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ある魔女のための鎮魂歌【第1部】  作者: ワルツ
第1章:不思議な杖と逃亡者
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第1章:第7話

震える本棚、感じる強大な力。紅の光に覆われた、小さな図書館の中でゼオン達三人とオズは緊張した空気の中で対峙していた。部屋の隅から天井までどこもかしこも血潮のような色で染まる。

この力は強すぎる。こんなものが存在していいのかと疑うほどに。ルイーネ達3匹の小悪魔はその様子を心配そうに見つめていた。だがオズは不適な笑みを浮かべながらこちらを見ているだけだった。

どちらも一歩も動く気配はない。ゼオンは逃げるという無謀な挑戦をすべきか素直に従い呑気にここに留まるべきか迷っていた。

どちらもよい選択ではない。けれどそれ以外の選択を許さないくらいにこの人の力は強大だった。困惑しているのはゼオンだけではなかったようだ。ティーナもルルカもその場に立ち止まったまま動かなかった。

二人とも手にしっかりと武器を握ってはいるが、今はそんなものに意味はなかった。

しばらくしてティーナは困ったような顔でゼオンに聞く。


「ゼ、ゼオンどうする?」


ゼオンは考えこんだ。正直この頼みを断るのは不可能に近い。

こういうタイプの人は何を賭けてでも目的のために突っ走っていくだろうから。何を言ったって、何をしたってそう簡単に諦めてはくれないだろう。。きっとゼオン達を半殺しにしてでも要求を押し通してくる。

この村に興味はあった。それなのにここに居られないのは自分達が逃亡者だからだ。ゼオンは自分の持つ杖を見た。オズは三人を見た時に顔ではなくこの杖を見ていた。

ゼオンの中にある考えが浮かんだ。この人はこの杖について何か知っているのではないだろうか? だとすると、ゼオンの『目的』の重要な手がかりがここにある可能性は高いかもしれない。

しばらく考えた後ゼオンはルルカを呼んでオズたちに聞こえないように一言何か言った。それを聞いたルルカはすぐに反発した。


「嫌ね。なんで私がそんなことしなきゃいけないのよ。」


「じゃあお前はこの状況どうするんだ? そっちが協力しないならこっちも手は貸さねぇけど。」


そう言われたルルカは黙り込んだ。ルルカだって馬鹿ではない。一人でこの状況をどうにかできるわけがないということくらいわかるはずだ。

そしてルルカはため息をついてから仕方なく言った。


「……わかったわよ。」


それを確認してからゼオンはオズの方を向いた。オズは一応笑ってはいたが目はいたって真剣だった。

ゼオンはオズに言う。


「万一国に見つかるようなことがあれば、即刻村から出ても構わないよな?」


「ああ、構わへんで。」


それを確認して、ゼオンは言った。


「わかった、お前が言ったとおりにしてやる。 ……ただしこっちの出す条件を呑んでくれたらな。」


◇ ◇ ◇



夕暮れというものは短く、もう夜へと移り変わろうとしている時間帯だった。茜色からミッドナイトブルーへのグラデーションを作る空を見ると、そろそろ帰らなければと思い、足取りも早くなる。

暗くなり始めた道をキラは、薬草と薬の入った籠を持ってすたすたと早歩きで進んでいった。しばらく歩いていると暗闇の中にぼうっと黒い家の影が見えてきた。

中の明かりがぽつりと見える。ようやく見えた家へとキラは走り出した。

それと同時に今日一日の出来事を思い出し、つぶやいた。


「よく帰ってこれたよなぁー…」


今思えば大犯罪者三人組と出会って無傷で帰ってこられたなんて信じられない。

脅されたりされて腹が立ったけれども。全く酷い誕生日だ。そう思いながらキラは家の扉を開いた。

暖かな光が見え、美味しそうな晩ご飯の匂いがした。

奥の居間へと走っていくと何か手紙のようなものを持ったリラの後ろ姿が見えた。

キラが入っていくとリラはハッとしたような顔をした後笑顔を作って言った。


「ああ、キラ。遅かったねぇ。晩ご飯できてるよ。ケーキも作ってあるよ。手洗っておいで。」

キラは「うん。」と返事をして居間を出ていった。


今日はとんでもない一日だった。キラの人生の中であんな強烈な三人組と会ったことなんてない。

けれど、あの三人と関わることはもう無いだろう。あのゼオンという少年とも。

数日経てば村を出てあちこちの街を転々として逃げ続ける三人とは違い、キラは山奥の村で暮らすただの魔女。住む世界が違う。



だから、もう関わることなんてないと。そして、明日から、また「平和な日常」が帰ってくるのだろうと。

そう思っていた。

そうだと思っていた。



そしてまさか今日この日が、キラの「平和な日常」が音を立てて崩れるきっかけとなるなんて予想してすらいなかったのだった。

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