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ある魔女のための鎮魂歌【第1部】  作者: ワルツ
第6章:怪盗幻想シュヴクス・ルージュ
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第6章:第4話

「ジャスミン様…?あ、あの、今日はどのようなご用件で?」


ノアがジャスミンの傍まで言って尋ねた。ノアの表情は特に変わらず無表情だったが、尻尾と耳が妙にピンと立ったままでどこか緊張しているように見えた。

ジャスミンの笑顔は太陽のように暖かかった。


「ちょっとクローディアさんに用事があったの。」


するとクローディアが何か思い出したように立ち上がった。


「そうだ、私もジャスミンちゃんに話があるの。皆さん少しだけ待っててくださる?

 ちょっと別の部屋で話してくるわ。」


そしてそのままジャスミンを連れて出て行こうとした。だがゼオンは納得いかないようだった。


「おい、はぐらかす気か?」


クローディアは立ち止まって振り向かずに答えた。


「悪いわね……後で話すわ。」


背中を隠すように垂れ下がった髪がふわりと揺れていた。

その時のクローディアの雰囲気は過去のことが関わってきた時のディオンとどこか似ていた。やはり過去の出来事はこの姉弟にとって重要なことなのだとキラは再確認した。

クローディアの様子を見てようやくゼオンも大人しくなった。

沈黙の時間が流れていく。どうにかして話題を変えようとキラは考え、先ほどの怪盗の話を思い出した。


「ねえノア君、さっき警察の人が怪盗から予告状が来たぞーって言ってたんだけど怪盗って何?ほんとにいるの?」


ノアは一瞬黙り込み、それから答えだした。


「本当です。この街では半年くらい前から怪盗シュヴクス・ルージュと名乗る怪盗が出没していて、あちこちの屋敷の宝石や名画を盗む騒ぎを起こしているようです。

 なんでも毎回予告状を出して、厳重な警備もものともせずに盗み出していくのだとか。」


するとティーナが身を乗り出して言った。


「え、なんで?」


「なんでと言われましても。」


その間ゼオンはずっとティーナの様子を鋭い目で見ていた。ルルカとオズが白けた様子で呟いた。


「わざわざ犯行を予告するなんて馬鹿ね。ただの目立ちたがり屋じゃない。」


「典型的な怪盗やなー。」


「でも、こんな素敵な街に怪盗なんてなんかロマンチックじゃない?」


ホワイトが楽しそうに微笑んだ。この人はいつもふわふわと幸せそうだ。それに乗るようにキラも言う。


「たしかに、なんだっけその……マロンがあるよね。」


全員が一瞬黙ってからため息をついたり鼻でわらったりし始めた。キラはきょとんとして首を傾げる。ゼオンが呟いた。


「ロマンだろ。栗があってどうするんだ。」


「典型的なアホやなー……。」


「うううるさいっ!」


キラがそう怒鳴った時、再びクローディアが戻ってきた。

軽く微笑みながら元の椅子に腰掛ける。それからノアに指示した。


「ノア、ジャスミンちゃんが帰るから見送ってさしあげて。」


「僕が……ですか?」


「ええ、お願い。」


「わ、わかりました。」


ノアがそそくさと部屋を出て行くのをクローディアはすこし悪戯っぽい笑みを浮かべながら見送った。

それからキラ達の方に向き直り、改めてこう言った。


「そろそろ私のことを知りたいわよね。

 改めて自己紹介するわ。私はクローディア・クロード。本名シャロン・ミレイユ・クロード。ゼオンの姉よ……異母兄弟だけどね。

 他に聞きたいことはあるかしら?」


そして礼儀正しくお辞儀をする。まさしく由緒正しいお家のお嬢様。

真っ先に尋ねたのはやはりゼオンだった。


「どうしてこんな所にいるんだ? それとどうして偽名なんて……やっぱり、7年前の事件のせいか?」


クローディアが少し俯く。


「まあ、関係ないとは言えないわね。ゼオンがあの事件を起こした時、私は瀕死の重傷だったんだけどどうにか一命を取り留めたわ。

 けど叔父様と叔母様がゼオンをクロード家から排除するため、ゼオンの刑を重くしようとして私のことは表向き死亡扱いにした……というのが理由の一つよ。」


理由の一つ、という言葉にキラは首を傾げ、ゼオンの目がまた鋭くなる。

まだ理由があるのだろうか。


「もう一つの理由は、これはゼオンには関係ないことよ。

 ゼオンが吸血鬼の血を引いていることとは別に、クロード家にはもう一つ問題があったの。

 私とディオンの跡継ぎ問題よ。クロード家って男尊女卑でね、叔父様はディオンを跡継ぎに推したんだけど、お父様は女だろうと実力があれば当主になる資格はあるって言って私を跡継ぎに推していたの。

 そんな時に事件でお父様が死んでしまったものだから、叔父様がさっさとディオンを当主に立てちゃってね、私は邪魔だからってことで死んだことにされちゃったのよ。

 お陰様で、ウィゼートから追い出されて、元の名前を使うことも禁じられたってわけ。お金は送ってもらえるから生活に不自由はないけれど。」


クローディアは自嘲するようにそう言って窓の外を眺める。その目にはどこか悲しみの色が浮かんでいた。

キラは言葉が出なかった。 家族親戚同士が憎み合い争う貴族の家。ゼオン達はそんな冷たい世界で育ってきたのだと改めて感じた。

ゼオンは沈んだ声で言う。


「……悪かった、ごめん。」


「貴方のせいじゃないわ。悪いのはあの事件を利用して私とゼオンを追いやった叔父様たちよ。」


「それだけじゃねえよ。事件の時、姉貴のこと斬っただろ。」


クローディアはため息をついた。そして説教でもするように言った。


「ディオンから聞いたわ。あれ、貴方が自分の意志でやったわけじゃないんでしょう?

 まあ、そんなことだろうと思ってはいたけどね。あの時の貴方はまともじゃなかったし。」


「わかってたのか?」


「勿論よ。まあ、ディオンはついこの間まで聞く耳持たずって感じだったけど。

 とにかく、もう謝るのはよしなさい。必要ないのだから。」


ゼオンは返答に困ったように目をそらし、それから「わかった。」と一言だけ返した。

キラは少しほっとした。ディオンの時のような騒ぎになることは無さそうだ。思いの外あっさり誤解が解けた――というより誤解がなかったことに驚いたのか、ゼオンはそれ以上は何も尋ねずに出された紅茶を飲んでいた。

それから緊張がほぐれたようにようやくクローディアに笑顔が戻った。


「まあ、元気そうで何よりだわ。せっかく来たのだから楽しんでいきなさい。」


しばらくの無反応の後、ゼオンは黙って頷いた。

ようやく一段落、そう思った直後だった。急にクローディアはキラの方を向くとぐいぐいと近寄り、やけに楽しそうに言い出した。


「と・こ・ろ・で、貴女がキラちゃんよね?」


あまりにも突然言われたのでキラは曖昧な返事しかできなかった。

クローディアは妙な笑みを浮かべている。オズの笑い方に少し似ていた。ゼオンがカップを置いてこちらを見る。

クローディアは更に顔を近づけて言った。


「ヴィオレの怪盗の話は聞いた?」


「えっ? あ、はい、さっきノア君から……」


するとクローディアが妖しく笑って言った。


「せっかくヴィオレに来たのだから、探偵ごっこをしてみない?」


「探偵ごっこ?」


「ヴィオレの怪盗が誰か当てるクイズよ。勿論勘で答えろとは言わないわ。

 情報を集める手段は与えるから、集めた情報から犯人を考えて当てるの。期限は明後日の夜、次の怪盗の犯行前まで。

 もし当たったら…」


「当たったら?」


クローディアが言い出した賞品は意外なものだった。


「キラちゃんのお姉さんのサラ・ルピア……あの人が率いる反乱派の拠点を教えるわ。」




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