第6章:第12話
「で、結局怪盗って誰?」
キラはもう回答はゼオン達に任せようかと思った。どうせキラの馬鹿なのでわからないからだ。
キラ達は屋敷に戻ると、また犯人が誰か話し合い始めた。期限は今日の夜。
もう辺りは暗く、月が顔を出してきたのでもう少ししたらクローディアが来てしまうかもしれない。
頼みの綱はゼオン達だ。クイズに正解しなければ、サラの情報は教えてもらえないのだから、なんとしても正解したかった。……が、答えはこうだった。
「怪盗? わかんない。」
「さぁ、貴女が考えれば?」
今更そんなことを言うな。キラはがっくりと俯いた。
それからまたぶーっと膨れて怒る。
「何さあ、昨日はあんなに色々言ってたくせに!」
「だってみんな怪しいんだもん、一人になかなか絞れないよ。」
「大体自分だってわからないくせにとやかく言わないでくれない?」
ティーナとルルカが言い返す。確かに二人の言う通りである。
ゼオンだけは俯いたまま何か考えこんでいた。ゼオンが何か思いついてくれればいいのだがまだ顔を上げる様子はない。
それからティーナがちょっと楽しそうに言い始めた。
「個人的にはノア君かジャスミンちゃん犯人説を推したいとこなんだけどねー。」
「何で?」
「だってロマンがあるじゃん!」
キラとルルカが白けた。ロマンだかマロンだか知らないがそんなのの有無で犯人が決まってたまるか。
だがそんなのお構いなしにティーナは話し出す。
「まずジャスミンちゃんが犯人だとね、探偵少年が追いかけてる怪盗が……なんとっ、あいつがストーカーしちゃうくらい好きなジャスミン嬢ちゃんが怪盗だった!っていうロマンある事態が発生するわけだよ!」
「どの辺がロマンなのかわからないわ。」
「探偵→怪盗で追っかけっこはロマンなんだよ! わかってないなあ、もうー。」
ロマンの何たるかを問いたいところである。
キラとルルカは可哀想なものを見るようにティーナから少し離れた場所に居た。
「続いてノア君が怪盗の場合ね、怪盗と探偵がジャスミンお嬢に恋して三角関係成立っていうロマンある状態になるわけだよ!探偵と怪盗と由緒正しきお嬢様なんてロマンじゃんー。
探偵少年犯人説はロマンがないから好きじゃないんだよねー、ただ探偵少年がイタいだけでさぁ。」
キラにはティーナの趣味が理解できなかった。
好き嫌いで犯人が決まっちゃ困るし、三角関係という言葉の意味もキラは知らなかった。
キラとルルカが呆れている前でティーナはロマンがどうのこうの熱弁していた。
「ってか何で探偵少年とノア君がジャスミンちゃんのこと好きってことになってるの?」
「え、キラ気づかなかったの? 二人とも絶対ジャスミンお嬢に惚れてるよ。
女の勘って奴ですぜ、へっへっへ。」
女らしさの欠片もない口調でティーナは言う。そんなことキラはこれっぽっちも気づかなかった。
自分って鈍いのかなあとキラは思った。すると横からルルカが言った。
「ロマンだの三角関係だのどうでもいいけど、結局答えはどうするの?」
確かにルルカの言う通りだ。答えなければ始まらない。
犯人が誰かなんてキラにはわからないが、キラの鈍い勘で答えていいような軽々しい問題でもなかった。サラの情報がかかっているのだから。
するとティーナが言った。
「そんなにわかんないならさあ、あたしたち四人いるんだから別々の人をこたえれば絶対当たるじゃん。
例えばあたしがジャスミンちゃんで、ルルカがノア君で、キラが探偵少年ーみたいに。」
せこい。せこすぎる。汚ぇ、さすがこのメンツ、汚ぇ。
あんなに真剣に考えてたくせに答えがそれはあんまりじゃないかとキラはうなだれた。だがルルカが言った。
「別に私はいいと思うわよ。」
「んじゃあたしジャスミンちゃんで。」
「じゃあ私ノアって子にするわ。」
それで本当にいいのかと思ったが今更文句を言える空気ではなかった。
この様子だと残り物の探偵少年がキラの答えにされるのだろうか。
その時、部屋の扉をノックする音が聞こえた。そしてクローディアが入ってくる。
こんな答え方で本当にいいのだろうか。クローディアに申し訳なくなってくる。
そんなキラの不安はお構いなしにクローディアはキラ達の目の前の椅子に座った。
「さあ、みんな答えはわかった? そろそろ答えを聞くけど準備はよろしいかしら?」
「はいっ、質問ー! あたしたちも答えてもいいの?」
ティーナが礼儀の欠片もない様子で言う。
「勿論いいわよ。」
いいのか。本当にそれでいいのだろうか。すると早速ティーナから答えを言い始める。
「じゃああたしはジャスミンちゃんで。」
「じゃあ私はノアって子で。」
「……じゃあ探偵少年。」
仕方なくキラはそう答えた。どうせまともに考えても答えなんて出ない。
「じゃあゼオンは?」
クローディアがゼオンを見た。
ゼオンの答えは何なのかキラも気になった。見てすぐにゼオンはまともに答える気だとわかったからだ。
ゼオンが立ち上がりクローディアの近くに行く。
そしてキラ達には聞こえないようにクローディアに何か言い始める。
一通り言い終わった後、クローディアは楽しそうに言った。
「わかったわ。でも誘拐犯まで答えなくてもよかったのに。」
「なんとなく、そいつかなと思ったから。」
キラは耳を疑った。こちらは怪盗が誰かすらわからないのに、ゼオンは怪盗どころか誘拐犯までわかったというのだろうか。
ゼオンに誰と答えたのか訊いてみたが教えてくれなかった。
四人共一通り答えを言った後、ティーナが言った。
「で、結局怪盗って誰?」
「ふふ、それはね……」
クローディアはそれはそれは素晴らしい笑顔で言った。
「自分で確かめてね!」
一瞬全員言葉が出なかった。自分で確かめるとはどういうことだろう。
するとゼオンが言う。
「つまり、怪盗の犯行が行われる予定の時計台美術館に行って自分の目で確かめてこい……ってことか?」
「そういうこと。」
クローディアが茶目っ気たっぷりにウィンクした。
ということは今から時計台美術館に行かなければならないのか。
「それってあたしたちが怪盗を捕まえなくちゃいけないんですか?」
「その必要はないわ。ただ、怪盗に会って正体を確かめなさいってことよ。」
ルルカが少しだけ面倒くさそうな顔をするのが見えた。ただ、ティーナの方は今まで以上に意気揚々と言った。
「さてと、なら行きますか!」
「よし、いい子ね。いってらっしゃい。」
クローディアが笑って言う。仕方なくキラとルルカも立ち上がった。
ティーナはぴょんと跳ねてくるんと回りながら廊下に出て行った。元々常にノリのいい人だけど今回はいつも以上にノリノリだった。
正直キラは怪盗にうまく会えるのか自信が無かったが、行かなければサラの情報を教えてもらえないのなら仕方がない。
「杖とか一応持って行った方がいいわよ。怪盗はそう簡単に話をしてはくれないかも。
それと、何か『証拠』があった方が正体を白状させやすいかもね。」
クローディアの言葉に従い、キラは杖を用意した。キラはどうせ魔法は使わないから杖の意味があるかわからないけれど。
ティーナとルルカもそれぞれの武器を用意する。そして部屋を出て早速時計台美術館へ向かおうとした時、ゼオンが急に言った。
「先に行ってろ。ちょっと寄るところがあるから後から行く。」
そう言ってゼオンは部屋を出ていった。
どこに寄るつもりか気になったが、ゼオンはさっさと行ってしまったので仕方なくキラ達は先に時計台美術館に行くことにした。