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ある魔女のための鎮魂歌【第1部】  作者: ワルツ
第7章:ゼロ地点交響曲
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第7章:第16話

無事ゼオン達と合流してほっとしたのもつかの間、さすがに敵の本拠地から逃げ出すというのは容易なことではなかった。

空には隠れる場所が無い。相手からすれば実に狙いやすい的だ。ゼオンが箒を操り、ティーナが魔法で敵からの攻撃を防いでいたがそう簡単に逃げられそうではなかった。

下からは弓矢や銃を持った獣人 達。キラ達の周りには同じく魔法で空を飛び回る魔術師達が居る。

なんとかうまく対応しながらブランの街を抜けようと試みるが立ちはだかる敵が多すぎた。


「まずいよゼオン、どうする?」


ティーナがゼオンに訊く。ゼオンは冷静に周りを見回す。ゼオンの手に今日はなぜか魔法陣が浮かび上がっていた。

手の魔法陣がまだ光を失っていないことを確認してから、ゼオンはキラに言った。


「お前、空を飛ぶのは得意なんだよな?」


「うん、まあまあ。」


「じゃあ飛ぶのやってくれ。それでティーナ、杖貸せ。俺まだ無詠唱で魔法が使えるから、そいつらの片付けを俺がやる。いいか?」


「わかった。」


「りょーかいっ!」


そう言うとゼオンは箒の上に立ち上がり、先頭から一番後ろへと飛び移る。キラが先頭に座り、ティーナがゼオンに杖を渡した。

そうしてる間にも敵は三人の周りに集まってくる。気がつけば反乱軍兵達に囲まれてしまっていた。


「順番変えてるうちに囲まれちゃったよ?」


「でも多分この方が適任だろ。」


ゼオンは杖を前方へと向けて言う。


「敵が居なくなったら一気に突っ切れ。いいな?」


「わかった!」


キラが言うと同時に三人の周りに三つの魔法陣が浮かび上がった。赤、青、黄、三色の魔法陣が盾のようにキラ達を囲む。

同時に敵は一斉に弓矢やら銃やらを撃ってきた。だがキラは知っている。ゼオンの凄さを。

頭上に四つ目の魔法陣が浮かんだ。同時に放たれた矢と銃弾の勢いが死に、動きを止めてしまった。

相手が顔色を変えた瞬間、三色の魔法陣が一斉に輝き出す。炎、氷、雷、三つの魔術が同時に発動し敵全てを撃ち落としていく。更に四つ目の魔法陣の輝きはまだ失われず、敵の動きを止めて逃げ場を無くしていく。

敵は次々と地に落ち、キラの正面に立ちはだかる者は居なくなった。続けてゼオン杖を正面に向けると真っ赤な炎が盾のように正面に現れた。


「行け!」


キラは出せる限りのスピードを出し何も考えずに飛び出す。ゼオンの盾とキラのスピードと、二つ合わされば適う者など誰もいない。

あっという間にブランという街ははるか後ろ後ろへと離れていって見えなくなった。

もう追っ手は来ないだろう、そう思うくらい進んだ所でゼオンは杖を下ろしてティーナに返した。

久々に上空から見た夜明けの空は鮮やかな朱色とまだ眠たそうな薄紫が合わさってとても美しかった。

ゼオンが行く方向を指さす。その方向には遠くに街が一つ、黒い点々のように見えた。

ようやくほっとしてキラは口を開いた。


「ふぅー……よかった。ごめん、また迷惑かけて。」


「いいっていいって。今回は仕方ないよ。ね、ゼオン?」


ティーナが言うとゼオンは少しそっぽ向きながら頷く。キラは聖堂から連れ出されたあの瞬間のことを思い出した。珍しくゼオンがはっきり「キラ」と名前を呼んだなと、キラは少し笑った。

そういえば、とティーナがゼオンに言った。


「ゼオンさっきのあれ、凄かったね。あれいくつ?四つ同時?無詠唱ってだけであんなにバンバンいくつも魔法同時に使えるもんなの?」


「バンバンって程じゃねえけど。いくつかは。」


「いいな、補助魔法も同時に使えるの便利だね。あたしもその魔法練習しようかなあ。」


「……でもあまり魔法の同時発動はしすぎない方がいいかもしれない。思ったより疲れる。」


杖を下ろしたゼオンは少しため息ついて腰を下ろした。ゼオンがそんなことを言うのは初めてだった。

無事合流できたというのに何かが納得いかないようで、考え事でもしているように俯いていた。

キラは街の方向に順調に箒を進めていった。そこにクロード家の別荘があり、クローディア達が来ているという話も聞いた。

街の周りには城壁のような壁があるのでキラ達は下に降りた。全員が箒から降りると箒は勝手に赤い宝石の杖へと戻った。キラは杖をゼオンに返した。


「あとは、街に入ってゼオンのお姉さんのとこに行けばいいんだよね?」


「そうだな……。」


どうもゼオンは何か納得がいかないようだった。どうしたのだろうと思った時だった。急に何かに気づいたようにゼオンが顔を上げて街の中の城を見上げた。

突然城が金色に光り始めた。その光は目が開けないくらいに強く、街中を包み込んだ。

嫌な予感がした。目を瞑り、光が消えるまで立ちすくんでいるしかない。

光が消えると、ゼオンとティーナはまた杖を強く握り、険しい表情で街を見つめた。


「今のは……スカーレスタの城で誰かが魔法を使ったってことでいいよね? ……とびっきりのやつを。」


「ああ、そうだろうな。」


すぐに街の中へと駆け出す。街の入り口の門に見張りは居なかった。ゼオンとティーナの表情が更に険しくなる。

慎重に街内部の様子をうかがいながら門を抜ける二人の後をキラもついていく。キラ達は真っ直ぐクローディアの屋敷には行かず、建物の影からスカーレスタの街の様子を確認した。

普通じゃない、キラでさえそう思った。街に人が居ないのだ。少しずつ街内部に進んでいき、沢山の商店なども見えてきたが人が一人も居ない。


その時、ゼオンが二人の肩を叩いてあの城へと続く道を指差した。

住人達と思われる人々が数人、城の方へとふらふら歩いて行くのが見えた。道の脇にはスカーレスタの兵士が居て、住人達を脅すように武器を向けている。

住人達は兵士達に言われるがままに城へと向かっていた。明らかな異常事態だ。するとゼオンが言った。


「兵士も住人も様子がおかしい……。誰かに魔法か何かで操られてるんじゃないか?」


よく見ると兵士も住人達も目に光が無い。虚ろな目をしてどこか力が抜けたような動きをしていた。

ゼオンの言う通り、誰かに操られているのだとしたら、明らかに怪しいことが先ほど起こったばかりだ。ティーナが言った。


「さっきのなんか凄そうな魔法……あれで街の人達が操られちゃったってことでいい?」


「その可能性が高そうだよな。」


「このままゼオンのお姉さんのとこ行って大丈夫かな? もし……」


その時、突然ゼオンが杖を剣に変えて後ろを振り向いた。つられてキラも振り向いた瞬間、剣と何かが強くぶつかり合う音が鳴り響いた。

キラのすぐ真後ろで剣と槍が競り合っていた。その槍を手にしている人物を見てキラは思わず叫んだ。


「お姉ちゃん!?」


一旦後ろに退き、サラは近くにあった木箱の上に座り込む。ニコッと微笑むと、手にしていた槍の形が変わった。

それは黄色い宝石のついた古い杖――キラの杖だった。サラはゼオンに笑って言った。


「やっほぅ、ディオン様の弟君。久しぶりだね。」


「……随分乱暴な挨拶をするようになったんだな。真っ先に話しかけるのが馬鹿女じゃなくて俺ってことは……喧嘩でも売りに来たのか?」


サラの目に異様な笑いが浮かんでいた。もうすぐ、もうすぐ事が起こると言っている。キラはゼオンとサラの間に入って言った。


「お姉ちゃん止めてよ! 反乱なんて復讐なんて止めて! この復讐に意味なんてない!」


「キラは黙ってて。このことに関わらないで。逃げてきちゃったなら村に帰ってよ……傷つくだけだから。」


もう傷つかない逃げたくないお姉ちゃんは傷つかないのどうしてこんなことするのどうしてどうして……言いたいことが山ほどあった。

だがサラの目を見ると、キラがもう何を言っても止まらないことが嫌でもわかった。

するとティーナが出てきた。


「ちょっと、どうしてあんたがそんなに堂々とスカーレスタに入ってこれるの。」


「わかんない? ……じゃあそれは弟君に訊いてみなよ。もうわかってると思うからさ。」


サラはそう言うと杖をキラ達に突きつけた。見たことのないサラがそこに居る。真顔で何かが壊れたような目をして言う。


「三人とも、今すぐ村に帰って大人しくしててくれないかなあ?」


その先の言葉が見える気がした。黄色い宝石がもう光を放ち初めている。

怖かった。だがゼオンとティーナに助けてもらっておいて、今更逃げるわけにもいかない。


「いやだ。」


キラははっきり言った。サラが諦めたように深くため息をついた。

その時ゼオンが突然キラとティーナの腕を引いて路地裏へと走り出した。

つられて走り出したとたん、銃声が鳴り響き、キラのすぐ後ろに銃弾が撃ち込まれる。

キラは撃った人物を見て目を疑った。スカーレスタの兵士がキラ達を狙っていたのだ。しかもその後にキラ達を追いかけてきたのは反乱軍側の兵達だ。

どうしてスカーレスタ兵も反乱軍兵もキラ達を追ってくるのか。状況がわからない中サラの声がした。


「あの三人を捕らえて!」


反乱軍兵もスカーレスタ兵も一斉にキラ達に向かって攻撃し始め、追ってきた。キラは逃げながらゼオンに尋ねた。


「ゼオンゼオン! これどういうこと!?」


「スカーレスタ兵達を操っているのはお前の姉だってことだよ。どうしてこんなことになったかはわかんねえが、もうスカーレスタはサラ・ルピアの手中にあるってことだ。

 いいか、ここはもう敵地だ。とにかく逃げるぞ。」


その時、背後に強い光を感じた。街に来た時に見たあの金色の光と同じだ。

サラが呪文を唱える声がする。魔法がくる。ゼオンが冷静に言った。


「……でかいのが来るな。どうにかして避けろ。」


「どうにかってどうやって!?」


ちらりと後ろを見ると雷をまとった巨大な剣がスカーレスタの空に浮かびあがっていくのが見えた。

まずい。避けようにもここは一本道の暗い路地裏。ただサラから離れるだけで避けられるような魔法ではないことは目に見えていた。

急にゼオンがキラとティーナに合図を送る。そして商店の裏口らしき扉を指差す。

その時金色の光がカッと強くなった。来た。


「エペ・トネール・コロッサル!」


それは一瞬のこと。金色の剣は家々を巻き込み突き進み、とてもきれいな一本道を作ってスカーレスタの街を真っ二つに斬り裂いた。

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