崩壊する地下とシエルの究極演算
「グリム、マスター!急いで!この亀裂は、単なる物理的な破壊じゃない!ベリアルの魔力が、王都の地下構造を**『欲の対象』**として、内部から崩壊させ始めている!」
シエルは光の速度で演算を続け、亀裂に飛び込む寸前に、古代の幾何学模様が刻まれた盾を地面に強く打ちつけた。
『演算解放:ホールディング・アルゴリズム!』
亀裂の周囲に、幾重もの幾何学模様の結界が展開し、崩壊の速度を緩める。シエルは、究極奥義の代償から解放された無限の防御力を、この防御アルゴリズムの維持に全振りした。
「僕はこのアルゴリズムを維持する!マスター、グリムくん、地下へ!」
「シエル!テメェも来い!」マスターが叫ぶ。
「行けません!僕が防御を解けば、王都塔ごと地下に呑まれる!ベリアルは**『全てを欲する』**。塔に仕舞われた秘宝を、このまま奴に渡すわけにはいかない!」シエルは悲壮な決意を滲ませた。
欲望の概念とグリムの試練
マスターはシエルの決意を察し、亀裂へと飛び込んだ。グリムもまた、左肩の激痛を無視し、唐紅の弓懸を握りしめたまま、その後に続いた。
地下通路は、金色の粘性の魔力で満たされていた。それはまるで、溶けた黄金の川のようにねっとりと流れ、壁や天井の石材を腐食させ、**「自分のもの」**にしようと侵食している。
「くそっ、この魔力……肌に触れるだけで、全身の熱が奪われるみてぇだ……!」
グリムは弓懸に宿る「炎の賢者の理」が激しく脈動しているのを感じた。ベリアルの欲望は、純粋なエネルギーを求めるだけでなく、**「価値」**を持つ概念そのものを欲していた。グリムの「情熱」は、ベリアルにとって最高の獲物だった。
「グリムの情熱が、ベリアルの魔力に強く反応しています。彼は、貴方の**『戦士としての信念』**を貪り食おうとしている!」(シエルの声が頭上から響く)
その時、地下の魔力の流れが収束し、黄金の粘液が渦を巻いた。中心に、ベリアルの**「姿」が形作られる。それは以前の強靭な肉体ではない。純粋な魔力の塊であり、無数の瞳と、底なしの口が浮かんだ、「強欲」の象徴**のような姿だった。
空間に響くその声は、以前の荒々しいものではなく、冷たく、全てを見透かすような、計算された**「欲望の論理」**だった。
「ハッ! 価値、価値、価値……。素晴らしい、純粋な情熱の理。それをこの俺様に捧げよ、勇者の残滓よ」
狂気の愛 vs 欲望の概念
マスターは、迷わずその黄金の塊に向かって突進した。彼の体はボロボロだが、瞳の奥には揺るぎない**「狂気の愛」**が燃えていた。
「テメェの言う『価値』が何だろうと知るか!王都の秘宝も、グリムの情熱も、そして、私の愛も!全ては私のもんだ! 私以外に奪わせるか!」
マスターの拳が、純粋な愛の魔力を纏い、ベリアルの魔力の塊に叩き込まれる。
ドォンッ!
激しい衝撃波が走るが、ベリアルの**「欲望の概念」**は、物理的な攻撃を無視した。拳が触れた場所から、マスターの「愛の魔力」が金色の粘液に吸い込まれていく。
「ふむ……。その、『狂気の愛』。命の脆弱な対価によって生み出された非効率なエネルギー。だが、その純粋さは、貪るに値する」
ベリアル(概念体)は、マスターの魔力を吸い取りながら、ゆっくりと語る。マスターは、まるで自分の最も大切なものが引き抜かれるような感覚に襲われ、膝をついた。
「貴様のエゴを込めた愛は、この**俺様の『全てを欲する論理』によって、より大きな『価値』**へと昇華されるのだ。いい餌だ」
**マスターの愛の魔力を喰らい、黄金の概念体が、さらに巨大な欲望の渦へと変貌していく。**グリムとシエルは、この倒したはずの敵が、肉体を失うことで、最も恐ろしい形へと進化したことを悟った。ベリアルはもはや、打倒すべき敵ではなく、**王都の魔力システムそのものを乗っ取る「論理的な災厄」**となっていた。




