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ある魔女のための鎮魂歌【第1部】  作者: ワルツ
第2章:へっぽこ魔女の武勇伝
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第2章:第8話

「あー!先輩、こんにちわぁ!」


二人の姿を見つけたキラがバリカンを構えるのをやめて、明るい声でそう言った。

ホワイトがその声を聞いて微笑み返す。

ティーナとオズもそれに気づいて、騒ぐのを止めた。

ホワイトとブラックは何かを待っているような様子でその場から動かなかった。

二人を見たオズが何かを思い出したように言った。


「あーそういやそうやったな。

 学校側に頼まれてアレ取りに来たんやろ?

 あ、キラ、ちょっと手伝ってくれ。」


そう言うとオズは立ち上がってキラを連れて奥の部屋へと入っていった。

二人が奥の部屋へ入っていって、ようやく少し場が落ち着いたが、ゼオンはルルカが相変わらずブラックのいれずみを凝視していることが少し気になった。

ブラックには聞こえないようにルルカに訊いてみる。


「どうかしたか?」


「…別にたいしたことじゃないんだけれどね、あの刺青、どこかで見たような気がするのよ。

 どこだったかしら…。」


ルルカは必死にいつのことだか思い出そうとしているようだったが、結局答えを話すことはなかった。

そうこうしているうちに、木がきしんだような音がして扉が開き、奥から二人が出てきた。

二人の手には金網でできた大きな鳥かごが握られている。

中を見るとそこには鮮やかな色の服を着ていて、薄い青色の透き通った羽を持つ小さな妖精が十数匹ずつ入っていた。


「この妖精ども何?」


ティーナがまだ棘のある口調でオズに聞く。

オズは笑って、皮肉ともとれるくらいの余裕ある口調で答えた。


「なんか学校の授業で使うらしくて、一日だけ預かってたんや。」


オズはそう言うと、妖精の入った籠をブラックの方へ手渡した。

ブラックは無言でそれを受け取ると、とりあえずお辞儀をして、そこまであっさり行くかと思うくらいさっさと外へ出ていった。

続けてキラも身長に釣り合わない大きさの籠を抱えて、ホワイトへ渡そうとする。

けれど、突然シャドウがフワフワとキラのところへ飛んできた。


「やーい、ばーかばーか、このチビ妖精どもー!

 出てこれないだろー、やーい!」


シャドウはあっかんべをしながら籠をつついて妖精をからかいはじめた。

こいつ、馬鹿だなとゼオンは思った。

キラの籠の中の妖精たちが突然暴れて籠を揺らし始めた。

どうもシャドウの言ったことに腹が立ったらしく、無茶苦茶に暴れて籠から出ようとする。

キラが必死で籠を押さえようとしているが、妖精たちの勢いは止まらない。


「ちょっと、やめなさいよシャドウ!」


後ろの方からレティタが飛んできてシャドウを止めようとするけれどイタズラ好きのシャドウは一向にからかうのを止めようとしない。

そのうちガチャガチャと籠の金網が音をたてはじめた。

キラの表情も険しくなり始め、籠を支えるのが難しいようだった。

教室の壁に簡単に穴を空けるあのキラが険しい表情になるのだからきっと相当な力がかかっているのだろう。

それでもキラは籠の持ち手を放さずゆっくりとホワイトの手の方へと持っていく。

籠の持ち手が完全にホワイトへ移り、キラが手を放そうとしたその時だった。


ガシャンと床と金網が強くぶつかり合う音が図書館中に響いた。

キラの手にもホワイトの手にも籠は握られていない。

籠は床に横になって落ちていた。

そして開いた籠の入り口から妖精たちが次々と外へと飛び出してきて図書館内をふわふわとたくさんの妖精が飛び回り始めた。全員そろってため息をついた。


「あーあ、やっちゃいましたね…。」


ルイーネの声が虚しく響いた。

辺りには十数匹の妖精がふわふわ飛んでいる。

機嫌の悪い妖精たちの怒りの矛先が誰へ向くかは目に見えていた。

飛び出した妖精たちは、妖精と言うより小鬼と言うべきなのではと思うほどの形相でシャドウを睨みつけたかと思うと、一斉にシャドウに襲いかかりはじめる。

シャドウはヒィと一瞬声をあげて青ざめると、猛スピードで図書館内を逃げ回り始めた。

妖精たちもシャドウを鳥のような速さで追いかける。

もうまさに蜂の巣をつついたような騒ぎだった。


自業自得だなとその状況を眺めながらゼオンは思った。

多分その場にいたほぼ全員がそう思っただろう。

けれど、この状況をそう長く放っておくわけにはいかないのも事実だった。

オズが呆れた顔をしながら床に転がっている籠を拾い上げた。

そして籠の扉を全開にして籠を持った。

ルイーネが追いかけ回されてるシャドウをよそにオズに聞いた。


「どうしましょうか。

 シャドウさんにあの勢いのまま籠の中突っ込んできてもらって、妖精たちもシャドウさんにつられて籠の中入ってきたところで籠を閉めるのが一番早そうですけど。」


「せやけど、あの状態じゃそう言うてもあいつ絶対話聞かないんちゃう?」


シャドウの悲鳴がやかましく図書館内に響き渡る。

妖精ども相手に持てる力全て出して逃げ回っているのが見え見えだった。

たしかにありゃ絶対話なんて聞いてる余裕はないだろう。

ルイーネは納得した表情で言った。


「…確かにそうですね。

 じゃあ、どうします?」


「お前の能力じゃ、妖精捕まえるのには向かへんし…

 …しゃーないな。」


そう言うとオズは指をパチンと鳴らした。

それと同時に籠が白く光り始める。

突然籠が光ったことに驚いたのか、それを見た妖精たちの動きが一瞬止まった。

それを見たオズがふっと笑みを浮かべる。

何か来るな、と直感的にゼオンは思った。


そして、オズはもう一度パチンと指を鳴らせた。

それと同時にビュウと音がして風が辺り一帯に吹き荒れ始めた。

強めの風ではあるけれどコントロールは上手いもので、本棚が立ち並ぶ図書館内だけれども、本は一冊も落ちてこなかった。

おそらく捕獲用の魔法の一種なんだろう。よく見るとその強風は全てオズの持つ籠の中へ吸い込まれるように流れ込んでいく。

風は妖精たちを包み込んで、容赦なく籠の方へと押しやった。

強い風に妖精たちはなすすべなく籠の中へと吸い込まれていった。

妖精たちが籠の中へ入ったところでオズは素早く籠の戸を閉めた。


「おー凄い凄い!」


キラが感心して声をあげた。

オズは見事妖精を籠に戻した割には微妙な表情で言う。


「全員入ったかはわからへんけどな。

 ルイーネ、数確認してくれ。」


オズがそう言うと、ルイーネは早速籠の中の妖精の数を確認しはじめた。

ルイーネがそうしはじめるのを確認すると、オズはキラの方を向いて尋ねた。


「そういや、この前から気になってたんやけどそれどこで手に入れたん?」


オズが指差したのは例のあの杖だった。キラはそれを聞いて不思議そうに答えた。


「なんかみんなこの杖のこと気になるんだね?

 お姉ちゃんが誕生日プレゼントにって送ってきてくれたんだよ。」


「送られてきた?それが?サラからか?」


オズはすぐに腑に落ちない顔をして聞き返した。

キラは当たり前のように頷いた。

やはりオズもこれはおかしいと思うらしい。

オズが考えこんでいるところへ、ルイーネが慌ててやってきた。


「大変ですっ。3匹足りません!」


一度落ち着いた空気がまた緊張しはじめた。

オズは頭に手を当て、少し苦い顔をして言った。


「やっぱな。妙に少ないと思ったんや。

 で、そいつらどこおるんねん。」


「それがぁ、ホロに調べさせたんですけど図書館内にはいないらしいんですよ。」


それを聞いたキラとホワイトが同時に困った表情をして辺りを探し始める。

図書館内にはいないと言ってるのだから探しでも無駄だと思うけど。

すると、ゼオンはふと背中の方から優しい風がそよそよ吹いてくるのを感じた。

後ろを向いてみると窓が一つだけ全開になっているのを見つけた。


「…おい、あれ。」


ゼオンが窓を指差した。

それを見た途端、全員口をぽかんと開けて唖然とした。

吹いてくる風は優しいけれども気分はちっとも優しくない。

ほぼ間違いなく妖精はここから出ていっただろう。


こうなると誰かが探しに行かなければならない。

勿論誰も自分から探しに行きたいとは思わないだろう。

すると、しばらく何か考えこんでいたオズが突然キラを指差して言った。


「よしキラ、お前が探しに行ってこい。」


「はァ!?何であたし!?」


勿論キラはそう言われても素直に行ってきたりなんてしない。

不満そうに口を尖らせている。

オズは笑いながら言った。


「だって落としたのお前やろ?」


「あれはシャドウが妖精たちからかったからじゃん。」


「シャドウに行かせたいとこなんやけど、あいつは妖精捕まえられへんねん。」


キラはそれ以上言い返せず口ごもった。

多分言おうと思えばホワイトが落としたのだからホワイトが行くべきだとも言えるのだろうけど、先輩の前でそんなことは失礼で言えないのだろう。

キラは絶望したようにがっくりとうなだれて言った。


「ううー…なんであたしが一人で行かなきゃならないのさぁ…。」


「別に一人やなくてもええけど。」


ぼそりとオズが言った一言を聞くやいなや、キラの首が素早くこちらを向いた。ゼオン、ティーナ、ルルカの三人は一斉に全力でキラから目をそらしはじめた。

あれは明らかに一緒に連れて行く生け贄を探す目だ。きっと一人で孤独に妖精探しをしたくないのだろう。

けれど三人共喜んで面倒事を引き受けるお人好しなんかじゃない。

ゼオンも死んでもそんなことはしたくないと思っていたが、その日は運が悪かった。

キラはしばらく紙の切れ端に何か書きながら考えていたが、しばらくすると突然ゼオンの腕を引っ張って走り始めた。


「よっし、冷血魔法使い、あんたに決定っ!

 んじゃ行ってきまぁーす!」


キラはそう言うとキラは籠を持ってゼオンを引っ張りながら図書館を飛び出していった。

あまりにも突然のことでゼオンは言い返す余裕もなかった。

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