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タマと赤いきつね  作者: 紫藤しと


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4.先生の部屋

 次の日私はまた熱を出してしまい、朝起きられませんでした。

「先生は…?」

「センセはとっくに大学へ行ったよ。なにやら色々揉めてるらしい。」

「揉めるのてすか…?」

 頭の良い方々は揉め事なんて縁遠いものと思っておりましたが、それはまったく違うのだそうです。世の中は私の知らないことだらけです。

 私は布団に半身を起こしたままぼんやりと姐さまがくれた粥をすすりました。こうして食べるのは何度目でしょう。この家に来てから私は姐さまの世話になりっぱなしです。

「姐さま、いつもありがとうございます。」

「なんだい、おかわりかい?」

「違います。思い出してきたのです。私が寝込んでいる間、粥を口に運んでくれたり手洗いに付き添ってくれたりしていたのは姐さまだったのですね。」

「あんたはうなされながらずっと母さま母さま言ってたね。…まぁ気にすることはないさ。これがあたしの仕事だからね。」

 仕事…つまり女中の仕事ということでしょう。私も女中になればずっと先生のそばに居られるはずです。本当はお嫁様がいいのですけれど、断られてしまったので仕方ありません。

「姐さま。私にもお仕事を教えて下さい。一所懸命働きますから。」

「馬鹿か。あんたの怪我は本当なら何ヶ月も寝てなくちゃいけないくらいの怪我だったんだ。今はまだちょっとしたことで熱が出る。寝てな。」

 姐さまはそう言って私を一睨みすると盆を片手に部屋を出て行ってしまいました。確かにまだ頭がぼんやりしています。横になって目をつぶると、まぶたの裏に一面の桜色が見えます。先生がくれた桜色。私は幸せな気持ちで眠りにつきました。

 翌日はすっかり元気になって目が覚めましたが、先生はいらっしゃいませんてした。大学からお帰りにならなかったようです。

「センセがいつ帰ってくるかなんて知らないよ。」

 姐さまは唇を曲げて言いました。「暇なら寝てな」

 私は家の中を見て回ってもいいかとききましたら、姐さまは「センセの部屋以外ならいいんじゃない。」と気のなさそうに言いました。

 私はドキドキしながらまず寝泊まりしている部屋の箪笥を開けてみました。男性用の着物が入っていました。私が見た先生は洋装てしたのでこれは先生のご家族のものかもしれません。他には少しの小銭や古そうな小物入れなんかも出てきましたが、なんだか罪悪感がでてきて私はそれ以上の探索をやめてしまいました。やっぱりここは人様のお家です。

 気を取り直して廊下に出てみました。硝子の向こうはもうすっかり冬の曇り空です。しかし空よりも私は硝子の汚れが気になります。しばらくいじいじと汚れを見ていると、姐さまが現れて鼻で笑いました。

「…何やってんだい。探検するんだろ。おいで。」

 姐さまに促されるままに私は二階へと続く階段を登りました。そうです、勇気がなくて一人では登れなかったのです。姐さまにはすっかりお見通しでした。

「ここがセンセの部屋だよ。かび臭いだろ。」

 姐さまはそう言って戸を開け、真っ暗な部屋を見せてくれました。

「本に日の光はよくないって年中網戸を閉め切ってんのさ。馬鹿だね。」

 姐さまはそう言いながら何かのスイッチを押したようでした。途端に眩い光が二三度瞬き、部屋は真昼のように明るくなりました。

「…姐さまも、魔法を使えるのですか?」

「まほう?」

「妖術のようなものです。」

「妖術なら使えるが…。これは電気だよ。ここのスイッチを押せばそこの電球が明るくなったり暗くなったりする。仕組みはわからんが、センセのお気に入りだよ。あたしは嫌いだね。」

 電気と言われれば知っています。でも普通のお家にもあるなんて、都会はすごいてす。

 明るくなった先生の部屋はとにかく本だらけでした。地震が起きたら埋もれてしまいそうです。

「な?こんな部屋は近づかない方がいいんだよ。本を踏んづけて滑って転んで死んじまう。」 

 姐さまは笑いながら電気を消し、戸を閉めてしまいました。名残惜しいてすが仕方ありません。

「こっちは今あたしが寝泊まりしてる部屋だね。何も無いが。」

 姐さまはそう言って次は先生の隣の部屋の引き戸を開けてくれました。中は小さな箪笥と鏡台しかありませんでしたが、明かり取りの窓があり自然な光にホッとしました。

「後はそこの物置だね。ガラクタしか入ってないけど。見るかい?」

 私は黙って首を振りました。なんたか胸がいっぱいです。

「…あんたまた熱だしてんじゃないだろうね。まったく。布団てじっとしてな。」

「まったく大丈夫です!掃除をさせて頂きたいので道具を貸してもらえますか?」

「掃除?…雑巾と箒ならあるが。」

「ハタキはありますか?」

「ハタキ?」

「…ポロ布と長い棒でも構いませんが。」

「あぁハタキね…この家にはないんじゃないかな…」

 姐さまは首を傾げながら階段を降りて行きました。追いかけながら姐さまは掃除が苦手なんだろうなと思いました。なぜなら素敵なお家なのに天井の隅には蜘蛛の巣が張り、部屋の四隅には埃が溜まっているからです。よく見ると電気の傘はあっても電球がなかったりします。

 まったく掃除をしていない風ではないのですが…なんというか、姐さまは細かいことは気にならないのだと思います。たぶん変わり者なんだと思います。



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