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ある魔女のための鎮魂歌【第1部】  作者: ワルツ
第7章:ゼロ地点交響曲
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第7章:第7話

全て終わりになる。その言葉の意味を理解できる人などなく、オズがセイラの忠告を聞き入れることもなく、ちっぽけな声は虚しく部屋に響き渡った。

顔を上げ怒鳴り、訴えるようにオズを見るセイラを見て、ゼオンはこの言葉に嘘はないと確信した。

だがオズはこう言う。


「お前の言うことなんて信用できへん。俺は俺の好きにやらせてもらう。」


「駄目だ……! どんな手を使ってもお前をブランに行かせるわけにはいかない…!」


「どんな手を使っても? おもろいな、けどそれはこっちも同じやってこと、忘れるんやないで。」


「お前……!」


ゼオンは言った。


「セイラに賛成。」


一瞬で音が無くなった。オズの苛立ちの目、ぽかんとしたセイラの目、二つの目がこちらを向く。

ゼオンは二人の間に入り、セイラに背を向けオズと対峙した。オズが言った。


「お前は中立かと思っとったけどな。」


「どちらの側か気にすること自体、馬鹿馬鹿しいと思うけどな。」


「何も知らん奴が口出しすることやない。」


「そうだな、俺は何も知らない。けど少なくとも5人の人が本気でお前が行くことを反対しているわけだ。それなりの理由があるってことくらいはわかる。」


セイラ対オズがゼオン対オズになった。何故だかわからないが、オズがブランに行くこと――それだけは止めなければならないと感じた。

だが何と言えば止まるかわからないあたり、やはり自分はまだまだ自分だなと感じた。

オズは退く気配はなかった。


「推測でわかったような口利かれても困るな。」


「じゃあ推測で一つ訊くけどな、お前何が目的で行く気だ? どうも目的を間違えているようにしか見えねえんだけど。」


「そりゃあキラの捜索やろ。必死やなあ、キラがそんなに心配か?」


「……黙れ、話を逸らすな。お前が興味があるのはブラン聖堂自体にしか見えないのが気のせいだといいけどな。」


駄目だ、これではセイラ対オズの時と何も変わらない。頭でそう分かってはいた。

こんな言い争いをしてる場合ではない。城に行くなり、スカーレスタに行くなり、とにかく早く行動すべきなのに。

ルルカとティーナがため息をつくのが聞こえた。


「駄目だこりゃ……。」


「何時間かかるかしらね。」


「じゃあお前らはどうにかできるのか」とゼオンは目で訴えたが二人が動く様子はない。そう思った時、一人が動いた。

その人はオズの前に立ち、曇りの無い目でオズを見据える。それはリーゼだった。

おそらくこのメンバーの中で一番このことに無関係に近いはずのリーゼがなぜ出てきたのだろう。リーゼはオズにこう言った。


「オズさん……お願いします、キラを助けてください! キラは親友なんです、私心配で……! オズさんすごく強いんですよね……キラを助けられるだけの力があるんですよね? 助けられるんですよね?

 絶対、絶対キラを無事に連れて帰ってきてください! お願いします!」


何を言い出すのだろう。ゼオンは言葉が出なかった。リーゼは何度も深々と頭を下げて頼み込んでいた。

だがゼオン以上に言葉が出ないでいたのはオズの方らしかった。息が詰まったような、核を突かれたようなそんな顔をしていた。

何がオズを動揺させたのかわからなかった。ゼオンにはむしろオズを応援するような言葉にしか聞こえなかったのだが。

オズは舌打ちして言った。


「……止めた。……重い、その期待。」


そのまま機嫌悪そうにゼオン達に背を向けて部屋の扉の方へと向かった。

慌ててルイーネが言う。


「どこ行くんですかぁ、オズさん!」


「帰る、お前は話済んでから帰ってこい。」


「ええー!?」


それから、ゼオンを見た。


「キラに会ったら言っといてくれへん? ……怖がらせて悪かったって。」


「……知るか。お前がしたことはお前がケリつけろ。」


ゼオンは迷わずこう言った。オズはこちらをぼうっとしばらく見ていたが、すぐに目を背けて部屋を出ていってしまった。ゼオンには一体どうしてこうなったのかさっぱりわからなかった。

扉が閉まる音だけがやけによく聞こえた。


「全く……なんて勝手な奴だ!」


リラがぶつぶつ文句を言っていた。ゼオンはティーナとルルカの顔を見る。オズが引き下がった理由はティーナやルルカもさっぱりらしかった。

リーゼは少し俯きながらリラの隣へと戻っていく。その時、後ろでセイラがゼオンくらいにしか聞こえないような小さな声で呟いた。


「『目的はキラの救出だということを忘れるな。お前の強すぎる力を正しく扱えないようなら行くべきではない。もしお前の過ちでキラが傷つくようなことがあれば許さない。』……。」


「……?」


「さっきの言葉、そういう意味にもとれるかもしれない……そう思っただけです。勿論そういう意味であの人が言ったのかはわかりませんが。」


ゼオンはそれを聞いて思ったことをそのまま言った。


「じゃあ、オズは自分の力をコントロールしきる自信が無いってことか? じゃなきゃ引き下がらないだろ。」


「えっ、それは訊かれても……。」


セイラは言われて初めて気づいたような顔をしていた。ゼオンも言ってから自分の言葉を疑いたくなった。

あの自分勝手で傲慢なオズがそんなことを思っているだなんてきっと誰も思わない。オズの思わぬ弱みを見つけてしまったような気分だった。

そう考えていると、先ほどまでまでぶつぶつ言っていたリラが少し安心したように言った。


「まあでも、あいつが引き下がってくれてよかった。キラの話じゃこの前力暴発しかかったらしいし、余計に行かせたくなかったんだよ。」


「なんじゃそんなことあったのか? ルイーネ、聞いとらんぞ!」


「え、あー、その……」


「後にしな、カルディス。それより早く移動の準備するなりなんなりした方がいいんじゃないのかい?」


リラがそう言ってディオンを見た。リラの言う通りだ。ディオンも頷き、ゼオン達に言った。


「そうですね。じゃあ、出発は明日だ。今日は早く戻って準備をしてくれ。いいな?」


セイラを含めたゼオン達四人は頷いた。ようやく話がまとまったようだった。


「じゃあとりあえずはこれで解散だな。」


ディオンがそう言うとみんなそれぞれ動き出した。リーゼとリラは帰っていき、カルディスはルイーネに説教を始め、ディオンはイヴァンと何か話し合っていた。

ゼオンはディオンの所に行き、訊いてみた。


「なあ、オズがブランに行っちゃいけない理由って何だ?」


「……それはお前でも教えられない。」


はねのけるようにそう言われ、これは訊いても無駄だなと察した。

国や村なども関わってくる問題なのだろうか、どうもオズのことに関してはみんなひた隠しにする傾向があるなと感じた。

それからディオンは立ち上がってカルディスとルイーネに訊いた。


「すまないが、電話を借りられるか?」


「ああ、下にある。ルイーネ、案内してくれ。」


「あ、はい!」



するとイヴァンがディオンに訊いた。


「こんな山奥の村から連絡なんて取れるんすか?」


「アズュールまで繋がるかはわからないが……スカーレスタくらいなら繋がるかもしれない。試してみるくらいしてもいいだろ。」


「あ、電話は常に盗聴されているのであまり聞かれたくない話はしない方がいいですよ。村人の情報保護の為なんで。」


ルイーネの言葉にディオンが眉を潜めた。そりゃあそうだ。常に盗聴されてる電話なんて嫌に決まっている。


「はあ、わかったが……話は逸れるが、住人達はそれでは嫌がるのではないか?」


「住人さんはあまり電話使わないんで。村に電話三つしかないんですよ。ここと学校と図書館。

 私情で使う人はほとんど居ません。……まあ、オズさんは平気で使うんですが。」


「なるほどな……。」


「あと、瞬間移動の魔法で村を出入りしたりはできないように結界を張ってあるんで、明日移動の時に瞬間移動の魔法を使うようなら注意してください。」


「……わかった。案内を頼む。」


「はい、わかりました。」


ルイーネの後ろをディオンとイヴァンは黙ってついて行った。ディオンがどこか複雑そうな表情をしていたのが印象に残った。

その表情の理由はなんとなく推測できた。この村は閉鎖的すぎる。ゼオンもそう思った。

こうして最後に残ったゼオン達四人にカルディスが言った。


「ほれ、君達もそろそろお帰り。明日の準備もあるんじゃろ?」


素直にゼオン達の為に言っているように見えたが、村やオズについてこれ以上尋ねられるのを避けるために言っているようにも見えた。

そう警戒しなくてもすぐに行くのにと思いながらティーナとルルカに言った。


「じゃ、そろそろ戻るか。」


「そうだね。んじゃあルルカちゃあーん、サバトしゃまとの再会楽しんできてねぇ!」


「そ……そんなんじゃないって言ってるでしょう!」


ティーナは完全に遊んでいた。ルルカは頬を赤らめて怒っている。

ぎゃあぎゃあとやかましかったが、それでもこの二人はオズなどと比べればいざという時はうまくまとまってくれるのでいい方なのかもしれない。

そうして部屋を出ていこうとした時、急にセイラがゼオンに訊いた。


「……どうして私に味方したんです?」


訝しむような、しかしどこか違うような目をしていた。

多分、セイラとオズが口論していた時のことを言いたいのだろう。


「どうしてと言われてもな。直感で、お前が言っていることの方が正しいんだろうって思っただけだ。」


「正しい」なんて、ゼオンが偉そうに口にできるような言葉ではなかったが、そう言い表すのが一番自分の考えに近いと思った。


「……そうですか。」


それだけ言ってセイラは部屋を出ていった。セイラが何を考えているのかはまだゼオンは理解できなかった。




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