序章~第一部
浦島太郎の物語は実話だった!?
序章
これからお伝えする話は、室町時代の初めごろ、神奈川県の逗子海岸近くにあった小さな漁村で、実際に起きた出来事である。
第一部
その村には、小太郎という若者が住んでいた。幼いころに両親を亡くし、女房もおらず、独り身である。おとなしく、心の優しい男だった。
梅雨入りしたのか、数日間、雨が降り続いていた。雨が上がったその日、小太郎は久しぶりに、まだ荒れが残る海へ釣りに出かけた。収穫は思ったほどではなかったが、日が傾いてきたので家へ帰ることにした。
村へ戻る途中、騒がしい声が聞こえてきた。
「やい、お前、変な奴だな! よそ者だろ? どこから来た? 食い物はないのか!」
村一番の乱暴者・勘太とその子分たちが、大声でわめきながら、小さな子どもを囲んでいた。
真ん中には、緑色の奇妙な服を着た子どもがしゃがみこんでいる。その背後には、大きな亀のようなものがいた。亀は緑みを帯びた灰色で、取り囲むとすれば大人十人が手を広げるほどの大きさ、高さは大人二人分ほど。富士山を押しつぶしたような形をしていたが、甲羅には六角形の模様はなく、一面がすべすべしているように見えた。
「食い物がないなら、この亀を置いていけ! これだけ大きけりゃ、食えるところもあるだろう」
そう言って、勘太は子どもの頭をコツンと殴った。
小太郎は慌てて駆け寄り、割って入った。
「勘太、もう勘弁してやってくれ。相手は子どもじゃないか。頼むから許してやってくれ」
「なんだ、小太郎か! じゃあお前が食い物を出せ!」
勘太は小太郎を突き飛ばした。
数日間、雨で漁に出られず、勘太たちも腹を空かせていたのだろう。小太郎の家にも食べ物はほとんどなかったが、腰の魚篭を差し出した。
「これしかないが、今日はこれで勘弁してくれ」
魚篭の中には、イワシなどの小魚が六尾と、両手に一すくいほどのアサリが入っていた。
「ちっ、これっぽっちか! 仕方ねえ、今日はこれで勘弁してやる。明日もまた、このくらい持ってこい!」
そう言い残し、勘太たちは去っていった。
小太郎は子どもに向き直った。
「君はこの辺の子じゃないね。ひどい目にあったな。ケガはないかい?」
子どもは元気な笑顔で答えた。
「私は大丈夫ですよ、小太郎さん」
そして続けた。
「私はカーメンと申します。私たちは、この海のはるか向こうに住んでいます。私たちは小太郎さんのことを毎日遠くから見ていて、よく知っています。今日、小太郎さんがこの道を通ることもわかっていました。あそこで私が乱暴されていれば、必ず助けに来てくださると信じていました」
あまりに奇妙な言葉に、小太郎は目を丸くした。
「今日は助けてくださったお礼に、私の主人のお城へ小太郎さんをお招きしたいのです。どうか、この亀に乗ってください」
カーメンが亀に何か語りかけると、亀はゆっくりと口を開いた。驚いたことに、その口の中には階段がついていた。小太郎は促されるまま、中へ入った。
腹の中につながっているのかと思ったが、そこには椅子が二つ置かれているだけで、ほかには何もなかった。
カーメンが再び何かつぶやくと、亀は静かに口を閉じた。
「さあ、海の彼方へ出発ですよ!」
軽い揺れを感じたかと思うと、ほんの少し考え事をしている間に、また揺れがあった。
「着きました。ここが主人のお城、竜宮城です」
亀の口が開き、小太郎が外へ出ると、そこには生まれて初めて目にする、きらびやかな宮殿が広がっていた。




