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ある魔女のための鎮魂歌【第1部】  作者: ワルツ
第2章:へっぽこ魔女の武勇伝
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第2章:第4話

二人が去っていくのを見送ると、キラとゼオンは再び歩き始めた。

歩き始めてすぐにゼオンがキラに言った。


「今の二人も知り合いか?」


「うん、ブラック先輩とはあまり話したことないけど。

 あ、そういやあんたが聞きたかったことって何?」


キラはそう言って振り返った。

ゼオンも立ち止まった。ゼオンは急に真剣な口調で言った。


「…あの図書館の館長とかいう男、たしかオズ・カーディガルとかいう名前だったな。

 あいつ一体何者だ?」


急にオズの名前が出てきたのでキラは驚いた。

あの日ゼオンたちはオズと話してすらいないはずなのに。

大体キラはゼオンに、オズが図書館の館長だということなんて言っただろうか。

オズのフルネームすら言ってないような気がするのだけれど。

不思議に思ってキラはすぐに聞き返した。


「なんで突然そんなこと…」


「教えてくれ。俺がここに入ることになった理由も教えてやるから。」


ゼオンが自分からそんな交換条件を出してくるとは思わなかった。

何かあったのだろうか。

さらに疑問は膨らむばかりだった。


キラが再びゼオンに何か言おうとした時、突然後ろの方で窓ガラスが割れるような大きな音が聞こえた。

後ろを向いた瞬間、何かがゼオンに突進していくのが見えた。

危ない、とキラは言おうとしたがその必要はなかったようで、ゼオンはさっとその突進してきた何かをかわした。

その突進してきた何かは勢い余って廊下の壁に大きな音を立ててぶつかった。

その何かはぶつかった部分を抑えてうずくまる。

ゼオンは突然呆れたようにため息をついて、その突進してきた何かに言った。


「…おい、学校には来るなって言っただろ、ティーナ。」


その突進してきた相手はどうやらあの時の三人組の中のティーナという少女だったようだ。

ぶつけた頭を痛そうに押さえながらティーナは立ち上がった。

そしてゼオンの方を見ると言った。


「だぁってだって、ゼオンと一日中離れ離れなんていやなのぉ!」


「俺は静かな環境に行けてせいせいしてるんだけどな。」


「うう、冷たいなぁ…

 でもそんなとこも好きだよぉ…」


がっくりするティーナを放って二人が先に行こうとすると、後ろからコツコツとヒールの高い靴で歩くような音が聞こえた。

まだ誰かいたのだろうか。そう思って後ろを見るとそこにはなぜかルルカがいた。

キラは首を傾げた。ティーナはともかく、なぜルルカがここにいるのだろう。

ルルカはティーナのようにゼオンに会うためだけに窓ガラスをぶち壊すような人には見えないのだけれど。

ゼオンにとっても二人がここに来ることは予想外だったらしく、ルルカに言った。


「お前までいたのか。

 何でわざわざ来たんだ。

 いきなり窓割って入ってくるなんて不法侵入もいいとこだぞ?」


「その子に聞きたいことがあって来たの。

 貴方社交性は最低でしょう?あいつのこと聞きそびれたりしたら困るのよ。」


ルルカは睨むようにゼオンを見てそう言うとくるっとキラの方に向きを変えた。

そしてキラに聞く。


「単刀直入に聞くわ。

 オズとかいう名前の関西弁のシルクハット男…あいつ一体何なの?」


またキラは驚いた。

突然オズの名前が出てきただけでも驚きなのに、二人して同じ質問をするなんて。

しかも窓を突き破ってまでして知りたいことらしい。


「ちょっと待って。

 あんたらあの日何かあったの?」


キラが困惑してそう言うと、ルルカとゼオンは顔を見合わせた。

やはり何かあったようだった。

すると、突然ティーナがやってきて、早口でキラに言った。


「そーだよそーだよ!

 そのこと言おうと思ってたんだった。

 あの日あんたと別れた後ね、急にあのシルクハット男がやってきて、

 『しばらくの間この村に留まってないとぶち殺すー!このすっとこどっこい犯罪者ー!』って言ってあたしたちのこと脅したんだよ!」


「いや、そうは言ってなかったわよ…?」


ルルカがそう言ったが、ティーナはそれを華麗にスルーして派手に騒いでいた。

キラはぽかんと口をあけて何も言えなかった。

キラはオズがそんなことをしたなんて信じられなかった。

けれど、この三人の態度を見たところ、本当のことのようだ。

もし本当だとするなら、どうしてオズはそんなことをしたのだろう。

そう思っている間ティーナはぶつぶつ文句を言っていた。


「くそ、シルクハットのくせに関西弁なんか話しやがってー!

 大体この世界観のどこで関西弁なんて覚えたんだよ!

 しかもあいつヤバいくらい強いんだけど!何、あいつ!

 きっとこの村普通にぶっ壊せるくらいすげー魔力だよ!?

 全くあいつどんな化け物…」


「え、待って。

 それってオズが自分で攻撃魔法使ったってこと?」


突然キラがティーナの言葉を遮った。

キラからしてみれば信じられないことが聞こえたのだった。ティーナの代わりにゼオンが言った。


「正しく言えば使おうとした、だけどな。

 けど使おうとしただけでも凄い魔力だったぜ。

 あいつが攻撃魔法使うのが何か問題なのか?」


「大問題だよ。だってオズって普段意地でも自分で攻撃魔法使おうとしないんだよ?」


「でも俺たちを脅すときは驚くほどあっさり魔法使ったぞ?」


そうだ、オズは普段、本を片付けたりする時に少し魔法を使うことがあったとしても、攻撃魔法は意地でも使おうとしない。

キラは結構昔からオズのことは知っているけれど、攻撃魔法を使うところは見たことがない。

魔物退治などをする時ですら、ルイーネに相手をさせたり、小悪魔を召還したりして、攻撃魔法を使おうとしないくらいだ。

そんなオズが攻撃魔法を使おうとするなんて一体何を考えているのだろう。

キラが困惑していると、ティーナがキラに聞いた。


「ねー、あいつの目的について何か心あたりない?」


わからない。わかるはずもない。

話せば話すほど謎は増えるばかりだ。キラはもう何が何だかわからず混乱していた。

本当にオズが三人を脅したりなんてしたのだろうか。

信じがたい話けれどこの三人の話にはなんとなく説得力があった。オズがそんなことをするとは思いたくない。

けれどなんとなくこの三人の話が嘘とは思えなかった。

そう思っているとふとゼオンがこの学校に転入したことを思い出した。

キラは顔を上げてゼオンに聞いてみた。


「ひょっとして…あんたがこの学校に転入してきたのもそのことと何か関係あるの?」


「そういうことだな。」


ゼオンはすぐにそう言った。

ティーナもルルカも表情を変えずに頷いた。

昨日の三人の横暴っぷりとは比べ者にならないくらい素直に頷かれて何も言えなかった。

けれど、そうだとしたらキラでもわかるくらい明らかにおかしいことが一つある。


「や、でもさ、入学するときにさ、その人がその…今までどんなことしてきたか…何て言うんだっけ…ヘキレキだっけ?

 それ調べ…」


「経歴だろ。調べられただろうけど何も言われなかった。どう考えてもおかしいよな。

 ついでに言うと学校側に経歴調べられたってことは、多分村の役人とかにも犯罪者が入ってきたことが伝わったと思うんだけどな…

 どうやら謎だらけなのはあのシルクハット男だけじゃないみたいだぜ。」


キラは驚きで言葉が出なかった。今まで何の疑問も持たずこの村に住み、この学校に通っていたからなおさらだった。

オズの謎の行動と学校側…村側の対応。どちらをとっても謎だらけだ。

なぜ、どうして。その二つが頭の中を駆け巡ったけれども答えは出なかった。

そう思っていると、突然ルルカがヒールの高いブーツでコツコツと音を立てながらキラの近くまで歩いてきた。

そして、近くの壁に寄りかかって、キラにこう尋ねた。


「それで?あいつは一体何なのかしら?

 何だかこの村では結構権力ある人みたいだけれど。」


それを聞いたキラは首をかしげた。

なぜオズが村の中で権力を持っていることを知っているのだろう。

不思議に思って聞いてみた。


「うう?何でオズが権力あるって知ってるの?

 たしかに村の中じゃちょっと上の立場みたいだけど。」


ルルカはティーナと顔を見合わせた。

そしてルルカは落ちついた口調のままで答えた。


「私とティーナが泊まってる宿の代金、あいつのおかげで95%カットですって。あり得ないわ。」


そいつは確かにありえない。タダ同然じゃないか。

宿屋の主人もきっと大損で大変だろう。絶対オズが何か言ったに違いない。

オズがその位の権力があるということは前から知ってはいたけれど。


ひととおり話を聞いて、ルルカの言うとおり、キラはオズについて知っていることを教えることにした。

この前脅された恨みはあるけれど、話を聞いていてキラもオズの行動に疑問を感じたからだった。その行動の理由を知りたいのはキラも同じだ。

キラはオズについてよく思い起こしながら話しはじめた。


「オズは、図書館の館長で昔からあたしの面倒よく見てくれたんだ。

 たしかルイーネと村の監視役の仕事もしてたよ。

 チェスが得意で、好きなものは紅茶で…」


キラは頑張って話していたつもりだったが、どうも今言ったことじゃ満足いかないらしく、ティーナとルルカは不満げな表情を見せた。

ティーナが口を尖らせながら言った。


「あいつの好みなんてどうだっていいよ。」


「だめね、やっぱり使えないわ、この子。」


ルルカも切り捨てるように言った。

少し腹が立ったけれども、確かによく知っている人物のはずなのにどんな人なのか聞かれると意外と答えられないのも確かだった。

オズは自分のことについてあまり話さない人だから。

何か手がかりになるようなことがないか、記憶の隅々を手当たり次第に探してみる。


「うーん、噂ならちょっとは聞いたことあるけど…」


「へーどんな噂?」


「え、本気でくだらない噂だよ?」


ティーナが興味津々で聞いてきたのを見てキラは少し焦った。

本当に笑いたくなるくらいくだらない噂だから。

けれどもティーナの様子を見て、どうもこれはその噂について言わなければいけない状況らしいなとキラは思った。

仕方なくキラは言った。


「えっと…オズが不老不死の薬持ってるとか、実はルイーネの中身は空洞だとか、オズの知り合いが神様だとか。」


ティーナの顔がみるみるうちに呆れ顔へと変わっていくわかる。

そしてやがて落胆と呆れの混じった表情になった。

ルルカとゼオンも馬鹿らしいとでも言うような顔をしている。

普通なら、そっちから聞いておいて何なんだと言うのだけれど、この場合仕方がない。キラでも馬鹿らしいと思うから。


「胡散臭いを通り越して何かの伝説に近いものがあるな。」


ゼオンも呆れていた。

たいした情報が得られなくて不満だったのか三人はため息をついた。

キラはオズについて他に何を知っているか何度も考えたが、結局わからなかった。

だが、やはり納得がいかないもやもやした感じは消えない。

こうなってくるともう、考えるのが馬鹿らしくなってくる。

もともと考えることは苦手だからしょうがないかもしれないとキラは思った。

そして、そう思ったキラはあることを決めた。


これ以上聞いても仕方がないと思ったのか、ゼオンが突然キラと反対の方向を向いた。

表情はいつもよりもさらに仏頂面で、少し不満げに見えた。

そして、学生寮へと向かう古い木製の渡り廊下へと歩き出そうとしたとき、キラは決断したあることを堂々と大声で言った。


「よっし、決めた!

 あたし明日オズのとこ行ってどういうつもりなのか問い詰めてやる!」


威勢のいい声が、床を踏むだけでキィキィいいそうな古い校舎にこだました。

三人の表情から落胆と呆れは消え、代わりに驚きの表情を浮かべながらキラを見ていた。

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