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ある魔女のための鎮魂歌【第1部】  作者: ワルツ
第1章:不思議な杖と逃亡者
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第1章:第8話

終わりの見えない漆黒の夜闇の中に、青白い月がきらきら光る綺麗な夜だった。夜空のあちこちに白、青、黄色などの星たちが瞬いている。

吸い込まれそうなくらいに深い闇。その中で瞬く星たち。その月を見ていると、急に寂しさと悲しさがこみ上げてきて、涙が出そうになる。

あの泉の景色と、あの笑い声が懐かしい。下に座り込み、空を見上げる。右にはなぜかチェス盤がある。

これもかなり懐かしい物だった。


『悲しそうねぇ?リディ。』


どこかからあざけ笑うような声が聞こえた。リディはその声の正体を知っている。

リディは落ち着いた調子でその声に言う。


「…なぁに、メディ。」


やっとのことで涙をこらえ、抑揚のない声でリディは言った。姿は見えないが確かにそこにメディはいる。

……居なければ、こんなことになってはいなかった。メディは楽しそうに笑いながら言った。


『杖、4つとも、一カ所に集まったみたいよ。』


「……そう。」


リディはそれだけ言った。そしてまた星の瞬く空を見上げた。

これから始まる冷たいゲーム。なるべく悲しむ者が出ないといいのだけれど。

リディはため息をついた。そんなことは不可能とわかっていたからだ。

それを見たメディは言った。


『言っておくけど、逆らうようなら、この村もあなたの大切な人達も消すからね?』


「……わかっているわ。」


そう沈んだ声で言い、リディは横に置いてあるチェス盤に目をやった。

舞台の上、白と黒が織り成す規則的な世界。在るべき位置に駒がいる。この状態が、ありふれた状況がとても奇妙に感じた。

白と黒、両陣ともしっかりと最初の位置についていた。

ただし、白も黒も、ナイトの駒が一つずつ欠けている。


『大体揃ったわね……まあ足りないのもいるけど、そのうち来るでしょう。』


まるでこのチェス盤のことを言っているような口振りがリディは嫌いだった。

リディの大切な人々を、メディは人質とか駒とかとしか考えていないのだろう。メディがリディに言った。


『貴女が悪いのよ。自分の立場を忘れた貴女が。』


ドロリとした冷たい感情を帯びた声がリディの心に張り付く。じわじわ染みていく声。湧き上がる罪悪感。

同時に幸せだった時の記憶が呼び覚まされる。楽しくて、うれしくて。今でも手に取るように感情にも言葉にもできる記憶。

ああ、それなのにどうしてあの日々はこんなにも近くて遠いの。

今にもこぼれ落ちそうな涙をリディ必死でこらえた。

泣いてはいけない。泣くことを許されるような人ではないのだから。


「……ごめんなさい。」


替わりにリディはそう呟いた。そう言うことしかできなかった。

『彼ら』にリディが関わることがなければ、こんなことにはならなかったのに。

けれどどんなに謝っても、あの日々は戻らない。

あの幸せは戻らない。それは、もう壊れてしまった過去でしかない。がっくりと下を向いてうなだれる。

だがすぐに振り払うように首をふって顔をあげる。

そして、赦しを乞うかのように歌い始めた。澄んだ声が闇に響く。透明感のある綺麗な声だった。

懐かしい唄をリディは歌う。昔、『魔女』がよく歌っていた唄。

涙を流しているような哀しい歌声だった。かつては幸福をうたった唄であったはずなのに。

リディは心の中で叫んだ。


ごめんなさい。こんなことになって。

私が関わらなければ、こんなことにはならなかったのに……






廻れ。廻れ。


様々な人々。それぞれの茨。


気をつけなさい。いつも隣で笑っている人が実は嘘つき狸だったなんてよくある話。


全ての過去。全てのしがらみ。


全ての歯車は一点で噛み合う。


そしてその時、『ある魔女の物語』は姿を現すのでしょう。

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