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ある魔女のための鎮魂歌【第1部】  作者: ワルツ
第7章:ゼロ地点交響曲
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第7章:第17話

一瞬のことだった。あの光の通り道だった所には塵一つ残っていない。

遠くにあるスカーレスタを取り囲む城壁まで突き破ったようで、城壁の向こうにだだっ広い更地があるのが見えた。


「……おい、お前の時と威力が桁違いなんだけど。」


ゼオンの声がする。キラ達は間一髪のところで商店の裏口から表の通りまで逃げ延びていた。

キラは首を傾げて言った。


「お前の時って?」


「お前があの杖のせいでおかしくなって俺と戦ったことがあっただろ。今の魔法お前があの時使った魔法と同じだ。」


「同じ!?」


同じ魔法でこの威力か。キラは改めて自分とサラの差を思い知った。そういえばサラは昔から何でもできる人だったなあと少し虚しくなった。

するとゼオンがぼそりと呟いた。


「あの時と似てる……。」


その時別の方向から魔法が飛んできた。ここは表通り。先ほどの攻撃は避けられたが代わりに目立ちやすい場所に来ていた。

キラ達はすぐに逃げ出す。が、やはりこの目立つ通りで逃げ道など無かった。追っ手が次から次へと集まってくる。

きっとサラもすぐにキラ達に攻撃してくるだろう。見たところここは商店街のようだ。様々なお店が並んでいるが曲がり道は無く、商店街の出口にはもう敵が集まり初めている。

捕まるのは時間の問題だった。するとゼオンが言った。


「二人共、一旦散って店の中とか逃げ回れ。しばらくしたら俺が赤い光を上げて合図を出す。

 そしたら急いでさっきのでかい魔法でできた道に出ろ。」


「さぁーっすがゼオン! なんか考えがあるんだね!」


ティーナが目を輝かせながら言う。キラもその言葉で少し希望が沸いてきた。が、次にゼオンが言ったことはこうだった。


「それで馬鹿女、店の中に油……あと小麦粉とか卵とか食べ物系とか特に粉もの……とにかくそういうものを見つけたら全部店の中とか道とかにぶちまけろ。あと窓全部割れ。」


「はい……いぃい!?」


わけがわからなかった。期待した自分が馬鹿だったとキラは下を向いた。


「ティーナ、お前は馬鹿女のやること手伝いながら、風の魔法でこの商店街中に風を通せ。」


「あー、そういうことかー……了解っ!」


ティーナはゼオンの計画を理解したようだがキラはさっぱり理解できない。

何故この状況で食べ物を粗末にするような真似をしなければならないのだろうか。

しかしゼオンは文句を言う暇すらくれなかった。


「さっさと行け。」


ティーナは早速店の方へと向かい、仕方なくキラも近くの店へと向かう。

三人の行く先がバラけた途端、追っ手達も分かれてキラ達に向かってくる。

この状況でどうしろと。そう思いながらもキラは近くの店に逃げ込んだ。途端に追っ手達の魔法で入口が爆発し、キラが割るより先に窓ガラスが全て吹き飛んだ。

とにかく追っ手に捕まらないようにキラは店の奥へと駆け込み、調理室らしき場所へ出た。

どうもここはパン屋らしく、焼きたてのパンがいくつも床に転がっていた。そうしている間にも何人もの大人達が武器を構えてやってくる。

ゼオンの意図はわからないが、今選択の余地は無い。キラはナイフを一つ調理場から借りて、倉庫らしき場所へと進んだ。

そこには沢山の袋が詰め込まれていた。キラは片っ端から袋にナイフを突き立てて破り、中身をそこら中にぶちまけ始めた。

袋を破る度に真っ白い粉が舞う。全て小麦粉だった。倉庫中の袋となるとちょっとやそっとの量ではない。

視界が白くぼやけながらもキラは全ての袋を破りきった。その時とうとう倉庫に敵が入ってきた。

この倉庫から外まで出るのは簡単ではないが選択肢はない。だがキラが身構えた瞬間、突風が吹き荒れ倉庫の壁が音をたてはじめた。

壁の木が破れ、屋根が吹き飛び始めた。壁の裂け目から外の様子が見える。そして倉庫のすぐ近くでティーナが風の魔法を使っているのが見えた。

キラは急いで裂け目から外に出る。そして別の店に入ろうとした時だった。


「勇敢だね弟君、かっこいー!1対1ってわけ?」


サラの声だ。通りの真ん中、杖を構えるゼオンとサラの姿が見えた。

ゼオンが呪文を唱え始める。それを見たサラも呪文を唱え始める。

戦いが始まる、不安で心配で思わず足が止まった時、上からティーナが降りてきた。


「ぼやぼやしないで、通りの反対側、あの店が染料屋のはずだから、あの店の染料の粉全部ぶちまけてきて。」


「染料でもいいの? というか何で染料屋の場所知ってるの?」


「へへ、実はここの商店街は昨日ゼオンと来たんだよねぇー。ほら行った行った!」


ティーナに背中を押されキラは走り出す。通りを横切れるのは今の内だ。

呪文の詠唱の間に急いで通りの反対側の染料屋へと入り込む。

その時二人の魔法が発動した。


「……星光よ降り注げ! リュミ・プルー!」


「…大地よ我に力を! ピマ・テレール!」


地面が揺れ、同時に。光が雨のようにゼオンに向かって降り注いだ時、地面が割れ、土が巨大な手の形をとって電撃を防ぐ。

だがサラはその間にも次の魔法の詠唱を始めていて、後を追うようにゼオンも次の魔法を使う。

純粋な魔法戦であるせいか派手な戦いで、少し油断すればこちらが巻き込まれてしまいそうだった。

その時、急に風が強くなった。今度はティーナの魔法だった。空から周りを囲むように風をまとわせて追っ手を弾きながら商店街中に風を巡らせていた。

風は商店街を囲むように渦を巻いている。まるで商店街の中と外を切り離そうとしているようだ。

キラもこうしてはいられない。素早く店の中に入り込み、店の染料をぶちまけだす。袋を破りビンを割り、終わったらまた別の店へと行き、次々と店の中をめちゃくちゃに荒らしながら追っ手から逃げる。

染料、砂糖、塩、石灰の粉……ぶちまけられるものは次々ぶちまけた。だがまだ合図の光は上がらない。

ゼオンが苦戦しているようだった。劣勢のゼオンを見るのはキラがあの杖で暴走した時以来だ。一見互角のようだが違う。少しずつサラの魔法に押し負けていっているのがわかった。

キラはゼオンの戦い方がいつもと違っていることに気づいた。そもそもいつも1対1の時は剣を使って戦うのに純粋な魔法戦を挑んだ時点で普段と違った。

だがそれだけではなかった。普段ゼオンは炎系の魔法をよく使うが、今日はなぜか地を操る魔法ばかりを使っている。

足元の地面が崩れだして砂となり、キラがぶちまけた小麦粉などと混ざり合い、ティーナの魔法でそれらが混ざり合って砂煙のように視界を悪くしていた。

念の為打ち合わせ通り、サラの魔法でできた道の方へと向かうが、キラは二人の戦いから目が離せなかった。

なぜ得意の炎の魔法を使わないのだろうか。こう視界が悪くては戦いにくいだけだろう。ゼオンに何か悪いことが起こらないか心配で仕方がなかった。

その時、サラが杖を槍に変え、ゼオンに飛びかかる。赤い光が上がったのはその瞬間だった。


光で目がくらんだのか一瞬サラの動きが鈍る。その隙をついてゼオンがその場から逃げ出した。

ティーナがすぐさま例の道に逃げ込む。後を追うようにキラもサラの魔法でできたあの道へと入り込む。

ティーナの風のコントロールのせいなのか、こちらは砂煙など全く無く、視界も良好だった。

ティーナが着き、キラが着き、最後に商店の裏口からゼオンが来る。そしてゼオンがマッチを取り出して火を点け、商店の中に放りこんだ瞬間。


小麦粉の煙に引火し、炎は一瞬で膨れ上がり巨大な爆発が起きた。しかもそれだけではなく隣の店も巻き込んで爆発はまだ続く。

やがて商店街全域を巻き込み、耳を突き破るような音と共に商店街は一瞬で火の海と化した。

キラはポカンと口を開けて呆然とその様を見ていた。するとゼオンが腕を引っ張って言う。


「馬鹿、逃げるんだよ。急げ。」


爆発の混乱で追っ手は殆ど来なかった。三人は急いで商店街から離れる。

キラは気になってゼオンに訊いてみた。


「ねえ、マッチの火だけでどうしてあんな爆発が起きるの?」


「ああ、それは……」


「あーゼオン、キラには粉塵がどーのなんて絶対わかんないよ。今は逃げるのが先っ!」


「……そうだな。」


「あーっ馬鹿にすんな、ばかやろーっ!!」


「要するに、小麦粉は燃えるんだ。」


「それじゃわかんないよ、ばかー!」


そこまで言った途端、ゼオンとティーナの様子が変わった。急に足を止めて武器を取り出して構える。

キラも足を止めた。正面に獣人と思われる人影があった。ここで仲間を呼ばれたら先ほどのあの爆発を起こした意味が無かった。空気が張り詰めていた。

が、その獣人は慌てた様子で言った。


「止めてください。敵じゃありません。僕です。」


陽の光が射して人影の顔が見えた。それはクローディアの従者のノアだった。


「ノア君! どうしたの?」


「マスターから辺りの偵察と、あと皆様を迎えに行くようご指示がありました。」


するとゼオンが尋ねる。


「屋敷はどうなってる? 姉貴の様子は?」


「屋敷の周囲には結界が張ってありますので僕やマスターには何の影響もありませんでした。」


「じゃあ屋敷の中はそれなりに安全ってことか?」


「精神操作のような補助魔法は結界で完全に防げるかと。ですが強力な攻撃魔法に耐えられる程の結界ではありませんので、安全とは言い切れません。

 しかし、そこに行けばある程度の時間は稼げると思います。少し休んだり、首都へ連絡をとったり、あとシャワーを浴びるくらいの時間は。」


そう言ってノアはキラの方を指差した。言われてキラは苦笑した。

先ほど小麦粉をぶちまけたせいで、髪の毛も服も真っ白になっていた。


「あと怪我の手当ても必要かと。」


ノアがゼオンを指差した。何事も無いように振る舞ってはいたが、頬、腕や足など、重傷ではなさそうだが血が滲んでいるのが見えた。


「屋敷にご案内いたしますので、皆様僕についてきてください。」


走り出すノアの後をキラ達もついて行く。屋敷に向かう途中、目の前を走るゼオンの傷の赤が気になった。

一方のキラは多少のかすり傷はあるがほぼ無傷。サラの復讐を止めると言い出したのはキラだったはずなのに、ゼオンばかりが傷ついていた。

キラはため息をついた。適わないなと思った。そしていつかこの人を助けられるくらい強くなりたいと思った。


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