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ある魔女のための鎮魂歌【第1部】  作者: ワルツ
第2章:へっぽこ魔女の武勇伝
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第2章:第3話

「なんであんたここにいるんだ! 答えろ答えろ答えろぉ!!」


キラの怒鳴り声が教室中に響いた。

教室中の視線がキラに集中している。

全員困惑したような表情でキラを見たまま動かない。

それなのに、その視線を華麗に無視してキラはさっきからゼオンに怒鳴りながらキックを連敗していたが、キックは全てよけられていた。

よけられたキックは全て教室の壁に当たるため、壁がさっきからミシミシ音を立てていた。

壁が崩壊寸前なのにもキラは気づかない。

それをリーゼたちが心配そうに見ているのだが、キラはそれにも気がつかなかった。

キラの中で渦巻いている事柄は一つしかなかった。

わからない。本当にわからない。

何でこいつがここにいるんだ。

なんで入ってきたんだ。なんでこんなにすんなり入ってこれるんだ。

頭の中の疑問符は増える一方だった。

そう思っているとゼオンが退屈そうな顔をしてキラのキックをひょいひょいかわしながら言った。


「うるさいな。

 そんな理由なんでわざわざ言わなきゃならないんだ。」


「言わないで納得するわけないだろがぁ!

 この根黒魔法使い!」


「根黒じゃなくて根暗じゃないのか?

 お前ほんとに馬鹿なんだな。」


「きー!あんたに言われるとすっごいムカつくんだけど!」


キラは悔しそうに言うと、今度は連続パンチを繰り出し始めたが、それも全てよけられていた。

その様をリーゼ、ロイド、ペルシアの三人が呆然として見つめていることも気づいていなかった。

ペルシアとロイドはぽかーんと口を開けながらわけがわからないと言うような様子でその様子を見ていた。

そして、リーゼは困ったような顔でおどおどとその様子を見ている。

ペルシアが二人のほうを指差しながらリーゼに聞いた。


「あの…お友達ですの?」


「その…この前ちょっとね…」


リーゼはそう言って苦笑した。

そう言っている間にボカッという音がして、キラのパンチで壁に穴があいた。

ペルシアとリーゼは「あーあ。」と声をあげた。

ロイドが少し迷惑そうに言った。


「おい、キラぁ、壁に穴あけるのはやめろよ。

 直すの俺たちなんだからな。」


けれどもキラは聞いている気配すらなかった。

「だめだこりゃ。」とロイドは言ってため息をついて下を向いた。

ペルシアもため息をついた。

二人ともお手上げの様子だった。

すると突然リーゼが二人の間を通り抜けてキラの方へ歩いていった。

そしてキラの肩を軽くたたいて言った。


「ほら、キラ、そろそろやめて。

 ゼオン君も困ってるだろうし。」


キラは手を止めてリーゼの方を向き、ぷぅと頬をふくらませて言った。


「でもっ!

 あたしはこいつから話を聞かないと納得いかなーい!」


「うん、でもね、ゼオン君にペルシアやロイドのこと紹介してあげなくちゃいけないし、学校のことも教えてあげなくちゃ。

 そういうことがひととおり終わって落ち着いてから聞いてもいいんじゃないかな?」


「う、うー…」


正しすぎる。反論ができない。

仕方なくキラは手を止めておとなしくした。

そしてゼオンに何か言おうとしてもう一度反対側を向いた時、ゼオンの後ろの壁に目が行った。

拳一つ分くらいの穴がいくつも空いている。

なんでこんなことになっているんだろう?

キラがきょとんとした顔をしているとゼオンが言った。


「ああ、あの穴か?

 お前があけたんだ。気がつかなかったのか?」


次にロイドたちの方を向いてみる。

二人は、キラを止めたリーゼの方を崇めるような目つきで見ていた。

教室を見回してみると、クラス全員の視線がキラに集中していた。

そしてやっとキラは自分が大騒ぎをおこしていたことに気づいたのだった。


「あ、あれー…」


「あれーじゃありませんわよ!この壁どうしてくれますの!」


「あう…すんません。」


キラはしょんぼりと下を向いた。

ペルシアは困った様子でため息をついた。

ロイドとリーゼも苦笑していた。

そしてペルシアは今度はゼオンを見た。


「お騒がせしましたわね。

 ところで転入生さん、お名前は何といいますの?」


ゼオンはすぐに答えようとしなかった。

少し間があいた後にゼオンはそっぽを向いて冷たく言った。


「煩いな、目障りだ。馴れ合いになんて付き合ってられない。」


ペルシアはぽかんとした様子でしばらく動かなかった。

周りのクラスメート達のひそひそ声も聞こえてきた。

キラはため息をつく。馬鹿はどっちだ。

普通この場面でそう言う奴があるか。

こんなに決定的に社交性が欠けている奴をキラは初めて見た。

ゼオンがどこかへ行ってしまおうとした時、キラはゼオンの服を引っ張って言った。


「だめだな、もう!

 こういう時は普通に名前言えばいいの、わかる!?

 あーペルシア、こいつ…ゼオン・S・クラウドだっけ?そんなような奴。」


「…クラウドじゃなくてクロードでしょ。」


リーゼが訂正した。ゼオンは少し不愉快そうだったがリーゼはにこりと笑うだけだった。

それを見たキラはゼオンの目の前まで出てきた。


「やいっ、どうしてこんなとこに来たのかは知らないけどね、ここは学校なんだから変なこと起こさないでよ!」


キラは指をさしてゼオンに言った。

ゼオンは相変わらず無表情のままで、わかっているのかいないのかよくわからない。

教室の中をぐるりと見回してゼオンは呟いた。


「学校…か。」


見慣れない物でも見たかのようだった。

その時ペルシアが二人の方にやってきた。

一時は驚いていたようだったが落ち着いたようで、再びゼオンの前にやって来ると言った。


「ペルシア・P・サリヴァンですわ。よろしく。」


笑ってそう言うと、キラの方を見てまたクスクス笑って行ってしまった。

キラはわけがわからなくて首を傾げたがペルシアは答えてくれなかった。

ようやく周囲のクラスメート達も落ち着いてきたあたりで、ゼオンがキラに訊いた。


「……おい。」


「何?」


だがすぐにゼオンは答えなかった。


「どうしたの、早く言ってよ。」


「…寮ってどこにあるんだ?」


「へぇ、あんた寮使うの?」


キラは少し驚いて言った。

寮を使う生徒はそう多くはない。


「悪いか?」


「別にそういうわけじゃ…ちょっと意外だっただけだって。」


キラは苦笑した。本当に話しづらい奴だった。

無口冷淡で社交性無し。どう考えてもわざわざこんな場所に来るべき人ではないのにどうして来たのか不思議で仕方がない。

とりあえず寮の場所を教えようとした。


「えっと、2階の資料室の前の廊下をまっすぐ行くと渡り廊下が…」


「資料室ってどこだ。」


「それはそこの廊下をまっすぐ行って曲がって…」


「どっちにだよ。」


「右だよ右。もう、何もわかってないなあ…」


ゼオンは無視した。リーゼが苦笑して言う。


「しょうがないよ。まだ来たばかりなんだから。ついでに校内のことも教えてあげたら?」


「えー!やだよ、リーゼが教えなよ!」


キラの頬が膨れる。昨日のことのせいもあって、キラはゼオンとあまり話したくなかった。

それに、何となくゼオンを見ていると少しだけ嫌なのだ。それがどうしてだかはわからないけれど。

だがゼオンは少し考えこんだ後に言った。


「別に俺は馬鹿の方で構わない。」


「誰が馬鹿だよ!」


キラはゼオンをぽかぽか殴ろうとしたがあっさり避けられてしまった。

その時、先ほどまで空気気味だったロイドがやってきた。

そして突然リーゼを引っ張った。


「なあ、なんか放課後用があるって奴が来てるよ。」


そうしてリーゼはあっという間にロイドに引っ張られて行ってしまった。

また救いの天使様はどこかに行ってしまった。

キラはガックリと俯いた。

ゼオンの転入。どうしてそんなことが起こったのか理解不能だ。

とりあえずわかることは、ついこの間までの『普通』の日々は当分戻らないということだった。



◇ ◇ ◇



コツコツという足音が2つ廊下に響く。

放課後のオレンジ色の混じった光が窓から射し込んでいる。

本来ならもうとっくに家に帰っている時間帯だ。

けれど今日、キラはまだ学校にいた。ゼオンに校内を案内しなければならないからだった。

キラはため息をついた。どうしてこうなるのだろう。

キラはゼオンを連れて校内を歩き回って、校内のどこに何があるのかを教えていた。


「えっとここの突き当たりが職員室で、

 あっちの渡り廊下の向こうが学生寮。 それであっちがぁ…ってあんた聞いてる?」


「…ん?ああ、悪い。」


どうやら話を全く聞いていなかったらしい。

窓の外なんか見て、考え事でもしていたのだろうか。

キラは怒りながら今の説明を一からやり直し始めた。

全く、校内案内なんて面倒くさい。

やっぱりペルシアかロイドに押し付けて帰れば良かったかなとキラは後悔した。

しかもゼオンの場合、何も言わずにただキラの説明を聞いているだけなので余計にやりづらい。

もう少し会話の弾む相手とだったらやりやすかったのだけれど。

そう思いながら説明を続けていると、黙っていたゼオンが不意に言った。


「一つ聞いてもいいか?」


「はいはい、何?」


「…やっぱり後でいい。」


自分で言い出したくせにゼオンはそう言った。

何か聞きたいことがあるなら素直に聞けばいいのにとキラは思った。


「何さ?とっとと言ってよ。」


「別にわざわざ今聞く必要はないと思っただけだ。」


「そんなのどーだっていいって。」


そう言われたゼオンが何か言おうとした時、キラの肩を後ろから誰かがたたいた。

キラはすぐに後ろを振り返った。

そこには髪が長く、赤い目の少し年上の女子生徒がいた。

キラはその人を知っていた。キラの先輩のショコラ・ホワイトだった。


「キラちゃん、こんにちわ。放課後なのにどうしたの?」


ショコラは優しくそう言った。

キラは笑顔で答えた。


「あ、こんにちは!

 ちょっと今日入ってきた転入生に校内案内してるとこなんです。」


キラがそう言うと、ショコラはゼオンの方を見た。

そして今度はゼオンに言った。


「今日男子寮に入ってくる子って君のこと?

 えーと、たしかゼオン君だったっけ?

 私はショコラ・ホワイト。

 もしわからないことがあったら何でも聞いてね。」


ショコラは優しく笑ってそう言った。

ゼオンはとりあえずは「よろしくお願いします。」と言ったが、かなりぶっきらぼうな言い方だった。

もう少し愛想よく言えないのかとキラは思った。

そのとき、また誰か別の人物の声がショコラの向こう側から聞こえてきた。


「ねぇ、何してんの?

 早くしないと購買閉まっちゃ…」


その声の主である女子生徒はキラとゼオンを見ると急に喋るのをやめた。

女子生徒、と言ってもその少女はどちらかというと男っぽい顔つきで髪もショートカットなので、初対面だとすぐに女とはわからないかもしれないけど。

ショコラ・ホワイトはその女子生徒を見つけると言った。


「あ、ショコラ。

 ごめん。ちょっと話してたの。」


それを聞いたゼオンが少し不思議そうな表情を見せた。

それに気づいたのか、ショコラ・ホワイトはゼオンに言った。


「あ、ちょっとびっくりした?

 この子はショコラ・ブラック。

 同じ名前だからちょっとややこしいのよね。」


キラはブラックの方を向いて挨拶をしたが、すぐにそっぽを向かれてしまった。

実はキラはホワイトとはよく話すのだがブラックとはあまり話したことがない。

だからショコラ・ブラックのことは正直キラは無愛想な人ということしかわかっていなかった。

いつもならブラックはすぐに去っていってしまうのだが、今日はなぜか立ち止まった。

そしてゼオンの方を見て言った。


「…ひょっとして転入生って君?」


「そうですけど。」


ゼオンはぶっきらぼうにそう言った。

その様子を見てて、なんだかゼオンとブラックは少し似てるなとキラは思った。

このまま二人が黙りこくっていてもしょうがないのでホワイトが言った。


「じゃあ、ノート買いに行かなきゃいけないから、またね、キラちゃん。」


ホワイトはにっこり笑ってそう言うと、ブラックを連れて歩いていった。

やたらたくさん人が出てきますが、この二人のショコラがこの章のキーキャラで後の重要人物です。

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