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ある魔女のための鎮魂歌【第1部】  作者: ワルツ
第7章:ゼロ地点交響曲
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第7章:第5話

嫌な予感がする。

本を部屋に置き、杖を持って寮を出た時、ゼオンは妙な胸騒ぎがした。

気のせいだと言い聞かせ、キラに言われた通りに急いで図書館に行こうとしたが途中で足が止まった。何か違う気がした。

校門の前まで来たのになぜか外へと踏み出せなかった。なぜだかわからないが、今行くべき場所は校外ではない気がした。

その時、校門の外からリーゼがやってくるのが見えた。


「ゼオン君? どうかしたの?」


「……別に。お前こそこんな時間にどうして外からやってくるんだ?」


「ちょっと忘れ物しちゃって。」


リーゼはいつもの笑顔でそう言った。ゼオンは訊いてみた。


「途中であの馬鹿見たか?」


「キラのこと? 見なかったけど……。」


胸騒ぎがする。ゼオンは向きを変えて校内へと入っていった。

リーゼが不思議そうに後を追ってきた。ゼオンは相手にせずに廊下を進んでいった。

何かに急かされるように早歩きになった。そして階段を登りきった時、足が止まった。後からついて来たリーゼが尋ねる。


「どうしたの?」


ゼオンは廊下に落ちているものを指差した。それはキラがいつも被っている帽子だった。

わざわざご丁寧に廊下の真ん中に帽子のつばまできれいにして置いてある。

まるで誰かがキラに何かあったことをアピールしているかのように。

ゼオンは舌打ちして帽子を拾い上げた。もう予感なんてものでは済まない。杖を取り出し呪文を唱えた。


「過ぎ去りし刻の陣を示せ……プレヴ・フィリ!」


光が現れ、宙に舞うとそのまま地に落ちて沈む。するとその場所に蒼い魔法陣が現れた。そしてもう一つ、空中にも真ん中に切れ目のような物が入った蒼い魔法陣が現れた。

ゼオンはまた舌打ちした。予感が現実に近づいていた。


「何だこの魔法陣……」


ゼオンが今使ったのはこの場所で直前に使われた魔法をあぶり出す魔法だ。

魔法陣が出たということはついさっきここで魔法が使われたということ。だが今目の前にある魔法陣をゼオンは見たことがなかった。特に宙に浮いている魔法陣の方だ。

陣に刻まれている文字も見たことがなく、どんな魔法か推測できなかった。

だが一つ確実にわかることがあった。帽子が置いてあったのは一つ目の魔法陣の中心だった。

ゼオンはリーゼに言った。


「……あいつの婆さん呼んできてくれるか? 俺は図書館行ってあいつが居るか確認してくる。」


「うん。ねえ、まさか……」


ゼオンはまた舌打ちした。声一つ出さず、けど階段を降りていく足音は強かった。

久々に腹が立った。この魔法陣を出した人物にも、そして自分にも。


「あいつ、誰かに連れ去られたのかもな。」


今キラの帽子を持っている誰かさんを責めるように呟いた。



◇ ◇ ◇



予想通り、図書館にキラは居なかった。ゼオンとリーゼは事情を説明してきた後、帽子が置いてあった階段に戻ってきていた。

先ほどと違うのは先ほどよりも随分と騒がしいところだ。キラが居なくなったと聞いて色んな人がこの場所に集まってきていたのだ。

メンバーはゼオン、リーゼ、ティーナ、ルルカ、オズ、セイラ、ルイーネ、そしてリラと村長のカルディスだ。

早速ティーナがゼオンとリーゼに尋ねてきたことはこれだった。


「あのさ……止めた方がいいのかな?」


キラの心配よりもこれを言い出した理由はよくわかる。ティーナだけでなくルルカやオズまで白けた様子で目の前の光景を見ていた。

オズにまで引かれては救いようがない。一体何があのオズを白けさせているのかというと、これだ。


「こんの、バカルディス! キラはどこだい、あぁあ!?」


「知るか! 知ってたらとっくに言っとるわ! 村中捜索させとるとこじゃから待っとれ、リラ!」


「待ってられるか! うちの可愛い孫にもしものことがあったらどうしてくれるんだい!」


「なんじゃと、うちの孫の方が可愛いわ!」


「知るかクソジジイ!」


孫が可愛くて仕方がない老いぼれ共の口論だった。「それどころじゃないだろ」と言おうものならおそらく婆さんの鉄拳が飛んでくるだろう。

対して動揺一つせず落ち着いてるセイラに目をやりつつ、ゼオンはぼそりと呟いた。


「このメンツは外見年齢と精神年齢が反比例してるみたいだな。」


「あはは……。」


隣でリーゼが苦笑していた。その様子を見て、リーゼも巻き込まれて大変だろうなと感じた。

余程キラが居なくなったのがショックだったのか、リラは延々と怒鳴り続けていた。口を挟む度胸のある人などいなかった。

とにかくこのままでは話が進まない。そう思った時リラの矛先が変わった。


「……おい、オズ。」


オズが睨むようにリラを見た。リラが怒りをぶつけるように言う。


「警備はお前たちの担当だろ? ……どういうことだい?」


オズはいつもの作り笑顔も、愛想を振りまくこともなく、ただ敵意だけを向けるようなもの言いをした。


「校内は俺とルイーネの管轄外や。責任言われてもな。」


「……何が管轄外だ。校内から出てきた奴とか居なかったのかい? あとは、村外部からの侵入者とか。」


侵入者。その言葉が出てきた理由は、ゼオンはなんとなく想像がついた。リラが続けて言う。


「あたしはね、キラが居なくなったのはサラの奴が杖を奪うためにキラを攫わせた可能性が高いと思うんだよ。現に、キラと一緒に杖も無くなっている。」


そして、ゼオンはキラと別れる直前にキラが杖を持っているのを見た。

反乱軍の活動の活発化、ディオン達の来訪といい、反乱軍がらみとしか思えない。

キラが城に到着してしまえば、杖を奪うのは難しいだろう。反乱軍の誰かが杖を奪う為にキラを攫った。おそらく間違いない。

リラはオズを睨みつけて言う。


「今日侵入者や村から出てった奴はほんとに居ないのかい?」


「居たら言っとるわ、クソババア。」


リラの眉間にしわが寄るのを見たルイーネが前に出た。


「落ち着いてください。今日そんな人は一人も居ませんでした。私が保証します。」


「あんたは引っ込んでな、コウモリ女。」


キラのことになるとこの婆さんは冷静で居られないらしかった。頭よりも感情で動くところは孫と似ているかもしれないなとゼオンは思った。

ルルカが呆れたように呟いた。


「私が言えることじゃないけれど、最低のチームワークね。」


「……だな。」


「でもうだうだなんてしてらんないわよ。もし杖があちら側に回ったのだとしたら……国王軍と反乱軍の衝突も近いんじゃ……。」


ルルカの言うとおりだ。こんなことしてる間にも間違いなく事態は悪い方向に向かっているはずだ。

だがまさかキラが連れ去られるとは思わなかった。サラ・ルピアはキラの扱いに関しては慎重になっているように思っていたから。

しかし実際に起こってしまったことは事実。やるべきことはこのような喧嘩ではない。

誰のせいか、問いたくなるのは仕方がないだろうが。ゼオンはキラの帽子を握りしめながら俯いた。

そして前に出てリラ達に言った。


「そんなことしてる場合か、老いぼれ共。今考えることはあいつの安否と居場所じゃないのか。」


リラの目が異様な鋭さでこちらを向く。ルルカとティーナが勇者を見るような目で遠くからこちらを見ていた。

ゼオンはリラの目を見て、急に丁寧な口調で言った。


「直前まであいつと居たのは俺です。本を置いてくるとか言ってあいつを一人で行かせました。俺がちゃんと見ていれば……すみませんでした。」


そして帽子をリラに渡した。殴られても怒鳴られても仕方がないだろうなと思った。

今回だけではなく、キラの記憶の封印の時のこともある。恨まれて当然だろう。

リラはゼオンのことなど見向きもせずに帽子だけを見つめていた。そして大きなため息をついた。


「……ったく、先に謝られたら怒鳴れないじゃないか。」


そしてリラは急に大人しくなってしまった。怒鳴るのも止めて黙り込んでしまった。

気まずい雰囲気だった。リラの表情が暗く沈む。また何か間違えただろうかとゼオンも黙り込んだ。

またキラの記憶の件の時のような失敗をしただろうか。謝らなければならないと思ったのだが。

するとティーナが励ますように言った。


「そんな顔しなくても大丈夫だよ。まあギリギリ間違ってないって。やっぱりあたしのゼオンはかわゆいなあ。」


そしてティーナはリラ達の前まで出てきて言った。


「さーはいはい、しんみりする気持ちもわかるけどさ、キラがどこに居るかわからないとこの先行動しようがないよね。そこのじいちゃん、村内でキラは見つかってないの?」


指を差されたカルディスが答える。


「全力で探させとるがさっぱりじゃ。ルイーネ、お前の方はどうじゃ?」


「ホロが探してますが全く……。気配も無いようです。」


するとティーナが口を挟む。


「村から出てくような人は今のところゼロ?」


「はい。」


「んーそっかあー……。」


あっという間にキラを捜す流れができた。こういう器用さは自分には無いなとゼオンは感じた。

在るべき方向に話が行ったからには、早速キラの居場所を考えるべきだろう。

気になるのは外から村に入ってきた人は一人も居ないということだ。


「外からの侵入者が居ないってことは、村の住人の中に反乱軍側の奴が居るってことか?」


リラとカルディスが青ざめる。冷めた声でオズが言った。


「そうなるやろな。」


それを聞いたティーナが言った。


「たしか村から出てった人も今のところ居ないんだよね? もし犯人が村の人で、まだ村から出ていないのなら、キラは村のどこかに居るんじゃ……」


「いいえ、残念ながら外れです。」


突然そう遮った人が居た。全員が声のした方を向く。声の主はセイラだった。

事態は深刻だというのに、クスクスと不適な笑みを浮かべていた。まるで全てを知っているかのように。

セイラは全員にはっきりと言った。


「皆さん、ルイーネさんが誘拐犯を見逃した可能性を考え忘れていませんか?」


「な……! 私が誘拐犯に手を貸したとでも言いたいんですか!?」


当然ルイーネが喰ってかかった。だがセイラはこう答えた。


「あら、別にそういう意味ではありませんよ。あなたが気づかない方法で村から抜け出したということです。」


そう言うと、セイラはゼオンが先ほど魔法であぶり出した二つの蒼い魔法陣のところへ行った。

そして裂け目がある魔法陣に目を向けた。そして魔法陣に書かれた文字を目で追う。

ゼオンにはそれが何の魔法かも書かれた文字の意味も全くわからなかった。

セイラはわかるというのだろうか。そして全て読み終わった後、セイラは言った。


「犯人は空間操作の魔法を使ったみたいですね。空間を裂いて目的地の空間まで道を作ったんでしょう。これなら、学校から出ずに村から出られます。」


「お前はその文字が読めるのか?」


「はい。犯人の行き先もわかりますよ。」


セイラはさらっとそう言った。


「それはどこだ?」


ゼオンが尋ねると、セイラはこう答えた。


「ブラン聖堂。」


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