日は村長達と会う予定もないし、隣街に買い物に行くには遅すぎるじゃない」


レティタが不思議そうに首をかしげていると、オズはニコリと笑った。

だが次の瞬間ニコリがニヤリに変わってシャドウを睨みつけ始めた。

突然睨みつけられたシャドウは一瞬震え上がる。

オズは恐ろしささえ感じるような笑みを浮かべながらあくまで穏やかにシャドウに言った。


「妖精からかうような悪い小悪魔にはお仕置きが必要やろ。

 なぁ、シャドウ?」


「ですよねぇ。イタズラばかりしてる人は一度シメとかなきゃだめですよねぇ。」


ギョッと青ざめて後ずさりするシャドウの後ろからルイーネも鋭い眼光でシャドウを睨んでいた。

ルイーネの後ろではルイーネの身長の何重倍もありそうな大きさのホロが無数の目玉をギョロリと動かしている。

前方に最強シルクハット男、後ろには目玉お化けという絶対絶命の状況にシャドウは置かれていた。

まあ自業自得だなとルルカは思い、冷めた目でその様子を傍観していた。

オズは表情を緩めることなくドアの方を向いた。


「ほな、俺シャドウのために皮がキャベツでできたシュークリーム買ってくるから、ルイーネ、後はよろしくなー」


シャドウが青ざめたところでいつもはここでツッコむはずのルイーネが容赦なく言う。


「はあ、わかりました。

 それでは是非中身のクリームはタバスコ入りわさびクリームにしてあげてください。」


「せやったらキャベツにわさびで緑色やな、新緑の季節にぴったりやなあー。」


「ですねえー。」


口だけ無駄にほのぼのした様子で二人がそう言っている間でシャドウは青ざめて硬直している。

それはもはやシュークリームではないんじゃないだろうか。

確かにシュークリームのシューはキャベツという意味なのだけど。そこは合っているけれど。

というかこのシルクハットと愉快な仲間たちはいつもこんな調子なんだろうか。

恋人とかには絶対したくないタイプだけれどこういう時にゼオンがいないとシケた顔して傍観している人が自分一人になって少しキツいなとルルカは思った。


「ほな、ティーナもルルカも早く帰ったほうがええで。さいならー。」


「うわぁ、わさびは嫌いだあー!もうイタズラしねーからぁ!

 わさびは止めてくれぇ!」


「あ、あたしも行くっ!」


オズはそう言っ手をふりドアを開けて出ていって、シャドウとレティタは慌ててオズについて行った。

けれどさっきまでオズにつっかかりまくっていたティーナがそれを見逃すわけがなかった。


「あーちょっと待てぃ!

 まだ聞くこと聞いてないだろおがぁ!」


ティーナはそう怒鳴って急いで後を追おうとしてドアの方へ走り出そうとした。

だがあと少しでドアノブに手が届くというところで突然ホロがティーナの前に現れて行く手を塞いでしまった。


「ルイーネぇ…!」


「すみませんね。」


ルイーネは少し申し訳なさそうに笑ってそう言った。

結局問い詰めは失敗に終わってしまった。

ルルカがやれやれとため息をつくと急にホロがルイーネに何かささやいた。


「…ほんとですか?」


ホロの言葉はルルカにはわからないので何を言ったかはわからなかったが、それを聞いたルイーネの表情が急に険しくなったのをルルカは確かに見た。



◇ ◇ ◇



「よっしそれじゃあ張り切って妖精探しましょー!」


キラは空に向かって握り拳を伸ばしながら元気よくそう言った。

対してゼオンはそんなキラをしかめっ面をしながら何も言わずに眺めているだけだった。

図書館を勢いよく飛び出したキラはとりあえずゼオンを連れて村の中央広場まで駆け抜けてきたのだった。

とは言ってもこっちの方に妖精がいそうだとかそういうはっきりした理由があったわけではなく、ただ勢いに任せて走ってきただけなのだけど。

この時間帯、大人は家のことで忙しく、子供は帰り始める時間なので、広場にはほとんど人がいなかった。

どうせ妖精を捕まえるためにこのあたりで探しまわるのだからちょうどいい。

少し面倒くさいことだけれど、いつまでもふくれっ面していてもしょうがないとキラは思った。

そして早速元気よく探し始めようとした時、ゼオンが言った。


「…おい、何で俺が手伝わなきゃならねえんだ。」


ゼオンは相変わらずの無表情だったけれど、突然連れ出されて少し不機嫌だということはキラでもわかる。

キラは図書館を出る直前に何かを書いていた紙きれを取り出し、ゼオンの方に突き出した。


「そりゃあ勿論、アミダで決まったからさっ!」


「決め方なんて聞いてねえよ。」


即答されてしまった。

アミダがそう決めたんだからしょうがないじゃないかとキラは思った。

キラはぶーっと少し膨れて仕方なくアミダを書いた紙をポケットに戻す。

ゼオンは無表情のままつまらなさそうにこちらを見ていた。

そして今更ながら三人の中からゼオンを選んでしまったことを少し後悔した。

少し考えてみればゼオンと行動するとなるとかなりやりづらい雰囲気になることはわかりきっていたはずなのに。

どうせならティーナ辺りを選んだほうが話も弾みそうだし楽しかったかもしれない。

キラはつまらなさそうな顔をしながら持っている籠をぶらぶらふり始める。

そしてもう片方の手を見た時にあることに気がついた。

同時にゼオンがぷいとキラに背を向けて、学校へ戻ろうとし始める。

それを見たキラは慌てて引き止めた。


「ちょっと待ってよ、あんたどこ行くの!」


「学校戻るんだよ。

 そんなことに付き合ってられねえ。」


「だ、だめだめだめ!」


キラは首を降って全力でゼオンを引き止めた。

今ゼオンに帰られたら困る。非常に困る。

ゼオンはそれを察したらしく、立ち止まって振り返り、キラに尋ねた。


「なんでだよ。一人で捕まえりゃいいだろ。」


キラは籠を持った右手と何も持っていない左手をゼオンに見せた。


「あたし、杖忘れた。」


「…そんなこと言ったら俺だって持ってねえよ。」


また即答されてしまった。

たしかに今ゼオンは手ぶらで何も持っていない。

けれど、たしか図書館に来る時は杖を持ってきていたはずだ。

まさか図書館に忘れてきたのだろうか。


「なんであんたが持ってないの!?

 魔法使いたるもの杖は常に持ってるもんだろー!」


「あんなに急に引っ張られたら持ってくる暇あるわけないだろ。」


キラはぐっと言葉に詰まった。

ゼオンを突然連れ出したのは紛れもなくキラだ。

ゼオンが杖を忘れてきたって正直仕方がない。

キラはショックでがっくりと下を向いてうなだれた。


「…ちぇー…しょうがない、素手で捕まえるか…。」


「…普通に魔法で杖出せよ…。」


ゼオンが呆れたように言った。

それを聞いたキラはきょとんとした顔で首を上げてゼオンの方を見た。


「魔法で出せるの?」


「出せるだろ?

 別の場所にあるものを取り出すことくらい。」


ゼオンは当たり前のようにそう言ったけれど、キラは普段魔法の勉強なんてろくにしていないのでそんなことを知っているわけがない。

知っていたとしても魔法で火を起こすことすらよく失敗するキラにそんなことはできないだろう。

ゼオンはなぜキラがそのことを知らないのか少し疑問に思っているようだったがしばらくして納得したような顔つきで言った。


「…そうか、お前、魔法下手そうだしな。」


「うるさい、余分なお世話だーっ!」


「ついでに馬鹿だしな…余分じゃなくて余計だろ?」


キラは左手をぶんぶん振り回して怒り出した。

キラがゼオンをポカポカ殴ろうとするけれどゼオンはひょいひょいかわしてしまう。

全くどうしてこいつはこう腹が立つことばかり言うのだろう。

しかもゼオンは魔法も上手ければどうやら頭もいいようなので余計に腹が立つ。

どうしてこう世の中には自分が持ってないもの全てを持っているような人がいるんだろうとキラは思った。


「ったく、仕方ねえな…」


ゼオンはそう言うと面倒くさそうな顔をしながら近くにあった棒きれを拾い上げて地面に何かを描き始めた。

二重丸を描き、その中に星のような形を書いて、周りにどこの言葉だかわからない文字を描きはじめる。


「お、杖出してくれんの?

 でも結局杖がないと魔法使えないんじゃない?」


「だからこうして魔法陣描いて媒介にするんだろが。」


魔法陣が媒介にできるなんて知らなかった。

改めてキラは自分の勉強不足を思い知る。

もう少し魔法を勉強すればうまく魔法を使えるものなのかなとキラは思った。

そうこうしてるうちにゼオンは魔法陣を描き終えたようだった。

魔法陣を使った魔法を見るのは久しぶりだった。


ゼオンは魔法陣に手をかざして早口で呪文を唱え始めた。

正直聞き慣れない言葉ばかりを早口で言うものだからうまく聞き取れなくて何て呪文を唱えているかはよくわからない。

ゼオンが呪文を唱えていくうちに魔法陣がぼうっと白く光り始めた。

魔法陣の不思議な光にキラの目は釘付けだった。

白い光が日の暮れ始めの空に淡く上っていった。

ゼオンは呪文を唱え終わると白く輝く魔法陣へと視線を落とし、魔法陣の中心へと手を突っ込んだ。

常識では有り得ないことを実現させてしまうのが魔法のすごいところだと思う。

突っ込んだその手はまるで水に手を入れるかのように音もなく静かに地面に潜り込んだ。

そしてゼオンはすぐに地面から手を出した。

同時に魔法陣の光も一瞬で消え去った。

そして、ゼオンの手には図書館に置いてきたはずの赤い宝石のついた杖が握られていた。


キラはその様子から一瞬たりとも目を話すことはなかった。

本来これは普通の人でも使える魔法なのかもしれない。

けれどキラは確かに普通との格の差というものを感じた。

こいつはムカつく奴だ。

冷めた性格で口も性格も悪いし妙なとこだけ勘も鋭く、ついでに少々悪知恵も働くムカつく奴だ。

けどこうも感じた。

凄い奴だと。

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