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ある魔女のための鎮魂歌【第1部】  作者: ワルツ
第6章:怪盗幻想シュヴクス・ルージュ
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第6章:第8話

ティーナが棘のある口調で言う。


「それで、なんであんたまでいるわけ?」


「いいだろ、別に。怪盗調査についちゃあ『先輩』の俺様が色々教えてやろうってだけだ。」


「年下のくせに……。」


ティーナはソレイユがついてきたことが気にくわないらしかった。それからティーナはぼんやりとシャンデリアのぶら下がる天井を見上げて呟いた。


「それにしても……嫌なとこ来るね。」


華やかで美しい屋敷でティーナがなぜそんなことを言うのか不思議だった。

ここはアルミナ家の客間。屋敷の中に案内されたキラ達はここでしばらく待つように言われていた。

クローディアの家も凄かったがこちらの屋敷も素晴らしい。さすがこの街の領主だ。クローディアの屋敷は金銀装飾に溢れた豪華絢爛な建物だったが、こちらは落ち着いた雰囲気だがあちらに見劣りすることはなく品がある。

警備員の数も多く、入り口は勿論屋敷の周りのいたるところに騎士の如く立っていた。そして警備用の結界の強度も相当強いようだった。

こんな厳重な警備をかいくぐってジャスミンを誘拐したなんて一体どんな人だろうとキラが思った時、年老いた執事と数人の使用人が入ってきた。


「お待たせいたしました、ゼオン様方。誘拐事件の方を調べていらっしゃるそうで。

 私達に協力できることがありましたら遠慮なく申しつけください。」


早速ゼオンが尋ねた。


「じゃあ、まずその時の状況を教えていただけますか。」


「今日からちょうど一ヶ月前、深夜0時ちょうどでした。急に警報が鳴ったんで、門を確認してみましたところ、屋敷の裏にジャスミン様の髪飾りが落ちていまして、お部屋を確認しましたらジャスミン様はいらっしゃらいませんでした。」


「侵入者に気づいた人は?」


「それが、誰も気づかなかったのです。物音一つ無く……けれど裏口の鍵がいつの間にか開いていまして、おそらくそこから逃げたものと思われます。」


ティーナ、ルルカ、ゼオンがしばらく考えこんでから色々質問し始めた。


「何それ、あの子がぎゃーとかわーとか抵抗するような声なかったの?」


「はい、全く……」


「裏口の鍵ってどこにあるのかしら?」


「裏口の鍵は地下にあります。盗まれたりはしておりません。」


「警報が鳴る条件は何だ?」


「屋敷の正門か、裏門、あと警備用の結界に触れた時でございます。」


三人が質問を投げかける中、キラだけが置いてきぼりでぽかんと座っていた。

なぜだか知らないが今回は三人ともノリノリだ。気持ち悪いくらいに積極的だ。

いつになくみんな真剣に考えこんでいる。いつもだったら押しつけ合いの嵐なのに。

言い出しっぺがオズではないからか、それともキラではないくせにそんなにサラの情報が気になるのか、それとも怪盗自体に興味があるのか……理由はよくわからないけれど、「ゲームを引き受けたのは誰だっけ?」と疑うくらい三人共真剣だった。

ティーナなんて腕を組んで考えこむような頭脳派キャラだった覚えがない。

キラが唖然としてその様子を見ていると、別の使用人が部屋に入ってきた。


「ジャスミン様がお帰りになりました。お呼びしましょうか?」


「じゃあお願いします。」


するとジャスミンが入ってきた。すると急にソレイユが少し顔を赤くしてそっぽを向いた。

ジャスミンはにっこり笑って言った。


「こんにちは、また会ったね。話は聞いたよ、怪盗のことと誘拐事件のこと調べてるんだって?」


「うん、お邪魔してごめんね。」


キラがそう言うと、ジャスミンは大丈夫と笑顔で言った。それから、ジャスミンはソレイユの方を見た。


「それで、なんでお前はボクの家にいるの?」


「うるせぇ、こいつらについて来たんだよ、悪いか!

 ってか何でお前こいつらが怪盗のこととか調べてるって知ってるんだよ!」


「だって使用人に聞いたし。」


それはまあ、その通りだろう。ぽかんとするソレイユは放っておいてティーナがジャスミンに尋ねた。


「あんた、知り合いなの?」


「うん、こいつボクの同級生のソレイユ。ただのバカだから気にしないで!」


「うん、わかった!」


「わかるなぁ!」


ソレイユがそう叫んだが誰一人聞いていなかった。使用人達まで反応しないのでどうやらそういうキャラとして定着しているらしかった。

それからゼオンがジャスミンに尋ねた。


「誘拐された時のことを教えてくれるか?」


「部屋に犯人が入ってきてさ、いきなり気絶させられちゃって、気が付いたら海岸近くの公園に居て……そしたらノア君とそこの馬鹿が来て、悔しいけど助けてもらったんだよね。」


ジャスミンはソレイユを指差して言った。警官が言っていたジャスミンが発見された時に一緒にいた二人は、ノアとこの探偵少年であることがこれではっきりした。

ソレイユはまた急にそっぽを向いたり俯いたり気まずそうな表情で黙り込んだ。ゼオンがソレイユに訊く。


「じゃあ、怪盗の犯行時間、お前は何してたんだ?」


「怪盗の犯行現場に行って、怪盗捕まえようと待ってたんだよ。俺様は少年探偵だからな! ……警備員に追い返されたけど。

 その後、そいつが誘拐されたって聞いたから探してた。」


使用人達とキラは揃って苦笑した。ゼオン達は今のソレイユの発言に目を光らせていたが。

その後ジャスミンが言った。


「みんな、ボクの部屋来て話さない?

 それに誘拐事件も調べているならその現場がどんなもんか見てみたいでしょ?」


キラ達は顔を見合わせた。ゼオンが横目でキラを見て頷いた。

キラがジャスミンに言った。


「わかった、そうしよっか。」



◇ ◇ ◇



ジャスミンの部屋はすごかった。どうすごいのかというと、とりあえずすごいとしかキラには言えない。

ジャスミンの性格のせいかこれまで自分とさほど変わりない普通の女の子だと思っていたが、この部屋に来てようやく超お嬢様だということがわかった。

天井はキラの家よりずっと高く、床は明らかに大理石、出された椅子も価値のありそうなアンティークものだ。

くまのぬいぐるみとか可愛い置物とか女の子らしいものもたくさんあるがそれでさえブランドものやプレミアものばかり。

またクローディアの屋敷に入った時のような眩暈に襲われた。金持ちってすげえ。

今まで自分が暮らしてきた世界とはあまりにも別次元で、怪盗の調査に来たことを忘れてしまいそうだった。


「じゃんっ、ボクの部屋にようこそー。」


当然のことのようにそう言うジャスミンを見て、なるほどお嬢だと納得した。

くらくらしているキラを押しのけて、ティーナとルルカが窓の近くへと行った。


「誘拐犯が入ってきた窓ってここかしら?」


「うん、そうだよ。」


するとティーナが鍵を調べ始めた。窓を開けたり閉めたりして確認している。

ティーナが鍵のことなんてわかるのか疑問だったが、本人はわかっているような顔して調べていた。

そしてしばらくしてから言った。


「さっすがアルミナ家だね。いい鍵してるよ。こりゃ外からなんて開けられないって。」


「魔法で鍵を開けられたりしないように対処してあるから、鍵が無かったら普通は開けられないはずなんだけどね。」


なら一体どうやって入ってきたのだろう。今度はそっちのことでくらくらしそうになる。キラの頭ではどうやって入ってきたかなんて思いつきそうになかった。

ゼオン達は色々と考えている様子だったがキラはわけもわからずみんなを眺めていることしかできない。するとしばらくしてからゼオンが言った。


「裏門、見せてくれるか?」


「いいけど、どうして?」


「犯人が入ったのは多分裏門からなんだろ? どうやって部屋に入ったか以前にどうやって屋敷に入ったかまず問題だろ。」


「確かにそうだね、ついてきて。」


ジャスミンが部屋から出て行く。全員がジャスミンの後から部屋を出ようとした時だった。

急にティーナの足が止まった。つられてキラとゼオンの足が止まる。

ティーナはジャスミンの本棚にある一冊のノートを見ていた。随分古ぼけたノートで色も変色している。背表紙に何か数字のようなものが書かれていたがかすれて読めなかった。

ティーナはそのノートを急に勝手に取り出した。表紙も中身も損傷が激しく、もはやノートとして機能しそうにない。


「どうしたの?」


キラがそう言うと、ティーナは慌ててノートを棚に戻して無理に笑って言った。


「何でもない。行こう行こう。」


ティーナはそう言ってさっさと部屋を出ていった。どうもこの街に来てからティーナは変だなと思った。



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