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ある魔女のための鎮魂歌【第1部】  作者: ワルツ
第6章:怪盗幻想シュヴクス・ルージュ
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第6章:第9話

屋敷を出てから裏庭を通り過ぎてキラ達はようやく裏門に着いた。

屋敷があまりに広すぎたせいかもしれないが、裏門はキラが思っていたよりずっと小さかった。人一人がようやく通れるくらいの幅しかなかった。

場所も正門と比べると日陰の目立たない場所にある。着飾った貴族が通ったりするような門にはとても見えなかったが、誘拐犯が通ったとなると納得だ。


「ここは本当は使用人用の門なんだよね。厨房の食材とか運んだりするとき用の。」


ジャスミンが説明をした。それからティーナが門の鍵などを調べ始めた。

キラもティーナのところに行って門を開けたり閉めたりしてみた。

ティーナは鍵に詳しいのだろうか。随分真面目な顔して鍵を見ている。そしてティーナの様子を見るとこの鍵もそう簡単に開けられる鍵ではないようだった。

すると急にゼオンがキラに言った。


「おい馬鹿女。一度門の外出てみろ。」


その呼び方止めてほしいんだけどなと不満に思いながらも、言われたとおりに外に出てみる。

するとゼオンは急に門を閉めて鍵をかけてしまった。


「あ!何すんのばかー!」


キラが慌てて門を開けようとした時だった。急に門や塀がビリビリと電気を帯び、警報が鳴り始める。

警報に「侵入者です」とまで言われてしまった。キラは手をぶんぶん振り回して怒った。


「ほら見ろ、怒られたじゃないかぁ!」


「結界も警報も正常だな。」


「正常だね。」


「正常ね。」


「うるさいばかやろー!」


そう怒っても誰も謝らなかった。ジャスミンが門を開けてくれかたから無事に中には入れたが。

結局三人はキラの怒りなど無かったかのようにスルーして、しばらく門の様子を見てから言った。


「こんなところでいいかしら。」


「いいんじゃない?」


「じゃあ一度帰るか。」


せめてジャスミンにお礼くらい言ったらどうなのだろう。キラは怒って三人を睨みつけていたが誰も気に留めず、キラの中には置いてけぼり感だけが残った。

結局そこで門の様子を調べるのは終わり、その後ジャスミンと数人の使用人が正門までキラ達を送ってくれた。


「じゃあ、怪盗の調査頑張ってね!」


ジャスミンは元気な笑顔でそう言ってくれた。その時、キラはあることに気がついた。


「あれ、そういやあのスト……ソレイユとかいう子は?」


「ソレイユ様なら、先にお帰りになられましたよ?」


わざわざついてきたり急に居なくなったりよくわからない奴だなあと思った。


「ふぅん、まあいいか。じゃあね!」


そう言ってキラ達はアルミナ家の門を出て、再びクローディアの家に歩き出した。

だが歩き出して少しした時、ゼオンの足が止まって急に後ろを向いた。キラ達もつられて後ろを見てみる。一人の使用人がこちらに走ってきていた。


「すみません、一つ言い忘れていたことが……」


「何ですか?」


「お嬢様が誘拐された日の夜、同僚の子が裏門の辺りで赤い髪の子供を見たらしいんです。

 信じたくはありませんが、その子の話じゃ、その子供……ソレイユ様に見えたらしいんです。」


これは大きな情報だ。確かにソレイユは赤い髪だし怪しいことは確かだった。


「わかりました、ありがとうございます。」


使用人はお辞儀をして帰っていった。キラ達は顔を見合わせた。

誘拐が起こった時間にソレイユが裏門にいたのだとしたらたしかにそれは不自然だ。まさか本当にストーカー疑惑だろうか?

そう考えながらキラ達はクローディアの家へ戻った。


◇ ◇ ◇



とりあえずクローディアの屋敷に戻ったキラ達は再び呆れることになる。

なぜなら姿を消したはずのソレイユがクローディアの屋敷に居たからだ。ソレイユ屋敷の入り口の広間で仁王立ちしてノアと口論していた。

あまりにも大きな声で怒鳴っていたのでキラはしばらく唖然としてその口論を見ていた。


「だーかーら、あの腹黒女に会わせろって言ってるだろ、このクソ猫!」


「お前のような探偵気取りの痛々しい輩はマスターに悪影響です。お引き取りください、馬鹿探偵。」


「うるせぇ、バカって言った奴がバカなんだよバーカ!」


幼い子供の決まり文句をこうも堂々と叫んで恥ずかしくないのだろうか。

止めることもできずその様子を見ているとノアがキラ達に気づいた。


「あ、お帰りなさいませ、皆様方。」


「ただいまー。……んで、なんであんたはまたいるの?」


キラがソレイユを指さすとノアが不思議そうに言った。


「皆様、こいつのこと知っているんですか?」


「ジャスミンちゃんの家の前で会ったの。」


「ジャスミン様の?」


急にノアの目が鋭くなり、耳と尻尾が毛を逆立ててピンと立った。

怒っている怒っている。どうもソレイユがジャスミンの家に行ったことが気にくわないらしかった。ノアは腰の刀に手をかけて、愛らしい容姿に似合わない迫力で言う。


「お前……ジャスミン様の家に何しに行ったのですか?」


「誰がお前に言うかよ。同級生だからあいつの家行ったって不思議じゃねえだろ、バーカ!」


どうもノアとソレイユはあまり仲が良くないらしかった。

その時、騒ぎを聞きつけたのか奥からクローディアがやってきた。やっと口論が収まってくれそうだ。

相変わらず素晴らしいドレスに身を包み、上品な足取りでやってきたクローディアは優しげな笑顔を作って言った。


「お帰りなさい。……あら、ソレイユ君じゃない。どうしたの?」


「おいおい腹黒女ぁ、なんでお前の弟が来てるのかとかなんで怪盗調査なんてやってるのかとか、おめーに訊きたいことが山ほどあるんですけどー?」


この街でクローディアにそんな態度をとる人をキラは初めて見た。ある意味すごい度胸だ。命知らずとは正にこのことだ。

そんな失礼な態度に腹をたてずに笑顔で対応するクローディアも大物だ。


「大丈夫、ちゃんと説明するわ。ちょっと来てくれる?」


そう言ってクローディアはソレイユを連れて屋敷の奥までついていった。

ノアはまだ機嫌が悪そうだったが、クローディアが去ってからはまたいつも通り落ち着いた様子で言った。


「大変失礼いたしました。ご案内いたします。」


するとゼオンが訊く。


「一ついいか? 姉貴の知り合いで子供なのは、お前とさっきの馬鹿とジャスミンとかいうのの三人でいいんだよな?」


「はい、そうです。」


犯人が子供で、クローディアの知り合いというゼオンの前提が正しければ……ノア、ジャスミン、ソレイユの三人が怪盗候補と見ているのだろうか。


「あれ、怪盗って赤い髪の少年って言ってなかったっけ?」


「外見を一時的に魔法で変えることくらいできるだろ。」


ゼオンが断言する。ゼオンの前提となると合っていそうで恐ろしい。

今度はルルカが訊く。


「じゃあ貴方にも訊くわ。先月の怪盗の事件の時、どこで何をしていたの?」


「ジャスミン様が誘拐されたと聞きましたので、マスターの御指示で探しに行っていました。あの馬鹿探偵と一緒に。」


「先月の怪盗の犯行は誘拐事件より前に起こってるわ。それより前は何をしていたの?」


「屋敷で仕事をしておりました。」


「……わかったわ。」


「では、ご案内いたします。」


ノアは落ち着いた様子のまま丁寧にお辞儀をしてキラ達を案内していく。

ゼオンもティーナもルルカもまた何か考えこみながらノアについていった。

一体何がこの三人をこうも駆り立てるのだろう。怪盗の正体よりもキラはそちらが気になってきた。



◇ ◇ ◇



探偵ごっこに興味はあったが結局行かないことにした。久しぶりにヴィオレのこの場所に戻ってきたのだから今日はここでのんびりしていこうと思ったからだ。

用が終わったらちょっと買い物にでも行こうかな。そんなことを思いながらショコラ・ホワイトは部屋を出た。

この屋敷は彫像、絵画、シャンデリアの形状一つとっても主であるクローディアの空気が見える。派手好きで美しく愛らしいものが好きなクローディアらしい。

なじみ深い空気を感じ、ホワイトは少し安心感を覚える。

この街を発ってロアルの村で暮らすようになってから数年。何度もこちらに顔を出してはいるが、一応故郷といえるこの街に降り立った時の懐かしさはいつになっても変わらなかった。

赤い絨毯の敷かれた階段を上へ上へ、クローディアの私室がある七階を目指した。一つクローディアに用があった。少し前にあることを調べてくれるよう頼んだのだ。

ようやくその部屋にたどり着き、ノックをしようとした時、中から声が聞こえてきた。

一つはクローディアの声。もう一つは、少なくともゼオンよりは年下と思われる少年の声だ。


「話はわかったけどよ、おめーそれまずいって! 俺様忠告してやってんだぜ? ちょっとは聞けよ!」


「大丈夫よ、ソレイユ君が思いつく程度の事態くらいどうにかなるわ。それだけの手札が今回はあるから踏み切ったのよ。」


「どうにかなるとかの問題じゃねえよ、先月のようなことがまたあってたまるか!

 また動き出してるんだよ、ジャスミン……また危なくなるかもしれねえ。それに、もしかしたらお前の弟だって危ねえかもしれねえぞ?」


「あら、ゼオンはソレイユ君が思うよりしっかり者よ。」


「ほんとかよ? つぅか、ジャスミンやお前の弟以前に一番危ねえのお前だろ。」


「ふふ、心配ありがとう。でも大丈夫よ。」


何か大事な話の最中のようで、ノックして入っていいものかホワイトは少し迷った。危ないとはいったい何の話だろう。

クローディアと話している相手の声色から深刻な話だとわかったので余計に邪魔をしていいのか困ってしまった。

結局話が切りのいいところまで終わるのを待ってから、ホワイトはドアをノックした。

すると中からクローディアの声がする。


「あら、どうぞ。」


ホワイトは中に入る。それを見てソレイユはクローディアに言った。


「じゃあ俺様そろそろ帰るよ。お前ほんと気をつけろよ!じゃあな!」


そう言ってソレイユはそそくさと部屋を出て行った。結局何の話だったのだろう。

不思議に思ったがクローディアはそれについて触れる様子はない。

クローディアはホワイトに目の前の椅子に座るよう勧め、ホワイトがそれに応じるとクローディアはすぐに尋ねた。


「ショコラちゃんは私に何のご用かしら?」


「あの、私が頼んだ調べもの……どうでしたか?」


クローディアの表情から笑いが消える。そして引き出しから分厚い封筒を取り出して手渡した。

ホワイトがこの調べものを頼んだことをあまり快く思ってはいないようだった。


「一応調べたけど、どうして急にこんなことを? ショコラ・ブラックって……貴方のお友達なのよね?」


「はい、本当はこの旅行一緒に行こうーって誘ったんだけど断られちゃいました。

 なんかエンディルスの実家の方に行くーとか言って。」


「……そんなお友達のことをどうして調べる必要があるの?」


ホワイトは唇の前に指を立て、「秘密。」と言って微笑んだ。クローディアの表情はまだ険しいがホワイトはその理由を答える気はなかった。

きっとクローディアはそれを言ったら、あることをホワイトに尋ねるだろう。そして、それを言ったらきっとクローディアはこの封筒の中身を調べてくれなかっただろう。

ブラックが気になることを言っていたのだ。本当かどうか信じがたい、けれど気になること。

ブラックが言ったその一言はホワイトにとってとてつもなく重大な一言なのだ。

理由を訊くのは諦めたのか、クローディアは仕方なく資料について話し始めた。


「……結論から言うとね、ショコラ・ブラックなんて人物もう存在しないわ。」


「『もう』存在しない?」


「赤髪の天使って凄く珍しいのよ。魔女や魔術師はそこまで偏りはないんだけど、天使と悪魔は髪と目の色にある程度傾向があるの。天使は金髪や青系の、悪魔は黒系や赤系の色が多くて、逆に天使に赤系、悪魔に青系の髪や目の色はとても少ないの。

 あと一応付け足すと、白い髪や目の人はどの種族も共通して希少ね。自然には発生しないと言われる程よ。

 で、話を戻すと、今まで天使で赤髪だった家系は一つだけなの。その家も五年前のエンディルス国のクーデターで滅んでいるの。

 そのショコラって子の写真見せてもらったけど、その家にその子とよく似た子がいて、五年前に死んでるわ。それ以来、赤髪の天使なんて目撃されていないのよ。

 その封筒の中身、見てみて。5年前に死んだっていうその赤髪の家系の子とそのショコラ・ブラックって子、そっくり……っていうかどう見ても同一人物でしょ?」


「五年前に死んでいる……?ショコラが……?」


ホワイトは封筒を開く。動揺が隠せなかった。だが封筒の中から出てきた資料に添えつけられた写真の少女の顔はショコラ・ブラックと全く同じだった。

資料にはその5年前に死んだ少女の経歴が書かれていて、「5年前、エンディルス国のクーデターに巻き込まれ命を落とす。」と最後に書かれていた。

ホワイトにはその一文が幻のように思えてきた。だって、ショコラ・ブラックという赤髪の天使は現に存在している。ホワイトのクラスメートで、いつも喋り、一緒に授業を受けている。

もし五年前にブラックが死んでいるとしたら、今居るブラックは一体誰だというのだろう。


疑問と謎が渦巻く。ショコラ・ホワイトもまた、いくつもの謎を抱え、その答えを求めていた。



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