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ある魔女のための鎮魂歌【第1部】  作者: ワルツ
第6章:怪盗幻想シュヴクス・ルージュ
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第6章:第5話

クローディアの言い出した賞品があまりにも意外でキラはしばらくぽかんと口をあけていた。

サラ達の拠点とはどういうことか。そもそもどうしてクローディアがサラの復讐の話を知っているのだろう。早速事態が理解できなくなってきた。

途方にくれているキラを見て、クローディアが答える。


「どうして私がサラ・ルピアの復讐の話を知っているか不思議?」


「不思議です。」


「どうしてかっていうとね、サラ・ルピアが反乱派のリーダーで復讐をしようとしているって調べ上げてオズに送りつけた人、私だからよ。」


急にオズに注目が集まり、オズは面倒くさそうに言った。


「あー、キラの記憶の件の時にゼオンにサラが復讐しようとしてるーとかなんとか書いた書類渡したやろ?

 あれ調べたのがクローディアや。こいつ裏で情報屋やっとるねん。」


「ついでに言うと、ゼオン達三人の情報が国に漏れないように裏工作したのも私よ。

 あと、あなた達の情報もいくらかこいつにちょいちょいとね……」


「ゼオンが弟ってことはつい最近まで隠してたけどな。」


「あらぁ、オズにそんなこと教えていいことあるわけないじゃない。

 頼まれたことやってあげただけ感謝なさい。」


「情報隠蔽は失敗したやないかー。」


クローディアの眉が少しつり上がる。


「……たしかに、なぜかサラ・ルピアにはゼオンのことも居場所も知られたらしいけど。なんでかしら。」


サラの名前を言う時のクローディアが少しだけ不愉快そうだった。

とりあえずクローディアがオズに頼まれて色々ひそひそ裏工作していて、ついでにサラの復讐のことについても知っているということはキラにも理解できた。

同時にもやもやと不安感が湧き上がる。裏工作してる時点でとりあえずこの人は善人とはいえないのではないだろうか。

するとゼオンが口を開く。


「よくそんな話引き受けたな。」


「だって……」


クローディアが満面の笑みで言った。


「金になるんだもん!」


「黒い!」の心の声がそこらじゅうから聞こえた気がした。絶対腹黒い。


「裏工作と引き換えにオズに要求したのよ、あんたに関する情報を一つメモして提供なさいって。

 こいつの情報はとにかく金になるのよ! ウィゼート政府関係者とかこいつの強大な力を抑えつけたい連中がそのメモ見た途端札束金積んでいくのよ、札束の塔よ!

 何て情報だったかしら、たしか……オズが使う魔法についてだったかしら?

 まあその話はいいわ。こいつのおかげで私はがっぽがっぽ大儲けよ。札を一枚一枚数えるのがもう楽しくって楽しくって!」


黒い。もはや疑いようのない真っ黒だ。さすがオズの知り合いだとキラは感心した。

同時にクロード家の当主がディオンで本当によかったと感じた。

ホワイト以外の全員が揃って引いていると、クローディアが話を続けた。


「話が逸れたわね。とにかく、私が持っているサラ・ルピアの情報を賭けてちょっとクイズして遊んでみない?ってことよ。どう、やってみる?」


選択を迫られたキラは困って考えこんだ。けど特に断る理由は思い当たらなかった。

クイズに正解すればサラの情報がわかる。サラを止める、その目的に一歩近づける。怪盗が誰かなんてわからないけれど、街をあちこち調べて回ってみれば何かわかるかもしれない。

ゼオンもオズも他のみんなも口は出してこない。判断はキラ次第、と言っているかのようだった。


「やります、頑張ります!」


「よしっ、いい子ね。じゃあ、ちょっとこれを貸してあげるわ。ゼオン、ちょっと来て。」


なぜゼオンなのだろう。少し首を傾げるキラの横にゼオンがやってくる。そしてクローディアはゼオンにあるものを手渡した。

手のひらより少し小さいくらいの何かが黄金色に輝きゼオンの手の中に収まる。魔法陣と剣が描かれた紋章がそこに在った。


「クロード家の紋章よ。貴方クロード家を嫌っていたし、紋章なんてきっと捨てちゃったでしょう?

 私のを貸してあげるわ。それを見せれば大体の人は貴方にひれ伏してくれるはずよ。

 じゃあ、あとはがんばってね。」


微笑みが恐ろしい。別にひれ伏してもらう必要はないはずなのだが、そう言い出せる人は誰もいなかった。

話は済んだようなのだが空気は凍りついたままだった。なんとかその空気を壊すようにキラは言い出した。


「と、とにかく、後で街に行って色々聞いてみようか? 何か知ってる人いるかもしれないし。」


「……そうだな。」


真っ先に言ったのは意外にもゼオンだった。


「じゃああたしも行くー。」


「なら私も。」


ティーナとルルカも続けて言った。そう言ってくれたことがキラは嬉しかった。

その時、扉が開いてノアが戻ってきた。戻ってきたノアにクローディアが言う。


「あら、ちょうどよかったわ。ゼオン達をそれぞれのお部屋に案内してくれる?」


「かしこまいりました。」


「お部屋?」


「ええ、一人一室用意してあるわ。ルイーネちゃんの分もね。」


キラは声をあげて感動した。なんて金持ちなのだろう。キラ達6人+α(ルイーネ)の分までそんなにほいほいと部屋を用意できるとは。

一体いくつ部屋があるのだろう。客用の部屋がそんなにあるということは、普段使ってない部屋がいくつあるのだろう。キラは頭がくらくらしてきた。

だが感心してる場合でもない。気合いを入れるように言った。


「よしっ、じゃあ荷物置いたら早速出かけよ! ノア君、部屋への案内お願い!」


「どうぞ、こちらへ。」


キラ達がノアの後について行こうとした時、急にクローディアが言った。


「そうだ、ゼオン。」


ゼオンが立ち止まり、クローディアを見る。


「ちょっと来てくれる?」


キラは首を傾げた。ゼオンはクローディアについて行き、キラ達はそのままノアの案内で部屋に向かった。



◇ ◇ ◇



シャロン……いや、クローディアが向かった先はどうやら自分の私室のようだった。

長い廊下を渡り、階段を登り、最上階まで登った後に着いた場所は、屋敷内に無数にある扉の中でも一際豪華な扉の前。

わざわざ立派なオブジェまでドアの横に置いてある。派手好きな姉貴らしい、とゼオンは思った。クローディアは昔と全く変わっていなかった。

変わった所があるとすれば、クロード家の話が出る度にどこか悲しそうな顔をすることくらいだ。その些細な変化が痛かったのだけど。


「どうぞ、入って。」


クローディアが扉を開き、ゼオンは中に入る。扉を閉めるとクローディアは自分の椅子に腰掛けた。背もたれには寄りかからず、わざわざ背筋を伸ばしたまま足を組んでゼオンを見上げた。その様子が若干気にかかった。

クローディアはもう一つある小さめの椅子を指差した。


「どうぞ、座ってちょうだい。」


ゼオンは椅子に腰掛けた。私室に呼んだということは、あまり聞かれたくない話でもするつもりなのかもしれない。

クローディアは机に置いてあった封が切ってある一通の手紙を取り出した。ディオンからの手紙だった。


「色々聞いたわ。事件の事もそうだけど、昔私たちが貴方が吸血鬼とのクォーターだってバラしたことをディオンが謝ったことも。

 私も……謝っておかなくちゃと思ってね。そもそも、率先して事を進めたのはディオンよりむしろ私の方なの。

 本当に、ごめんなさいね。」


そう言ってクローディアは少し俯いた。ゼオンはため息をついた。


「さっき俺にもう謝るなって言ったくせに何を言い出すんだ。

 別にもういい。謝るのも謝られるのももう疲れた。」


「それでも、言っておきたかったのよ。」


そして哀しげに笑う。けれど、後悔はもう無さそうだった。変わったな、とゼオンはふと思った。

それから、今度はゼオンが言った。


「そういや、七年前のあの時の傷、もう大丈夫なのか?」


「え…? 一応大丈夫だけど、どうして?」


「いや、椅子に背もたれがあるのにそんなに姿勢良く座ってるから、寄りかかるとまずいことでもあるのかと…。」


ギョッと目を見開き、肩に力が入っていた。どうやら図星だったらしい。

それから半ば呆れた様子でクローディアが言う。


「よくわかったわね、相変わらず鋭すぎ。

 仕方ないわね、正直に言うわよ。背中にあの時の古傷がまだ残ってるわ。」


「まだ痛むのか?」


「傷が開くようなことさえしなければ大丈夫よ。そもそも大丈夫じゃなかったら金儲けどころじゃないわ。」


そう言って悪戯っぽくウィンクした。古傷が残っているということにゼオンは少し心が痛んだが、クローディアが古傷のせいで不自由をしているということはなさそうだった

それからクローディアは今になってゼオンをまじまじと見つめて言った。


「それにしてもしばらく見ないうちに随分背ぇ伸びたわね。昔は私よりずっと小さかったのに。

 ディオンには言われなかった?」


「いいや。兄貴は俺よりもっと伸びたからだろ。」


「あいつ背ぇ高すぎよね。気持ち悪いわよね。もう巨人よ巨人、あーやだやだ。

 全く、どいつもこいつも大きくなっちゃうんだからぁ……私の守備範囲は14歳以下身長160未満のかわいい男の子なのに。」


「何の守備だ……。」


「ゼオンも昔可愛かったんだけどねー。今いくつよ、16? 悪くはないけど14歳の素晴らしさには適わないわよねー。

 あーあ、今の私の癒やしはノアちゃんだけだわ…。」


「……黙れよ。」


ゼオンは心底呆れた。けれどこんな馬鹿馬鹿しい話を普通にできていることが不思議だった。

ゼオンがクロード家に居た頃、クローディアは唯一ゼオンにまともに話しかけてきた人だったが、その時の会話もどこかぎこちなかったから。

違和感の無い会話に違和感を感じた。けれど、これでようやく一つ乗り越えるべきことは乗り越えた気がした。

その時、外から誰かが呼ぶ声がした。窓を開けて門の方を見る。


「ゼオン、早く! 置いてくよー?」


キラが大声を出しながら手を振った。その隣にティーナとルルカがいた。

クローディアがそれを見て面白そうに笑う。笑われてゼオンは少しムッとしたが、クローディアは余計に面白そうにゼオンを見るだけだった。


「仕方ないな……、たしか探偵ごっこだったか?」


「お、珍しく乗り気ね。」


「違う。」


「うんうん、そっかそっかぁ。」


言い方がからかわれているようで少し嫌だったがそう言っても止めてはくれないだろう。

少しため息をついて、それからクローディアに言った。


「早速だけど、姉貴の知り合いのプロフィールのリストか何かないか?」


クローディアは先ほどとは違う意味で面白そうな顔をした。


「へぇ、どうして?」


「探偵ごっこなら、まず容疑者を挙げないとな。」


クローディアはどこかゼオンと似た目をして、笑った。


「流石、私の弟。目のつけどころがいいわ。」


そして机の引き出しからメモ帳のようなものを取り出してゼオンに手渡した。



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