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ある魔女のための鎮魂歌【第1部】  作者: ワルツ
第2章:へっぽこ魔女の武勇伝
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第2章:第2話

キラは教室を飛び出すとすぐに持てる脚力をフルに使って階段目指して駆け出した。

元々キラは運動に関しては自信がある。

少なくとも勉強よりは。

キラは廊下のど真ん中を風のような速さで駆けていった。


しばらく走ると階段を見つけた。

十数段ある階段。真面目に降りるのは面倒だった。

なのでキラは迷わず手すりに手をかけると、そのまま手すりを飛び越えた。

その場にいる全員の視線がキラに集中する中、キラは華麗に宙を舞って下の階へとスッと着地した。

その様子を目撃した生徒たちは宇宙人襲来でも見たような顔をしていたが、異常に運動神経のいいキラからしてみれば二階と一階の差なんて少し大きな段差にすぎなかった。

他の生徒たちの視線を無視してキラは職員室へと走った。

廊下の突き当たりに職員室を見つけて、扉に手をかけようとしたところで聞き覚えのある声が耳に入ってきた。


「普通二階から飛び降りるかよ、馬鹿女。」


足が強制的に止まった。

ここにいるはずのない人物の声だった。

もう関わることなんてないと思っていた人物の。

ゆっくり右へと視線を向けた。赤い目がしっかりキラを見据えている。

キラは思わずあんぐりと口を開ける。

間違えなくこの間の大犯罪者三人組の一人のゼオンという少年だった。

キラは驚いて思わず指差しながら大声を出してしまった。

だがゼオンはうっとおしそうな顔をしながら顔をそむけるだけだった。

その態度が余計にカチンときた。

キラは大声で怒鳴って聞く。


「いきなり馬鹿女はないでしょが!

 大体あんたなんでここにいんの!?」


そう言ったとき、キラは自分で尋ねておいてその答えに気づいた気がした。

ロイドの話を思い出したのだった。

考えてみれば、この学校に生徒と教師以外の人物がそうやすやすと入ってきていいわけがない。

けれど、ゼオンはここにいる。しかも周りの教師もそれをとがめる様子はまるでない。


だとすれば…


まさか、そんなはずはない。そう思いつつもキラはおそるおそるゼオンに聞いた。


「…まさかとは思うけど、今日入ってくる転入生って……あんた?」


ゼオンは相変わらずの無表情で当たり前のようにこう答えた。


「ああ、そうだ。悪いか?」


キラの絶叫が校内の隅々まで響き渡ると同時に始業の鐘が虚しく響いた。



◇ ◇ ◇



「もーオズさん!

 こんなことしたらまた村長や村の上層部に怒られますよ!?

 あ、ちょっと聞いてるんですかぁ!?」


ルイーネは突然怒鳴った。

朝早くの客もいない図書館だった。

その怒鳴り声は図書館中に広がり、本棚に入っている本がカタカタ震える。

それを聞いたシャドウとレティタが驚いた顔をしてやってきた。

けれどルイーネが怒鳴っても、主のオズは呑気に紅茶を飲みながら本来の仕事とは何の関係もない報告書を眺めるだけだった。

完全に無視されているな。そうルイーネは思った。

ルイーネは半ば怒りの混じった声で聞く。


「もぉ、一体どういうつもりなんです!?

 いきなりあの三人を無理矢理村に留まらせた挙げ句、一人をあの学校にわざわざコネ使って入れるなんて!」


それを聞いたオズは相変わらず報告書を眺めたままこう返すだけだった。


「だから言うたやろ。賭けやって。」


「だ、か、ら!それじゃわかりませんってばぁ!

 一体目的は何で、そのために今度は何をやらかすつもりなんです!?

 もう、ただでさえ村長に目ぇ付けられてるのに!」


ルイーネがそう言ったところでオズはようやく紅茶のカップを置いた。

そして椅子の背もたれによりかかる。

ルイーネは不満そうに怠け者のオズを見た。

すると今度はシャドウが口を出した。


「オズ、いっつも俺にイタズラするなーって言うくせに人のこと言えねーじゃねーか。」


「俺はお前のように意味のない時に規則破ったりはせぇへんねん。

 大体お前なんであんなにイタズラするん?」


正直いってオズのやることは意味があるからこそ後々厄介になるのだけれど。

オズの言葉を聞いたシャドウはキラキラ目を輝かせて興奮しながら言った。


「意味はあるぞ!

 シュークリームとかシュークリームとかシュークリームとか…」


ルイーネもオズも同時にため息をついた。

全くシャドウらしい考え方だ。そんなことだろうとは思っていた。

けれどオズの考えることは全く想像がつかない。

長い間一緒にいるルイーネでさえわからない。

一体この人は何を考えているのだろう。何が目的なのだろう。

オズはいつもそうだ。いつもへらへら笑っているが裏がある。

おかげで色々な人に睨まれるので大変だ。

目的。それを考えたとき、ある可能性が思い浮かんだ。

そうだ。考えてみればオズがここまで無茶苦茶なことをするのは「あのこと」が絡んだ時しかない。

オズを見上げながらおそるおそる尋ねる。


「オズさん、まさかまだ…」


ルイーネが言い終わる前に「正解。」とでも言うようにニッとオズは笑った。

まるでルイーネの言葉を遮るかのように。

やっぱり。そう思ってルイーネはため息をついた。

止める気もしなかった。止めたって意味がないことをルイーネは知っていた。

カップに残った紅茶を飲み干してオズは言った。


「しつこいとか言うなよ。」


「はいはい、わかってますよ。

 言ってもこのことに関しては絶対聞きませんもんねー、オズさんは。」


そう答えて、ルイーネは空のカップを片付けはじめた。

それを見てシャドウとレティタもついてきた。

奥の部屋でカップを洗い始めた時、シャドウが訊いた。


「なーなー、オズ今度は何するんだぁ?面白いことかぁ?」


「また厄介なことですよ。」


「イタズラか?」


「馬鹿…。そんなので済んだら困らないわよ…」


レティタが呆れた。ルイーネはカップを洗い終えると濡れたカップをシャドウに、皿をレティタに渡した。

レティタが布巾で皿を拭きながらルイーネに言う。


「止めておいた方がいいんじゃない?」

「私が止めて止まるような人じゃありませんよ。」


ルイーネは困った様子でそう呟くとまたオズのところへ戻っていった。

ルイーネはオズのいる貸し出し受付用のカウンターのところに着くと、先ほどの話の続きをはじめた。


「それで?その賭けのために私は何をすればいいんです?

 どうせまだ何かやらかすことがあるんですよね?」


「いや、何もあらへん。

 いつも通り村の監視してさえくれればええ。」


オズはあっさりこう答えた。

ルイーネからしてみれば少し意外なことだった。

ルイーネがそう思っているのを察したのか、オズはルイーネの方を見るとこう言った。


「準備はした。あとは待てばええ。」


オズはそう言うとやっと仕事をする気になったのか、立ち上がって新しく入ってきた本の種類が注文と合っているかどうかの確認をはじめた。

あの三人を村に留めさせたりするのがその準備にあたるのだろうか。

そんなことをルイーネは考えていたが、だとすると、それが本当にそのための準備なのかと疑いたくなる行動が一つあった。


「あのー、じゃああのゼオンさんって人を学校に入れたのってどんな意味があるんですか?」


ルイーネがそう聞くと、オズは手を止めた。

きっとまた凄い魂胆があるのだろう。

ルイーネは身を乗り出してオズの返答を待つ。

何か考えこむような顔をした後、こう言った。


「面白そうやったから。」


「あの、殴りますよ?ホロで。」


ルイーネは鋭く眼光を光らせながら、鎌を構える死神のように、背後でホロをうようよさせながら言った。

まあ、実際にはホロを何十匹かき集めたとしてもオズには勝てないだろうけど。

そう思ってルイーネはため息をついた。

もう何度オズがやらかしたことでため息をついただろうか。

いい加減にしてほしいけれどきっとこれからもオズはこんな調子なのだろう。


「はぁ、またややこしいことになりそうです…」


「悪いな、ややこしくして。」


またため息をついたルイーネにオズは少し申し訳なさそうに謝った。

ルイーネは「仕方ないですねぇ。」と言って近くにあった本を片付けはじめた。

オズはそんなことを言うけれど、きっと悪いだなんてこれっぽっちも思っていない。

きっとルイーネの言うことなんて聞きもせず突っ走るだろう。

本棚のほうに飛んでいこうとしたが、途中で急に振り返った。

少し心配になったのだった。

オズはこのことに関しては、すぐに無茶をしそうだったから。


「あまり無理はしないでくださいよ?」


ルイーネがそう言うとオズは笑って「わかっとるって。」と答えた。

オズは笑ったまま。ポーカーフェイスは崩れない。

本当にわかっているのかはよくわからなかった。

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