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ある魔女のための鎮魂歌【第1部】  作者: ワルツ
第6章:怪盗幻想シュヴクス・ルージュ
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第6章:第2話

そういう経緯で、今はキラ達は汽車の中。結局行くことになったのは、キラ、ゼオン、ティーナ、ルルカ、オズ、ホワイト、あとルイーネだ。


「というかセイラ一人で置いてきちゃって大丈夫だったのかな。」


セイラの具合が悪そうだったのを思い出して少しキラは不安になった。

誰か居てあげた方がよかったのではないだろうか。するとオズが冷たく言った。


「俺らが居たところで意味あらへんし多分逆効果や。放っておいた方がええ。」


「なんで? そんなの酷いよ!」


けれどキラの言うことに同意する人はいなかった。ルイーネとゼオンとルルカはまるっきり無視といった様子だ。

ティーナの顔からは笑いが消え、俯いて言葉一つ発さなかった。みんなの薄情さに少しキラは腹が立った。

ティーナなんて一応キラ達より前から知り合いだったのだから一言くらい言い返せばいいのに。

ディオンの一件の時、オズとセイラがゼオン達に脅しをかけたことなんてこれっぽっちも知らないからこそ、キラはそんなことを思った。

だがホワイトだけは優しかった。


「でも、具合が悪い時に一人って辛いと思うわよ? キラちゃんのお婆さんとかに面倒見てあげてって頼んだりした方がよかったんじゃない?」


「あーその手があったか。うわー、婆ちゃんに言っておけばよかった!」


「無理だな。」


急にゼオンが言い放った。


「多分セイラの方が断るだろ。あいつもあの婆さん苦手そうだし。」


「え、そうなの?」


「ただの勘だけどな。セイラはオズによく皮肉を言うだろ?

 けどオズがお前の婆さんが苦手だってセイラは知ってるわりにあの婆さんをネタにあまりしない気がする。

 ネタにしづらい理由がセイラの方に何かあるんじゃないのか?」


「た、たしかにそうかも……。」


しかしその理由とは何だろうか。キラにはわからないし、ゼオンもそこまでは知らないらしかった。

するとティーナが言った。


「セイラは多分お土産でも買っていった方が喜ぶよ。」


「お土産かぁ……何がいいんだろ。」


「バニラのアイス、絶対一番喜ぶ。」


「あ、確かに。」


セイラのことは心配だったけれど、今から村に戻ることはできない。ティーナの言うとおりお土産でも買っていった方がいいかもしれない。

すると今度はルルカがルイーネを指差した。


「ずっと気になっていたんだけど、あの小悪魔たちの中でどうして貴女だけがついてきたのかしら?」


「あ、それは……」


「まあ、荷物持ちやな。」


オズが割って入った。その場が一瞬静まり返った。

それからチラッとルイーネを見て、全員また目をそらした。

ルイーネの背後で巨大なホロがうようよ薄紫の身体をうねらせているのが見えた。


「オズさぁん? 誰が荷物持ちですかぁ?」


「俺は手ぶらで闊歩したいんやー。」


「自分の荷物くらい自分で持ってください! 手で持たなくてもオズさんなら魔法でしまっておけるでしょう!」


「それが面倒やー。」


「いい大人が何言ってるんですかバカっ!」


迫力満点のルイーネの方を見れる人は誰もいなかった。

それにしてもルイーネだけがついてきたということはシャドウとレティタは留守番だろうか。


「けどさ、シャドウとレティタ留守番できるの? 特にシャドウとかシャドウとか…」


「まあ、レティタが居れば大丈夫やろ。」


「あーでもオズさん、旅行置いていったりしたらシャドウさん怒りません?

 意外と怒ると恐いですよ?」


ルイーネの言葉にキラは驚いた。怖いくらいに怒ったシャドウなんて見たことがない。

シャドウはいつもやんちゃで笑っていて、ルイーネを怯えさせるような怒り方をするイメージがなかった。


「シャドウって怒ると恐いの?」


「本気で怒ると意外と。普段愉快な方なので余計に怖く感じます。」


「怒るどころか愉快じゃないシャドウなんて見たことないよ?」


「多分一人の時のシャドウさんを見たことないからですよ。あの人結構寂しがりやなんです。」


「まあレティタがおるから一人やないしなんとかなるやろ。あいつ面倒見ええし。」


シャドウにそんな一面があるなんて驚いた。

感心していると急に窓から見える景色が変わった。汽車が巨大な橋を渡り始めた。前方には見たこともない大地が見える。

そして、向こうの土地の海沿いに大きな時計台のある街が見えた。ロアルの木でできた小さくてぼろっちい家々なんかではない。石やレンガ造りの立派な家や建物がたくさん見える。

もしかしたら、と思ったキラはオズに訊いてみた。


「ね、もしかして行くのってあの街?」


「お、当たりや。」


キラは窓ガラスに張り付きこれから降り立つ街への期待を膨らませた。村の外に出たのは10年前が最後だったから。

だがわくわくうきうきしているキラとは対称的に、ゼオンはいつも以上の仏頂面だ。もう諦めてエンジョイすることにすればいいのに。

そしてまた恐い顔でオズに訊く。


「おい……これ国境越えてないか?」


ゼオンと同じく行き先を知らないキラとティーナが驚いてオズを見た。


「越えとるけど何か、問題か?」


「橋の先はデーヴィアだろ。……馬鹿女はまだわかるが、俺やティーナやルルカがなんで平気で国境越えられるんだ。」


するとホワイトがまた優しい微笑みを浮かべた。


「オズさんが言うにはね、私の知り合いの人が大丈夫よって言ってくれたらしいの。」


ゼオン達の方からまた「怪しい!」の心の叫びが聞こえた気がした。逃亡者三人に快く国境を越えさせる知り合いってどんな人だ。

ホワイトがその知り合いが相当怪しいことに気づいていなさそうな所が心配だった。

何やらまた厄介なことが起こりそうな気がしてキラはため息をついた。オズにまともな知り合いはいないのか。

ゼオンがルルカに言う。


「お前、よくこの話乗ったな……。」


「デーヴィア国はエンディルス国と反対方向だもの。それにオズに何か狙いがあるとしたら標的は私じゃなさそうだったから。」


「くっそ……、どう考えても俺かティーナだよな……。」


その時だった。車内アナウンスが聞こえた。


『まもなく、ヴィオレ、ヴィオレに到着します。』


オズやホワイトが荷物を整え始めた。もうすぐ目的地に到着のようだ。

それを見てキラ達も荷物をまとめはじめた。期待と興奮で思わず顔がほころぶ。

だがゼオンとティーナが急に険しい表情で呟いた。


「ヴィオレ……?」


「嘘でしょ……?」


ティーナの顔が真っ青になっていた。ゼオンが嫌そうに呟いた。


「なんか……嫌な予感がする……。」



◇ ◇ ◇



「あのー……帰りたい。」


駅から街に出た途端にティーナが呟き、全員立ち止まった。ゼオンが腑に落ちない様子でティーナを見る。

キラも急に変なことを言い出すなと思った。遠くには立派な時計台、並ぶ家々も洒落ていて、時折馬車も通る。街灯一つとっても美しい、素敵な街だというのに。

これを言い出したのがゼオンならわかるのだがティーナなのが驚きだった。

キラ達の反応を見たティーナは諦めたように言った。


「あー……やっぱ無理だよねーわかります。」


「ま、お前の自由だけどー、もう1回国境越える手段は自分で考えてなー。」


ティーナは苦笑してもう文句は言わなかった。行く時はどちらかというと乗り気だったのにどうしたのだろう。

背後からの光でティーナの顔に影が落ちている。ティーナの瞳が今日はどこか濁って見えた。ディオンが来た時のような怒りの表情とは違った。

ティーナのことは気になったが、キラはおとなしくオズとホワイトについて歩いていく。遠くから見ても綺麗だったが実際歩いてみると更に魅力的な街だった。ずっと山奥の田舎に住んでいたキラにとっては夢のような光景だ。道行く人々の雰囲気も、村の人々には無い気品があった。

ただ、一つ妙な事があった。異様に暑い。夏だから当り前なのだが、どこか自然ではない暑さに感じた。


「あのさぁ……ちょっと暑すぎじゃない?」


「……だろうな。異常気象のせいだろ。」


ゼオンが言った。夏だからじゃないのだろうか。

するとゼオンが街路樹を指差した。どの街路樹も干からびていて枯れかけだった。土も乾いてひび割れている。


「多分長いこと雨が降ってないんだろ。

 都会だから気づきづらいだろうけど……相当長いなこの日照り。」


「なんで……?」


「初めて会った時言っただろ、10年くらい前から世界中異常気象だって。

 ここは夏に日照りだからまだましだな。アズュール辺りは真夏に雪が降ったらしい。」


そんなことすっかり忘れていた。異常気象だなんてキラは気にしたこともない。

あの村は異常気象なんて起こったことがないから。するとゼオンが急にキラに訊いた。


「たしか……お前の両親が亡くなったのも10年前だよな?」


「え、そうだけど……なんで? まさか異常気象と関係あるっていうんじゃ……」


「無いならそれでいいんだけどな。けどどうもすべてがうまくできすぎてるように感じる……。」


「ぐ、偶然じゃないかな……」


「じゃあ、俺達が偶然会ったことであの杖が4本揃い、集まった場所が偶然異常気象が起こってない村で、偶然セイラがやってきて、お前の姉が復讐しようとしていることがわかったのが原因で偶然お前の記憶が戻り、偶然その直後にお前の姉と兄貴がやってきた……偶然がこんなに重なるのって、偶然か?」


キラは言い返せずに黙り込んだ。今まで起こったことが全て誰かに仕組まれているだなんて考えたくない。


「お前のことだけじゃない、俺が事件を起こしたのは7年前、ルルカの両親がクーデターで殺されたのは5年前、ティーナと会ったのは3年前なんだ……考えてみれば全部うまいことお前の両親が殺されてから起こってるんだよな…。」


「そんな……そこまで…?」


ただの偶然であってほしかった。こんなに暑いはずなのになぜか背中が寒くなるような気がする。

キラは怖くなって口をつぐんで思わず俯いた。キラが全く気づかないところで誰かが動いていて、何かが起こっているだなんて想像しただけで恐ろしい。それが真実なのかただの想像に過ぎないのかわからないから余計に。

するとそれを見たゼオンが言った。


「すぐ本気にするな、何の確証もないただの勘だ。」


そう言ってキラの前を歩いていく。怖がったキラを気遣ったつもりなのかもしれない。

けどゼオンはやはりこういうことはへたくそだなとキラは呆れた。

だって、今までゼオンの勘が外れたことってあっただろうか?



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