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ある魔女のための鎮魂歌【第1部】  作者: ワルツ
第6章:怪盗幻想シュヴクス・ルージュ
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第6章:第7話

金髪の二人の悪魔はキラ達の方を興味深そうに見ていた。

少女の方がキラに尋ねる。


「怪盗に興味がおありで?」


「興味っていうか、ちょっと調べてるんです。ところでどちらさま?」


すると少女は自分と隣の少年を紹介した。


「申し遅れました、あたしはエリス・フラン。こちら、兄のスピテルです。」


「あたしはキラ。こっちが、ゼオンとティーナとルルカ。」


エリスとスピテルの目は真っ先にゼオンに向かった。それから三人に挨拶した。

その後にスピテルが訊く。


「ところでどうして怪盗のことを調べているのですか?」


「クローディアさんとちょっと色々あって。」


「へぇ……。クローディア・クロードとお知り合いで?」


するとティーナが紋章を突きつけて言う。


「こちらのゼオン様はクローディア嬢の弟君なのだ!」


「へえ、弟さんなんですか。」


ティーナは完全に楽しんでいるなとキラは笑った。それからエリスがこう言ってきた。


「そういうことなら、あたしも怪盗に関することを一つお教えしましょう。

 あたしが聞いた話ですと、怪盗はどうも魔物使いらしいですよ? 魔物を召還してくるものだから警備員も余計にてこずっているのだそうです。」


するとゼオンがすぐに聞き返した。


「そんな話、一般人のくせにどこで?」


「あたし達、今度予告状が届いた時計台美術館に勤めていまして、怪盗が来るという話でしたから噂が飛び交っていたのですよ。

 まあ、噂ですから確かな情報ではありませんが。」


微笑みながらそう言うエリスの目をゼオンはずっと睨みつけていた。

それから、少し不愉快そうに背を向けて歩き出してしまった。


「あっ、ちょっと!」


「煩い、さっさと行くぞ。」


急にそう言ったゼオンの後をルルカとティーナがついて行く。

キラは慌ててエリスとスピテルに謝った。


「ごめん、ゼオンあんなんで…。怪盗のこと教えてくれてありがとね!」


「いえいえ、どういたしまして。それにしても、くれぐれもお気をつけて。」


「え?」


エリスの意味深な言い方にキラは首を傾げる。エリスの目がどこか鈍く光り、遠ざかっていくゼオンとティーナの後ろ姿を見つめて言った。


「紅髪と紅眼って、この街では不吉だっていう話があるんですよ。

 紅ってね、昔世界を滅ぼしかけた悪い神様の眼の色と同じなんですって。悪い神様の呪いの色なんですってよ……?」


薄く笑う瞳がどこか恐ろしく感じた。ゼオン、ティーナ、オズ、ホワイト、ルイーネ……一緒に来たメンバーの中だけでもこれだけ紅眼か紅髪がいるというのにそんなことを言われても。

すると隣にいたスピテルがエリスを叱った。


「止めないかエリス。すみません、妹が失礼なことを言って。

 気にしないでください。元々悪魔や吸血鬼は紅髪が比較的多い種族らしいですから普通のことです。この街だけですよ、そんな噂があるのは。

 怪盗の調査、頑張ってくださいね。」


「あ、はい、ありがとう!」


そしてキラは慌ててゼオン達の所まで走った。エリスの言った言葉がもう一度浮かんで消えた。

「紅は悪い神様の呪いの色。」

気になる言葉だったが、考えている間もゼオン達は止まってはくれない。

なので「そんなわけないよね」と笑い飛ばすことにした。


◇ ◇ ◇



「なんか、また豪邸が現れそうな気がするのは気のせい?」


そう言ってキラはゼオン達の後をついていく。周りを見るとまたもや豪華な屋敷やら庭園やらが目立つようになってきた。

キラ達は先ほど教えてもらったジャスミンの家――アルミナ家に向かうところだった。

この辺りはお金持ちばかりが住む地区なのだろう。どの家の門の前にも必ず警備員がいる。

きらびやかな豪邸の数々に頭がくらくらしてきた。今まで田舎のボロ家に住んでたキラにとっては別世界。キラはまだこの街に慣れてはいなかった。

またクローディアの家みたいな豪邸なんだろうなとキラは予想していた。するとティーナが言う。


「気のせいじゃないよ。この街はアルミナ家の領地だもん。この街一の豪邸だよ。」


「へぇー。」


「よく知ってるな。で、どうしてお前がそんなこと知っているんだ?」


ゼオンがそう言うとティーナが青ざめた。目が泳ぎ、明らかに動揺している。

言われてみれば確かにゼオンの言うとおり。初めて来たはずの街の領主をティーナが知っているというのは不自然だ。

ゼオンがティーナの方を見た。ティーナは口をパクパクさせて何も言わない。


「もういい、大体わかった。」


「ちょ、ま、わかったの? なんでわかるの?」


「勘。」


「そんなのあたしの知ってる勘と違うー! ちょっと待ってよぉ、ゼーオーン!」


さっさと先に向かうゼオンを慌ててティーナが追いかけていった。結局、ティーナがなぜアルミナ家を知っていたのかは教えてもらえなかった。

そうして歩いていくと、しばらくして屋敷の群れが消え、急に視界が晴れた。

広い。安直だがそれが最初に出てきた言葉だった。

趣のある巨大な門の向こう側には色とりどりの花が咲き乱れていて、門の前には何人もの警備員。

そして目を凝らさなければ見えないくらい遠くに屋敷が見える。キラはまた目眩がしそうだった。

これだから貴族って奴は。するとルルカが呆れて言った。


「なに驚いてるのよ。中級貴族程度の屋敷じゃない。」


これにはむしろキラの方が呆れた。これだから元王女は。

一人くらくらしているキラを置いて三人は門へと向かう。だが急に三人の足が止まった。

キラが三人の視線の先を見る。どうやら先客がいたようだった。

紅髪で緑眼の眼鏡をかけた少年が門の前にいる。見たところキラ達より少し年下のようでベレー帽をかぶっていた。キラ達が門の前まで向かうと少年がキラ達に気づいた。


「誰だよあんたら。ここに何の用だよ。」


「用っていうか……。あ、とりあえずジャスミンちゃんの家ってここ?」


「そうだけど。ってかあんたらもあいつに用あるのかよ?」


すると少年は急にキラ達を敵意のこもった目で一人ずつ追って行ったかと思うとゼオンの前までやってきてゼオンを強く睨みつけた。なぜゼオンなのかわからないキラはまた首を傾げる。

するとティーナがすぐにゼオンの前に出て怒った。


「ちょっとあんた! あたしのゼオンに何すんのさ!」


「……いつからお前のになった?」


「別にー。あいつに用があるって奴がどんなもんか見てやりたかっただけですよーだ。」


小馬鹿にするような口調がかえって子供臭く感じる。少年は不愉快そうにゼオンの顔をじろじろ見つめていた。

それを見たティーナはしばらくなにか考えこんだ後、急に何か思いついたように手を叩いて、少年を指差して必要以上の大声で言う。


「わかったぁ、あんたジャスミンちゃんのストーカーだぁ!」


「違ぇ!」


「何それ、最低ね……。」


「あー……あの子結構可愛かったからなぁ。」


「便乗するなあ!」


そう言われてもルルカが乗ったのなら、ここはキラも乗るべきだろう。

完全にストーカー扱いされた少年は助けを求めるようにゼオンに言った。


「お前、こいつら止めろよ!」


少年がゼオンを睨みつける。ティーナとキラは小声でニヤニヤしながら「ストーカーストーカー」とふざけて言っていた。

ゼオンは返答に困っているようだった。しばらく黙り込んだ後にゼオンはルルカに尋ねた。


「こういう時はなんて返せばいいんだ?」


「さあ、知らないわ。自分で考えて。」


ルルカに見放されたゼオンは少年とキラ達の様子を交互に見てまた黙り込み、最終的にこう言った。


「……ストーカーは駄目だろ。」


「うおおおおおおお!」


ゼオンも空気を読めるようになったなあと半泣きで頭を抱える少年の後ろでキラは感心していた。

すると少年は急に仁王立ちで偉そうに言ってきた。


「畜生、俺様はストーカーなんかじゃなくて、少年探偵ソレイユ・スプランディー様だ!

 怪盗を捕まえる(予定)の偉大な探偵だからよぉく覚えとけっ!」


「……なんか痛々しい奴だな。」


「……痛々しいわね。」


「……たしかに痛々しいね。」


「うっわ、あいたたたー……。」


「ちくしょおおお!」


謎のストーカーのソレイユはまた奇声をあげて頭を抱えた。

それにしても、自称で予定とはいえ、怪盗を本気で捕まえるつもりだろうか。

そのことを訊こうとした時、門の向こうから警備員が出てきた。


「ソレイユ様、すみませんがジャスミン様は今いらっしゃいません……おや、そちらの方々は?」


ティーナがまたクロード家の紋章を見せた。


「クローディア嬢の弟のゼオン様と愉快な仲間達だ!」


「私達、怪盗のことをクローディアさんに調べるように言われたんですけど、その調査の為にジャスミンちゃんの誘拐事件のことも調べてるんです。少しお話を聞かせてもらえませんか?」


警備員はそれを聞くと快く門を開いてくれた。


「クローディア様の弟さんですか! どうぞお入りください。」


その時、急にソレイユの表情が変わった。


「あの腹黒女の弟だって? 怪盗のことをどうして……。」


「ちょっとそこは色々あってねー。」


「どうして誘拐事件のことまで調べてるんだよ?」


「まあそりゃ関係ありそうだなぁと思ったからだって。勘という名の超能力であらゆる謎を解き明かす我らのゼオン様が言うんだから間違いない! ってことになってさ。」


ティーナが自慢気に言う後ろでゼオンが非常に不愉快そうにしていた。ソレイユは悪態をついてティーナ達を馬鹿にした。


「ケッ、お前らにそう簡単に怪盗のことなんてわかるかよ。」


「それがわかっちゃうんだなあ。クロード家の紋章見せたらすぐ色々教えてくれたよ。警察の人とかー、あと金髪の兄妹とか。」


ソレイユがまた驚きの表情を浮かべた。先ほどより少し顔色が悪いように見えた。


「おい待った……。その金髪の兄妹って、名前は?」


「エリスとスピテルって人だけど……。」


キラが話すと、ソレイユは俯きキラ達から目をそらした。明らかに不自然な反応だった。キラ達はその反応を見逃さなかった。


「皆様、中にご案内します。」


その時門の警備員が言い、キラ達は門の中に入っていった。


「ちょっと待った!」


ソレイユが急にキラ達の前に立ちはだかって言った。


「……俺も行く。」



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