表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
彗星が落ちた日、令嬢はハムスターになった 〜異世界もふもふ放浪記〜  作者: 水玉りんご


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/5

第5話 冒険者ギルドでの決意


 ギルドの入口に、扉はなかった。


 白い石造りの建物は正面が大きく開かれ、内部のざわめきがそのまま通りへと溢れ出している。

 人の出入りも多く、誰かが立ち止まるたび、自然と人の流れが歪む。


(ここが……冒険者ギルドなのね)


 私はフードを深く被り直し、少しだけ息を整えてから、その中へ足を踏み入れた。


 中は思っていたよりも、ずっと“生活の匂い”がした。

 武器を背負った人もいるが、血なまぐさい雰囲気はない。


 革袋や木箱を抱えた人、帳簿を広げて話し込む人、採取物の中身を確認し合う人。

 ここは困りごとが集まる場所——そんな印象だった。


「護衛は三日。街道まででいい」

「羊が戻らないんだ。西の丘の方で探してくれ」

「森の奥の状況を誰か知らないか?」


 言葉の端々から、最近この街が慌ただしくなっている理由が伝わってくる。

 彗星の落下以降、魔物が出始めたという噂が、人々の生活に影を落としているのだろう。


「きゃっ」


 不意に肩が触れ、思わず声が漏れた。


「おっと、悪いな」


 荷袋を背負った男性が軽く手を上げ、すぐに人の流れへ戻っていく。


(背が高い……)


 周囲は人間ばかりで、視界のほとんどが腰や背中だ。

 油断すると蹴られそうで、自然と壁際へと身を寄せた。

 せいぜい人間の子どもほどの背丈では、この場所では邪魔になる。


 壁一面には、紙が所狭しと貼られている。


 護衛依頼、採取依頼、探し物、配達。

 どれも切実で、どれも日常の延長にあった。

 魔物討伐依頼、以外は。


(受付カウンター……紅茶を飲みながら商談を、って雰囲気ではないのね)


 私は人の切れ目を見計らい、そっと声をかけた。


「あの。すみません」


 声をかけると、受付の女性が顔を上げて不思議そうな顔をする。


「ここです!」


 精一杯背伸びをして、袖に隠れた手を振る。


「ああっ、すみません! 登録ですか? それとも依頼のご相談?」


 私は口元をフードで隠したまま、なるべく短く用件だけを伝えた。


「尋ね人の掲示板は、どちらにありますか」


「失踪者ですね。あちらです」


 指差された先に紙が貼り付けられたボードがあった。


(よかった……ある)



「ここは、子ども連れてくる場所じゃないよ」

 近くで、子どもを伴った人が注意されていた。

 武器や荷物が多く、確かに安全とは言い切れない。


 私は掲示板の前に立ち、背伸びをして紙を追った。


 失踪者。

 家出。

 行方不明。

 借金による逃亡。


(……ない)


 自分の名前は思い出せない。


(確か栗色の髪で……瞳の色は淡い緑色だったはず。他に何か特徴は……)


 記憶を必死にたどりながら、失踪人の特徴欄を順に見て行く。

 大きな屋敷で過ごした、その記憶はうっすらと残っている。


(令嬢が行方不明になれば、もっと大きく騒がれるはずだわ)


 そう考えて、少しだけ苦笑した。

 少なくとも、この街では——私を探す声は、上がっていない。


 胸の奥に、静かな落胆が広がる。

 すぐに手掛かりが見つかるとは限らない。

 分かっていたはずなのに、つい期待していた。


(お父様やお母様はここにはいない……自分で生活していかないと)


 壁際に並ぶ依頼の中、ひとつのボードが目に留まった。


 採取依頼。

 薬草。

 食用植物。


(あ、これなら……)


 今の私でも、できることだ。


(まずは、食べて、寝て、生きる)


 私は小さく息を吸い、背筋を伸ばした。

 極上の果物を見つけることは得意だし、薬草の知識もある。

 料理だって器具さえ揃えば出来そうだ。


(こんな姿になったけど、人らしく暮らすためには働かなくちゃですね)


 そう思いながら、私はもう一度、依頼書に目を走らせ決意した。

 その時だった。


「ねえ、なに見てるの?」


 無邪気な声が、すぐ後ろから聞こえた。


 振り返るより早く、察する。

 子どもだ。


 こちらを見て、興味津々といった様子で近づいてくる。


 小さな手が、ひらりと伸び――

 その指先が、フードの縁に触れた。


(――いけない)

 私は反射的に、フードを押さえた……


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ