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ある魔女のための鎮魂歌【第1部】  作者: ワルツ
第7章:ゼロ地点交響曲
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第7章:第9話

「姉さん、本当にいいのか?」


「いいからさっさとなさい。時間無いわよ?」


仁王立ちしたクローディアがディオンを指差しながら言う。

基地に行った後、ディオンだけ先に首都に行く。どうやらその方向で話はまとまったらしい。

ちょうどゼオンとティーナは荷物を置き、また入り口に戻ってきた所だった。クローディアは早速二人に言った。


「じゃあ、ディオンは基地で捜索の依頼が終わったらそのまま首都に行くけど、あなた達はまたここに戻ってきてちょうだい。」


「わかった。兄貴はそれでいいんだな?」


ディオンはため息ついて言った。


「……わかった。心配だけど、自分の役目は果たさなければならないしな。」


「そうか、じゃあ行くか。」


そう言って、三人は屋敷を出て、またスカーレスタの街に出た。


「いってらっしゃい。」


今日のクローディアの声は優しかった。



◇ ◇ ◇



街の中心部に行くにつれて道行く人の数が多くなっていく。軍人の多い街だった。

ウィゼートの他の地域と比べると、人は多いが街の造りや店に並ぶ品に個性が無くあまり面白味が無い。

この街自体が「基地」であるかのような機能重視の街だった。

いかにこの街がウィゼート国にとって軍事的に重要なのか、ゼオンは人が通り過ぎる度に思った。

一体サラ・ルピアはどうやってここを落とすつもりなのだろうか。そこが少し気になった。


「ここだよ。」


ディオンの声と同時に立ち止まり、目の前にそびえ立つ城を見た。

これまた「軍事用」の単語が見えそうな、随分と丈夫そうな城だった。飾り気など全くなく、周りに硬い城壁がある、黒と灰色だけでできた地味だが大きな城だった。

ディオンは入り口の警備員に話を通す。クロード家の権限というものはやはり強いらしい、持ち物の検査などの検査はあったが、入る許可が出るのは早かった。

中を一言で言い表すなら「地味」だ。貴族などのお偉いさんを入れる気あるのかと疑うくらいの利便性重視の内装だった。

ゼオン達は客間らしき部屋に案内された。そこはさすがに貴族をもてなすような洒落た造りだったが、やはり他の街などの屋敷に比べると比較的地味だった。

案内された部屋の椅子に座り、基地側の人物が来るのを待つ。そういえば、と思い、ディオンに訊いた。


「ここの人達に協力してもらうってのはわかったけど、キラの捜索にどれくらいの人員を裂く気だ?」


「そうだな……」


その時、何故か急に寒気を感じて入り口を見た。ディオンが不思議そうにこちらを見る。


「……どうした?」


「……いや、何でもない。」


その時、扉が開いて若い青年が入ってきた。黒髪黒目の青年で、耳で金のピアスが光っているのが何故か気になった。

ここのお偉いさんにしては随分若い。ディオンも当主としてはかなり若い方だが、ディオンと同じくらいの歳に見える。

だがここを仕切るだけの実力はある。部屋に入ってきた時の雰囲気からすぐわかった。

落ち着いていながらも隙を見せることはない。どこか含みのあるようなそんな目をしていた。

青年はゼオン達の正面に座る。そしてゼオン達に自己紹介した。


「お待たせいたしました。ここを取り仕切っておりますエリオット・アレクセイです。」


「すまないな、急に。用件は昨日伝えたとおりだ。」


「はい、キラ・ルピアという少女の捜索、保護ですね?」


「そうだ。あと手遅れかもしれないが……その少女の所有物である杖も、もし見つけられたら取り返しておいてくれ。黄色い宝石のついた長めの古い杖だ。」


「かしこまいりました。……失礼ですが、そちらのお二方は?」


エリオットはゼオンとティーナを見る。


「紹介がまだだったな。ゼオン・S・クロードとティーナ・ロレックだ。ゼオンは俺の弟だ。」


「ゼオン・S・クロードとティーナ・ロレック……!? というと、逃亡中の犯罪者では……!?」


驚きの色がエリオットの目に浮かぶ。国内でゼオンとティーナの名前は知れ渡っていたようだ。エリオットの目つきが変わるのも当然だった。

だがディオンは落ち着いていた。


「まあ、そこには訳があってな。くわしく聞かなければ納得ががいかないようなら話すが?」


「……いいえ、結構です。おそらくクロード家内部の事情が関わってくるのでしょう?

 私のような者が根ほり歯ほり尋ねていいようなことではありません。

 ですが、なぜディオン様と一緒にいらっしゃるのか、それだけ伺ってもよろしいですか?」


「そうだな、そこは言っておくべきだ。簡単に言うと陛下からキラ・ルピアとこの二人と、もう一人ある少女を保護するように言われた。

 反乱軍に強力な武器が渡るのを阻止するためにな。」


そしてディオンはその内容についてエリオットに話した。その時のディオンはクロード家の「当主」の顔をしていた。

変わらないものも、変わっていくものもあるんだなと横顔をちらりと見ながらゼオンは思った。

ディオンが話し終わると、エリオットが言った。


「なるほど、事情はわかりました。ならば、このスカーレスタの者共が全力でキラさんを捜索いたします。」


何故だろう。なんとなくゼオンはそれが納得いかなかった。腑に落ちないとでも言うべきか。ゼオンはエリオットに言った。


「いや……ブランへの道案内。それだけでいいです。」


エリオットの顔つきが変わった。


「道案内だけって……」


「あいつの捜索は俺とティーナの二人で十分だってことです。」


これにはディオンも黙ってはいなかった。


「たった二人で敵陣に乗り込む気か?」


「黙れクソ兄貴。いつ反乱軍が攻めてくるかもわからない中で、ここを手薄にしておく方が問題だろ。

 ここの人達は、襲撃に備えることに専念すべきだ。それに大勢で行くと身動きが取りづらい。少数の方が動きやすいんだよ。」


「そうは言うが、反乱軍の本拠地がたった二人で突破できるような場所だと思うのか?」


「杖の力で暴走した時のあいつに比べたら、まだやりようがある。」


「まだその場所を見てもいないのにそれを言うか……?」


ディオンはそう言ったがゼオンは引き下がる気はなかった。

ディオンを睨みつけて目を離さなかった。ディオンはしばらく納得いかないような顔をしていたが、やがて諦めたように言った。


「……仕方ない。じゃあそうしてやってくれ。」


「いいのですか?」


「言っても聞かないさ。大丈夫、二人共何年も国から逃げ続けてきたくらいだからな、まずくなったら多分うまいこと逃げるだろ。」


エリオットは険しい顔をして一度こちらを見た。それからディオンに言う。


「わかりました。道案内の兵だけをつけさせましょう。ブランに向かうのは明日の明朝がよろしいかと。」


「明朝? 夜中の方が襲撃しやすいのでは?」


「相手は主に獣人です。身体能力は勿論、聴覚や嗅覚も他の種族より優れているので、視界が悪い夜中だとむしろあちら側が有利なのですよ。」


「なるほどな。ゼオン、どうだ?」


「構わねえけど。」


獣人のことについてゼオンは詳しくない。あちらの方がそのことには詳しいだろうから口は出せなかった。

ゼオンが特に文句を言わなかったので、ディオンは席を立って言う。


「なら、よろしく頼む。」


「もう行かれるのですか?」


「ああ、すぐに首都に戻らなければならないからな。二人とも、行くぞ。」


部屋を出て行くディオンの後をゼオンとティーナはついて行く。話はまとまった。あとは明日の為に備えるべきだ。

エリオットと数名の兵士が見送る中、ゼオン達は基地を後にした。

エリオットの耳の金のピアスが何故か最後まで気になった。


そのまま基地を出てしばらく歩き、ゼオン達は街の中心部に出た。軍事の街とはいえ、中心部には一般人も居て、活気があった。

蒸気の音がした。少し離れた所に駅が見える。ちょうど電車が来た所だ。ディオンが一度駅を見て、それからまたこちらを見た。

ここでディオンとは別れることになる。


「じゃあ気をつけろよ。厳しそうなら無理せず援護を頼め。いいな?」


「いちいちうるさいバカ兄貴。とっとと行け。」


するとティーナがやけに楽しそうに言った。


「『心配しなくても大丈夫だから早くお城に行って王様の力になってきてくれ』だってよ! をじゃあ頑張って……」


「黙れティーナ。」


そう言ってティーナを睨みつけた。ディオンはやれやれとため息をつく。


「じゃあな。頑張れよ。」


そう言って、ディオンは駅の方へと向かった。ゼオンに背を向けたディオンの姿は、もう「兄」ではなかった。

反乱の時は近い。止める為にはまずキラを見つけなければいけない。そう思いながらゼオンはディオンを見送った。

サラを止められる可能性がある人は、キラしかいないと思うから。同じく10年前に両親を失ったキラしか。

ディオンの姿が見えなくなると、ゼオンはすぐに駅に背を向け歩き出す。

向かった先は屋敷ではなく商店街の方だった。ティーナが不思議そうに訊く。


「お屋敷に帰るんじゃないの?」


「帰るけど、ちょっと寄り道。」


日用品や食べ物、そして武器も並んでいた。


「せっかくこんなに店があるんだ。使えるものは買っておくべきだろ。」


「ああ、そういうことか。……そうだ、お金持ってきたの?」


ゼオンは足を止めた。そういえば荷物は屋敷に置いてきたのだ。が、その時ポケットにあるものがあることを思い出した。


「ここ、クロード家の領土のはずだからこれでいいだろ。」


「……おおっ、ゼオンも悪よのうー。」


ティーナが悪代官のような笑いを浮かべた。それはクロード家の紋章だった。ヴィオレでクローディアに借りたものだ。

そうして二人は早速商店街の中に歩いていった。


「ルルカ達どうしてるだろうね。仲良くやってるかなー?」


「ルルカにセイラにあのチャラい獣人の組み合わせで仲良くなると思うか?」


「……たしかに、そうだね。」


そんなことを話しながら買い物へに向かった。


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