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タマと赤いきつね  作者: 紫藤しと


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1/5

1.夢の続き

 真っ白な道を抜けると、真っ赤な火の海がありました。

 赤くなったキツネが寂しそうな顔で言いました。

「騙されてるんだよ」

 私は悲しくなって、いっしょうけんめい首を振りました。

 ちがう

 ちがう

 ちがう

 なせか言葉は出ず、涙ばかりがポロポロとこぼれます。

 私はだまされてなんかいない。

 私は、幸せなのです。






 目が覚めると見知らぬ木の天井がありました。体の上には上等な布団がかけられていました。四方を襖と障子で囲まれた六畳の部屋です。

「起きたかい」

 スッと襖を開けて狐の顔をした人が部屋に入ってきました。女物の着物を着ていますがやたらと背の高い人で、鴨居に頭が当たりそうなほどでした。

「声は出せるかい?ずいぶんと長く眠っていたが。」

 ぼんやりしていた私はやっと我に返り布団の上に正座して頭を下げました。

「どこのどなたか存じませんが、このように上等な夜具を貸して頂きありがとうございます。しかも…寝巻きまで…」

 起き上がって気づきましたが、私は染みもほつれもない新しい浴衣を着ていました。勿体ないことです。私などにこんな上等なものを貸して頂けるとは。

「別にあんたを助けたのはあたしじゃないさ。礼ならセンセに言っとくれ。」

 狐の人は私を見てニヤリと笑いました。その視線で自分の無礼さに気づき、私は慌てて布団から畳に下りて謝罪しました。

「これは大変申し訳ございません!おかみ様を差し置き私のようなものがこんな所から!」

「起きた途端にペコペコよく謝る子だねぇ。楽にしなよ。ここにゃあんたに危害を与える奴はいないさ。」

 呆れたような笑顔に怒っていないようだと少し安心しました。すぐに出ていかなくともいいようです。

「あの、ここは、どこなのでしょうか…」

「あんたの親戚の家だよ。実家にいた時のことは覚えてるかい?」

 実家…ああ、そうだ。早く朝餉の準備をしないと。坊っちゃんが木登りで破った着物も繕わないと。

 慌てて立ち上がろうとして止められました。

「どこいくんだい?」

 キツネの人は呆れています。そっか、ここはあの家じゃないから…ええと…

「あんたはね、父親に殴られて失明するところだったんだよ。それをセンセが見かねてここに引き取ったんだ。」

 そう言われて左の頬に手を当てました。覚えています。殴られた途端に目の前が真っ白になって音も消えました。倒れた私がさらに蹴られているのを、遠巻きに黙って見ていたみんなの顔も。

「…傷は治したよ。痛い所はないかい。」

 目の横に傷跡はあるが痛くはありませんでした。かなり殴られたはずですが体のどこも痛くありません。いったいどれほどの時間眠ってしまっていたのでしょう。

「重ね重ね御礼とお詫びを申し上げます。私のような者の為に…」

「やめな!」

 荒い声で遮られ身が竦みました。こんなにも親切にして頂いたのに怒らせてしまった。殴られるかもしれません。

 畳に頭を擦りつけながら身を固くし待ちましたが、降ってきたのはため息だけでした。

「まったくあんたって子は…まぁあんなクソ親父に育てられたなら仕方ないのかね。」

「いえ、旦那様はお情けで私を置いて下さっていたのです。ありがたいことでございます。」

「旦那様って、父親だろ?」

「…私のような顔のものが、血筋にいるわけがないとおっしゃっていました。」

「可愛い顔じゃないか。おたふくみたいで。」

 私は顔を上げ、目尻を下げてニイと笑ってみせました。この顔を旦那様の知り合いに見せるとみんな手を叩いて大笑いされます。私の唯一の取り柄です。

「よしとくれ」

 冷たい声に私は笑うのを止めうつむきました。

「あのね、おたふくってのはもっと福福しいものなんだよ。なんだいその媚びた笑顔は。」

「申し訳ございません…」

「だから!謝るなと言っておろうが!」

 ああ、怒らせてしまった。私は畳に頭をつけたまま殴られるのを待ちました。きっと私は誰かと間違えて看病されていたんだ。謝ってなんとか許してもらわねば。この綺麗なべべも脱いで、あの家に帰らなければ。

「…あたしはね、話が通じない奴が大嫌いなんだ。だから一度でよくお聞き。あんたの母親はね、もとは金持ちの商人の娘だった。あんたの父親は金目当てで母親と結婚したんだ。なのに結婚してしばらくすると母親の両親が相次いで亡くなり、店も人手に渡った。父親はあんたたち母娘をすぐに追い出そうとしたが、遠縁のセンセが定期的に金を送ってくることがわかって離縁は思い留まった。ってことになってたが…どうやら思ったより酷い目にあっていたらしいね。」

 少し迷いましたが顔を上げず黙っていることにしました。どう答えればこの人を怒らせずにすむのかわかりません。

「…まぁあのセンセは世間知らずだからねぇ。」

「もうし…」

 反射的に謝ろうとして慌てて口をつぐみました。頭上からため息が降ってきました。

「…顔上げな。あんた、名前は?」

「カメ、と呼ばれていました。」

 恐る恐る顔を上げると、キツネの人は苦笑していました。少しホッとて力が抜けました。

「カメ、あんたはもうここの子だ。しばらくのんびりするといいよ。」

 のんびり…とはどのような状態でしょう。

「体を急激に治した反動でね、あんたは十日ほど熱をだして眠っていたんだよ。まだ本調子じゃないはずだ。」

 熱、本調子…色んな言葉が頭の中をぐるぐると回り始めました。

「だから言わんこっちゃない。」

 キツネの人は畳に倒れ込んだ私を抱きかかえると、布団に寝かし直してくれました。なんだか甘いいい匂いがしました。

「母さま…」

「寝な。目覚める度に元気になるよ。」

 私は頷いて目をつぶりました。ここは暖かでいい匂いがします。天国とか極楽と呼ばれる場所かもしれません。ならばきっと、もうすぐ母さまにも会えるはずです。







明けましておめでとうございます。

しばらく毎週更新予定です。

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