表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/6

第五部

お別れの日、乙姫は小太郎に向き直り、そっと両手で小さな木箱を差し出した。

「これでお別れですが、私からの贈り物を受け取ってください」

箱の中には、手のひらに収まるほどの小さな鏡が入っていた。

枠には細やかな模様が彫られ、光を受けるたびに虹色の輝きを放った。

「あなたの村には、このような鏡はまだありません。これを持ち帰れば、あなたのお話も、少しは信じてもらえることでしょう」

小太郎は深く頭を下げ、乙姫や竜宮城で出会った者たちに別れを告げた。

カーメンに案内され、再び巨大な亀の口へと入る。

亀の口が閉じ、次の瞬間には、もう竜宮城の姿はどこにもなく、小太郎は出会ったあの日の浜辺に降り立っていた。

浜辺で別れの抱擁を交わすと、カーメンは静かに言った。

「小太郎さん、どうかお元気で。僕もとても楽しかった。またいつか……」

そして、小太郎が瞬きをしている間に、亀の姿はどこかへ消えていた。

耳にさざ波の音が戻り、潮の匂いが鼻をくすぐった。

小太郎は、自分が若かったころの記憶が、ゆっくりと胸に戻ってくるのを感じた。


- 村への帰還 -

まず自分の家を探したが、そこはもう朽ち果て、壁も屋根も崩れ落ちていた。

小太郎は村主の家を訪ねた。

村長は小太郎の名を聞くと、目を丸くして驚いた。

「まさか……あの小太郎さんが……!」

村長は幼いころ、勘太にいじめられていた時に、何度も小太郎に助けられたことを覚えていたのだ。

村長は小太郎を温かく迎え入れ、死ぬまで面倒を見ると約束してくれた。


- 語り継がれる物語 -

小太郎が語る竜宮城の話は、誰にも理解されなかった。

それでも村長は、小太郎の話を村人に語り継ぐことを約束した。

小太郎が乙姫からもらった鏡を差し出すと、村長は目を輝かせた。

「これは……まるで宝のようだ。村の宝として、大切に守らせてもらいます」

小太郎は村に戻ってから十年も経たないうちに病に伏し、静かに息を引き取った。

病に伏してからも、村のみんなもいつかはそんな暮らしができるようになるのだと、何度も何度も竜宮城での夢物語を語っていたという。

村長は、小太郎に姓がなかったことを惜しみ、

自分と同じ「浦島」という姓を与え、名も「太郎」と改めて、

「浦島太郎」としてささやかな葬儀を執り行った。

そして、小太郎の墓標を、海が見える小高い丘の上に建てたという。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ