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ある魔女のための鎮魂歌【第1部】  作者: ワルツ
第6章:怪盗幻想シュヴクス・ルージュ
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第6章:第10話

夕食もすごかった。何がすごいって全部すごかった。

まずテーブルが長い。なんかすごく長い。次にナイフやらフォークやらが全て銀製だ。村では木で作ったフォークばかり使っていたのに。

そして料理が一度に全部は出てこない。スープとかサラダとかがわざわざ順番に出てきて、お肉は最後の方だ。「ふるこーす」というらしいがキラはよく知らなかった。

そして美味しい。「すてーき」というものをキラは初めて食べたのだが頬がとろけそうなくらい美味しくて思わず顔がにやけた。

話では専属の「しぇふ」が作ってくれているらしい。何だかこの街に来てからお金のかかったものに驚いてばかりいる気がした。

目を輝かせながら食べているキラの左でゼオンが呟いた。


「アホ面……」


「う、うるさい!」


ぶーっと頬を膨らませてキラは怒った。

その後ふと周りを見回してみた。食べ方で大分出身がわかるなと感じた。ゼオンとルルカが一番行儀がいい。次いでホワイトとオズ。ティーナが一番酷かった。

キラより酷い。ティーナは右手にフォーク、左手にスプーンを持っていたけれど肉はナイフで切るものだ。

そういえばティーナの出身は聞いたことがないなとキラが思っていると、またゼオンがキラに言った。


「お前……まだ食うのか?」


「うん? うんっ、そうだよ。すいませーん、ご飯おかわり!」


キラが使用人にそう言うと十枚目のライス皿と山盛りのライスがキラの前に現れた。

その時右隣の皿が目に入った。オズの皿だ。皿に残っている量を見てキラはオズに尋ねた。


「オズ……もうごちそうさまなの?」


「そやな、もういらん。」


サラダもスープも肉もライスも殆ど残っている。一口手をつけたかつけないかくらいだ。

そのくせにデザートだけはちゃっかり完食していた。キラは震えながら言う。


「なんで残すの?」


「全部嫌いや。ニンジン嫌やーピーマン嫌やー肉も米も嫌やー。」


「そ、その……もう一口くらい頑張ってみたらどうかなぁ。

 あたしも昔はニンジン嫌いだったけど、ちょっとずつ頑張ったら食べられるようになったし……」


「嫌やー。」


「……お腹減らないの?」


「減らん。」


「お肉……いらないの?」


「いらん。」


キラがガタガタ震えながら残されたおかずやご飯たち、特に肉をじっと見つめているとオズが皿をキラの方に差し出した。


「欲しいんやったらやるけど。」


「ちょーだい!」


いそいそとオズの皿を引き寄せるキラの左隣でゼオンがなにやら冷たい目でこちら側を見ていた。

ゼオンはしばらくこちらを見た後、キラの肩をつついた。


「おい、その……」


「はーい、みんなちょっといいかしら?」


クローディアの声でゼオンの声はかき消された。どうやら何か話が始まるらしい。

隣でゼオンが少し寂しそうに俯いていた。寂しそうなゼオンを置いて話は先に進む。


「みんな今日はお疲れ様。クイズの答えはわかったかしら?」


「はいっ、さっぱりわかりません!」


キラは元気よく答えた。ショコラ・ホワイト以外の誰もがそこまで威勢よく言うなといった感じの顔をしたが、わからないのだから仕方がない。

するとオズが馬鹿にしたように笑った。キラはまたぶーっと頬を膨らませる。


「笑うなばかー!」


「けど、さっぱりなの多分キラだけやで?」


もしや三人共わかっているのかとガタガタ震えているとルルカがため息をついた。


「安心してよ。私だってはっきりわかってはいないわ。二人だってそうよね?」


「勿論。そりゃあそんなすぐにわかるわけないじゃん!」


ルルカとティーナははっきりそう言ったが、ゼオンは一度おとなしく頷くだけだった。

するとクローディアが楽しそうに笑う。


「じゃあ、今のところ誰が怪しいと思う?」


キラは全くわからない。今日見たこと聞いたことを必死に思い出してみて、苦し紛れにこう言った。


「え、えー……だ、だれだろうー、あの探偵少年かなぁ……。だって怪盗は赤い髪なんでしょ? 怪しいよ。」


「なるほどねー。ほかの三人はどう思う?」


クローディアはうんうんと頷きながらゼオン、ティーナ、ルルカの三人を見る。

キラは三人の方を見て、何か言ってよと頼み込む。ティーナとルルカはすぐに応じた。


「たしかに不審な点の多さで言ったら、あのソレイユとかいうストーカー少年よね。」


「確かにねー。怪盗の犯行の時そこにいたらしいし。自称少年探偵ーとか言いつつ実は怪盗ってのも無しじゃないでしょ?

 ジャスミンちゃんとこの使用人も屋敷の裏でそいつっぽいの見たって言ってたし。あとあいつ結構不審な言動多かったんだよねー。」


「確かに、真っ先に疑いたくなる奴なのは確かだよな。」


ようやくゼオンがまた喋りはじめた。こんな時に気にすることではないかもしれないが、ゼオンのお皿に少しだけ残っている肉がキラは気になった。

キラがじーっと肉を見つめていると、急にティーナがらしくない真面目な様子で語り始めた。


「あたしが一番怪しいって思うのは別の人なんだけど、もし仮にストーカー少年だとしたら、怪盗としてお宝奪った後、瞬間移動の魔法使ってお屋敷の裏側に来て侵入ーって感じだと思うな。

 あいつ悪魔だったから瞬間移動の魔法使えてもおかしくないし。まあ瞬間移動で結界を越えるのは多分無理だけど。でもお宝奪われてから誘拐まで二分あったわけだからできると思うよ。」


瞬間移動、その言葉でキラはまたぽかんと口が開いた。そういえばそういうものがあったなあ。口に出したら、それでも魔女かと言われそうだけれど。

それにしてもティーナってこんなキャラだっただろうか。キラはずっとアホ仲間だと思っていたのだが。

普段おバカなように見えて実はティーナも賢いのだろうか。そう考えたら少し悲しくなってきた。

魔法が絡んだ時点でキラにはもうお手上げだった。魔法なんて便利なものが存在してしまうのに怪盗の正体なんて本当にわかるのだろうか。

するとゼオンがティーナに言った。


「誘拐犯と怪盗が同一人物である必要はあるのか?」


「あら、同一人物じゃないのなら怪盗事件と誘拐事件の関係って何かしら?」


ルルカが口を挟む。もうキラは何がなんだかわからない。するとクローディアが言った。


「悪くないわね。でも言っておくけど、答えるのは怪盗が誰かだからね? 誘拐犯を答える必要はないわよ。」


その一言を聞いたゼオンの目つきが変わった。

そして「誘拐犯と怪盗は別人」と決め打ったようにティーナに言う。


「あの自称探偵少年が怪盗でも誘拐犯でもあるなら、怪盗としての犯行時間をわざわざ早めて、その後すぐに誘拐に行く理由って何だよ。

 あとあれが誘拐犯ならジャスミンって奴と普通に話してるっておかしいだろ。

 ……というか、この街に入ってすぐの俺達に真っ先に怪しいって思われるような奴が半年以上街を騒がせてる怪盗でいいのか?」


「えー、そこはそう言われても。あたし、ストーカー少年犯人説が本命じゃないしー。」


「じゃあお前が一番怪しいと思うのは誰だよ。」


ティーナの表情が曇る。そして少ししてから答えた。


「ジャスミンちゃん。」


ルルカが眉を潜める。これはキラもありえないような気がした。


「あの子誘拐されてたのよ?」


「でも怪盗出現から誘拐まで二分あるし、あの子も悪魔だから瞬間移動使えるし、お宝盗んだ後にすぐ戻れば問題ないでしょ?」


「深夜0時に誘拐されるために犯行二分早めて頑張って家に戻る理由って何よ?」


ルルカの言葉に早速ティーナは言葉に詰まる。先ほどは一瞬ティーナすごいと思ったのだが、やっぱりアホかもしれない。

ティーナは眉間にシワ寄せて上向いたり下向いたりして考えこんだ後、急に立ち上がって怒鳴った。


「じゃ、じゃあ、誘拐はあの子の自作自演ってことでどうだー!」


「誘拐事件の後、三人とも結構な怪我を負ってるのよ。自作自演にしてはやりすぎだわ。誘拐は本物ってほうが筋が通るわよ。」


「怪盗はもう何度もその前に色々盗みまくってるのに、今更誘拐事件なんて自作自演して言い訳作る意味があるのか?」


ノックアウトだ。ティーナは大げさに椅子の上に崩れ落ちた。やっぱりティーナはアホだった。よくわからないけれどアホだった。

がっくりと俯くけれどもう反論の言葉はない。ティーナまでゼオンだのオズだのの領域の仲間入りをしなくてキラは内心安心していた。

けれどその後ゼオンが付け足した。


「けど、全く不審じゃねえとは言えないかもな。

 ジャスミンって奴、誘拐犯がどんな奴だったかとか一言も言わなかったし、誘拐事件の話をしても怖がったりする様子がなかった。普通の奴なら怖がったり、犯人を捕まえてほしいと思ったりするはずだよな。」


「たしかにそれはそうね。そういえばあとの二人も誘拐犯がどんな人だったか全く言ってこなかったわ。今まで聞いた話が本当なら、三人とも誘拐犯に直接会ってるはずなのに。」


「この二人すげぇ」とキラは素直に感心した。キラには一生ついていけない世界が繰り広げられている。

それを薄ら笑いしながら見てるオズも、出題者のクローディアも「すげぇ」とキラはふらふらしながら思った。多分二人とも話についてきているのだろう。――ホワイトだけはどうだかわからないが。

みんなお馬鹿なキラに優しい会話をしてくれる気は全くないようだった。

それにしても、会話が進めば進むほどどうしてこの二人がこんなに積極的なのかがキラは不思議に思えてきた。この二人は普段どちらかというと冷めていていつも面倒事を嫌がるのに。

今度はゼオンがルルカに訊いた。


「お前は? 一番怪しいと思うのは誰だ?」


「そうね……ノアって子かしら。」


ルルカは考えこみながら答えた。

すると先ほどノックアウトされたばかりのティーナが少しムキになったように言う。


「理由は理由は? 当然あるんだよねぇ?」


「あるけど……あまりはっきりしてないわよ。ジャスミンって子が誘拐された時、あの二人で一緒に探してたって言ってたのよ。けどさっき見た感じじゃ一緒に誰かを探しに行くような仲良しには見えなかったわ。

 それに、どうもあの子の返答は妙だったわ。何か違和感があるのよね。」


「はいっ、反論ー! 獣人はたしか魔法が使えない種族だから、ノア君がお宝盗んでからジャスミンちゃん家まで二分で行くのは無理だと思いまーす!」


「あの子が誘拐犯までやってるとは思わないわ。誘拐犯は答える必要ないらしいじゃない。」


「う……。あ! 怪盗は赤髪なんでしょ? ノア君赤髪じゃないし、獣人だったら魔法で隠すこともできないよ! さあどうする!」


「ゼオンのお姉様が共犯だったら何の問題もないわよ。ゼオンのお姉様は魔女でしょ。」


「ううう……。」


またティーナは派手なリアクションをしてノックアウトされた。ゼオンとルルカは冷めた目どころか見向きもしなかった。

クローディアはたった今共犯扱いされたのに全く気にしていないどころか楽しそうに笑っていた。品のいい笑い方だがどことなくオズに似た笑い方だった。


「ねえ、獣人って魔法使えない種族なの?」


隣のオズに尋ねてみると「そうやけど。」と返された。ロアルの村には獣人はほとんど居ないので獣人の特徴などキラにはわからない。獣人について知っていることといえば、動物の耳や尻尾などが生えている種族ということくらいだ。

オズの話だと、その他に獣人族は身体能力が非常に高く、代わりに魔法が全く使えないという特徴があるようだった。

クローディアが続いてゼオンに目を向ける。


「二人とも目の付けどころは悪くないわね。じゃ、ゼオンはどう思う?」


ゼオンはあまり機嫌が良くないようで皿の上の肉をつまらなさそうにフォークでつついていたが、クローディアにそう言われると顔を上げて言った。


「さあ、まだわかんねぇけど……、なんとなく3人ともいくらか嘘をついているか誤魔化しているかしている気がする。姉貴が口止めしたのか?」


「あら、正解。だってー、すぐに答えがわかっちゃったらつまらないじゃない?」


悪びれた様子もなくクローディアはさらっとそう言う。それを完璧に見透かしたゼオンはやはり鋭い。

三人とも嘘をついていただなんてキラはちっとも気づかなかったというのに。クローディアは一通り話を聞いた後に楽しそうに笑って言った。


「ふふ、なかなか面白かったわ。明日の夕方に答えを聞くからそれまでじっくり考えてちょうだい。」


クローディアの言葉にゼオンもルルカもティーナも迷わず頷いた。やっぱり今回は三人ともノリノリだ。

一体ゲームを引き受けたのは誰だっけ。そう思いながらキラも仕方なく頷いた。

キラは隣の席のオズに聞いてみた。


「なんかさ…どうして今回三人ともノリノリなんだと思う? ティーナはまだしも、ゼオンとルルカとかー……」


「ゼオンとルルカ? ……そらお前、そこはわかるやろ。」


わかりません。オズなんかに聞いたのが失敗だったとキラは心底後悔した。

キラがため息をついた時、急にオズの口元がニィッと上がり、キラは思わず震え上がった。そして不気味に笑って小声で呟いた。


「俺はどっちかってと、ティーナの事情が気になるな。」


キラは何故そう言うのかわからなかった。ティーナはゼオンが乗り気だからじゃないのだろうか。ティーナは他二人より常に何事にも積極的なのであまり不自然なことだとは思わなかった。

だがオズは確信めいた様子で言う。


「俺はひねくれ者やからな、こういう感じは割と目ざといねん。

 ティーナの奴、この街来てからちらほら見えるで。ゼオンやルルカなんかよりずっとどす黒ーい感じの部分がな。

 あいつお前が思ってる以上に、悪魔らしい悪魔かもしれへんで?」


キラはゼオンの正面に座るティーナを見つめる。再び間抜け面でノックダウンしているティーナから、オズの言ったことの意味は見つけられそうになかった。

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