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ある魔女のための鎮魂歌【第1部】  作者: ワルツ
第6章:怪盗幻想シュヴクス・ルージュ
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第6章:第6話

キラ、ゼオン、ティーナ、ルルカの四人で早速情報収集を始めることにした。オズは結局屋敷でのんびりすることにしたらしい。

ホワイトは怪盗というロマンチックな響きに目を輝かせていたのだが、クローディアに用があるらしくそちらを優先したようだ。

白いレンガ造りの建物の中をキラ達は歩いていく。市街地にはたくさんの素敵なお店が並んでキラはついじろじろ見てしまう。

店に並んでいる物はウィゼートでは見かけないものばかり。店の物、そして街行く人を見てキラは改めてここが異国だと認識した。

街行く人々の多くは背中から黒い蝙蝠に似た羽が生えていた。デーヴィアは悪魔が住む国だ。

羽が生えていない人も居たがその大部分は羽を隠しているだけだろう。天使や悪魔はそういうことができるらしい。

そんな中、ルルカがキラに言った。


「情報収集っていっても、どこに行くつもり?」


キラの顔が真っ青になって立ち止まった。ガクガク震えて何も言えなくなった。


「つまり考えてなかったわけね。」


見事に言い当てられてしまった。コクコク頷くしかない。そんな時にゼオンが唐突に言い出した。


「さっきの警察署だ。」


何かのメモを見ながらそう言って早歩きに進んでいく。キラは少し驚いた。ゼオンがこう積極的に協力しようとするとは思わなかった。


「何か今日はどうしちゃったの? いつもならもっとめんどくさそうにしてるのに。」


ゼオンは一瞬言葉に詰まり、それから少し目をそらした。


「……ただの暇つぶし。」


キラは首を傾げたが、協力してくれるということは嬉しいのでそれ以上特にそのことは訊かなかった。代わりにこう訊いた。


「ところで、何で警察署なの?」


「怪盗の情報とか教えてもらえるかもしれないだろ。その情報と『容疑者』の情報を比べてみないとな。」


容疑者の一言に首を傾げた。ティーナとルルカもゼオンが言ったことの意味はわかっていないらしい。キラが訊く。


「容疑者って……あんた怪盗に心当たりあるの?」


「そんなのねえよ。ただ、可能性がある奴はわかる。

 犯人は絶対姉貴の知り合いだ。」


「お姉さんの知り合い? どうして?」


「姉貴は『怪盗が誰か当てろ。』って言っただろ。『怪盗を捕まえろ』じゃないんだ。姉貴が犯人が誰か知っていなきゃクイズにならないはずだろ。

 あの姉貴は腹黒いから怪盗の正体を知ってながら黙っているわけねえんだ。怪盗を手助けしながらついでに金儲けてるに決まってる。」


キラは素直に感心した。逃亡者から探偵に転職できるなと一人で何度も無意味に頷いた。


「んで、知り合いが誰かわかるの?」


「ああ、さっき姉貴からリストを貰ってきた。」


するとルルカが言った。


「貴方のお姉さんが怪盗と通じているなら、その怪盗の情報が載ってるリストを素直に渡したりするかしら。」


「怪盗の情報を渡す気が無かったら最初からこんなクイズは出さねえよ。

 多分むしろ俺たちに犯人を当ててほしいんだろ。」


「どうしてよ?」


「流石にそこまではわからねえな。そこを考えるよりまずは情報を集めるのが先だろ。」


確かにそれはそのとおりだ。キラ達は早速先ほどの警察署へと向かった。警官達は先ほどと同じ様子で、怪盗がどうのこうの言いながら慌ただしく動き回っている。

この状況では話ができるかどうかすら怪しいがとりあえず中に入っていく。

中は外以上に慌ただしかった。どこかに電話をかけている人、警備について何か指示を出している人など……暇そうにしている人はほとんどいない。

声をかけづらい状況だがこのまま突っ立っているわけにもいかない。キラは比較的落ち着いた様子の人を探して尋ねてみた。


「あの、すいません。」


「なんだ嬢ちゃん、今こっちも色々あるんだが。」


「この街の怪盗について聞きたいことが……」


そこまで言いかけた時、一人の警官がキラと話している警官を呼んだ。


「悪い、後でな。」


そう言ってさっさと行ってしまった。やはり今は忙しいらしい。キラはしょぼんと俯いた。

その時、急にティーナがこんなことを言い出した。


「話を聞いてくれないならさあ、一旦みんな黙らせればいいじゃん。」


ティーナがこわい。一体何をする気だと震えているとティーナはゼオンに言った。


「はいゼオン! ちょっとここに乗って!」


ティーナは二階に続くと思われる階段の一段目を指差した。


「なんでだよ。」


「いいからいいから!」


ゼオンは言われたとおり一段上に昇る。


「ね、さっきお姉さんから貰った紋章貸して。」


ゼオンから紋章を借りると、ティーナはずかずか警官の集団に入り込むと、警察署が崩れ落ちそうな大声を出した。


「静まれ静まれいぃ!」


冷ややかな目線がこちらに集中する。そして紋章を警官達に突きつけた。


「この紋章が目に入らんかぁ!」


クロード家の紋章。それを見た途端警官全員の顔が真っ青になった。

そして警官達は急に態度を変えてキラ達に少し怯え混じりの声で丁寧に言う。


「そ、その紋章……まさか、クローディア・クロード様のご親戚か何か……ですか?」


ティーナはゼオンを紹介するように言った。


「ここにおられる方はあの大富豪クローディア様の弟君、ゼオン・S・クロード様であらせられるぞ!」


「お、弟……だと……?」


「あの腹黒……いや、クローディア様に弟がいらっしゃったとは……」


クローディアさん、何したんですか。黄金の輝きを前に警官達は言葉を奪われた。


「ゼオン様の御膳だ、控えろぉぉ!」


嗚呼、権力。その二文字は他のあらゆる力を駆逐し眼前に存在する頭を次から次へと地に押し付ける波を生む。

警官達は震えあがり兎の如くジャンプした後美しい土下座の体勢を作り上げた。

クロード家ご子息を前に醜い面を晒す者など一人も無く、ここからなら一階全てを見渡せた。

あまりの態度の変わりようにキラもゼオンも何も言えなかった。

ただ一つはっきりしたことは、どうやらクローディアはこの街では超の付く権力者だということだった。さすがオズの知り合いは一味違う。それからゼオンが警官達に言った。


「……とりあえずそういう態度いらないですから顔上げてください。

 怪盗シュヴクス・ルージュについて調べているんですが、何かわかることはありませんか?」


警官達はざわざわと何か話し出した後、キラ達に答えた。


「シュヴクス・ルージュは、半年前にこの街に出没し始めた怪盗です。身軽で戦闘能力も高いので我々も手こずらされているのです。

 わざわざ予告状を出し、時間ぴったりに盗みを働いていくんですよ。警備員には傷一つ負わせずに目当ての物だけかっさらってく嫌味な奴です。

 シュヴクス・ルージュという言葉には『赤い髪』という意味がありまして、怪盗は赤い髪をしていると聞いております。

 元々、怪盗シュヴクス・ルージュとはもっと昔……数百年も昔に出没してた怪盗なんですが。最近になって同じ名前を名乗る怪盗が出没したんですよ。」


キラは熱心にその話を聞いていた。ゼオンがルルカに何か言ったようで、ルルカが話を聞きながら何かメモを取り出した。ゼオンも黙って話を聞いていた。

すると別の警官がこう言った。


「先月も貴族の屋敷から宝石が盗まれましてね。……けどそういやあの時はちょっと妙だったな。」


「妙……とは?」


「いつも時間ぴったりに犯行が行われるはずが、いつもより二分だけ早く行われたんですよね。」


キラとゼオンは顔を見合わせる。これは何かありそうだ。

今度はキラが言う。


「その日、他に何か変わったことは? 何でもいいんです、何かないですか?」


「いや、特には……」


「じゃあ、その日何か別の事件とか起こりませんでしたか?」


ゼオンが口を挟む。すると警官はこう答えた。


「普通の窃盗に、事故に、あと食い逃げとか……。

 あ、そういやアルミナ家のジャスミンってお嬢さんが誘拐されたのはあの日だったな。」


ジャスミン――先ほど会った少女だ。キラが更に詳しく事情を教えてもらえるように頼むと、警官は捜査資料を取り出してきて話した。


「事件が起こったのはちょうど先月の怪盗の犯行と同じ日です。

 深夜0時にジャスミンさんが誘拐されてアルミナ家の警報が鳴ったとのことです。

 ジャスミンさんはその後浜辺の公園で見つかったらしく、保護されました。

 その時ジャスミンさんとその場にいた悪魔の少年一人が全治二週間の怪我、獣人の少年が全治三日の軽い怪我を負っています。犯人はまだ捕まっていません。」


「その場にいた二人って誰ですか?」


「獣人がノアール・アリア、悪魔がソレイユ・スプランディーです。」


獣人の方は先ほど屋敷で会ったノアのことだろう。続けてゼオンが訊いた。


「ちなみに、その時の怪盗の犯行時間は?」


「同じく深夜0時の予定でした。」


「それが、その日は二分早かったってことか。」


ゼオンはそれが気になったようだ。たしかに怪盗の予告時間とジャスミンが誘拐された時間が全く同じなのは妙だ。ゼオンが目をつけるのも納得だった。


「あと、犯人の手がかりとかはありませんか?」


「すみません、今のところほとんど……あ。そうだ、一部の警備員の話によると、犯人はどうやら子供らしいです。少年だとか。」


子供、という言葉にゼオンの目はまた鋭くなる。それから少し考えこんでゼオンは言った。


「わかりました、ありがとうございます。

 すみませんが、前回の怪盗の事件に関する資料、貸してもらえますか?」


「えっ、困りますよ、資料を一般人に持ち出されたら……うっ。」


すかさずティーナがクロード家紋章を突きつける。警官は青白くなってうなだれて大人しく資料を渡した。

これじゃ怪盗よりたち悪い強盗だなとキラは苦笑した。キラの周りはなぜか悪党ばかりだ。

それからゼオンが言った。


「あとジャスミンとかいう奴の家と、誘拐事件でそいつが見つかった公園の場所、教えてもらえますか?」


キラ達三人の目がゼオンに向く。まさかそちらも調べる気だろうか。

警官が地図を描いて説明してる間、キラはそんなことを思った。


「じゃあ、色々とありがとうございました。」


キラ達がお礼を言うと、警官も青白い顔でぺこりとお辞儀をした。

警官が立ち去ってから、キラはゼオンに尋ねた。


「ねえ、なんでジャスミンちゃんの家の場所訊いたの?」


「どうも、誘拐事件と前回の怪盗の事件は関係あるような気がして……」


「どうして?」


「怪盗は子供だって言ってただろ? 姉貴の知り合いで、子供ってなると大分疑わしい奴は絞られてくる。

 貰ったメモによると姉貴の知り合いの中で子供なのが、さっき会ったノアとジャスミンと、あとソレイユとかいう奴だけらしい。

 少年ってとこまで絞るとノアとソレイユだけだな。

 そいつらが誘拐事件に関わってたんだ。絶対怪しいだろ。」


キラは否定できなかった。誘拐事件を調べてみる方がひょっとしたら怪盗への近道かもしれない。

その時、後ろから綺麗な声がした。


「あら、そこの方々、怪盗について調べてらっしゃるのですか?」


キラ達がそちらを向くと、そこには金髪の少女が一人と少女より少し大人びた少年が一人いた。髪の色が同じで、顔立ちも似ているのでおそらく兄妹だろう。

二人とも背中から悪魔のシンボルともいえる黒い羽が生えていた。

外見ただの悪魔の兄妹のようだったが、どこかただならぬ雰囲気があった。



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