王都の情熱と、堕落の囁き
グリムは、唐紅の弓懸とクレナイ、緑の錬金術師から託された重い使命を背負い、王都へと急ぎ帰還していた。彼の情熱は、理の呼吸によって途切れることなく、白熱の活動として持続されていた。
故郷の異変と、堕落した人々
グリムが王都の門をくぐったのは、火の国を出てからわずか二日後という、彼の人生最速の移動記録だった。しかし、門をくぐるなり、異様な光景が目に飛び込んできた。
王都の住民たちは、理性を失ったように興奮し、歓喜の表情を浮かべながら通りを徘徊している。彼らはグリムの姿を見つけるなり、歓声を上げて襲いかかってきた。
「我らが王都の戦士!愛を示せ!愛こそが全てだ!」
「さあ、その熱い情熱を解放しろ!理性なんてクズだ!」
グリムは、唐紅の弓懸で拳を護りながら、住民たちを傷つけないように避け続けた。彼らの瞳には異常な情熱が宿り、まるで何かに魅了されているかのようだ。
「くそっ……!これは魅了の魔力か!? ゴレモリー!」
王都の熱狂と堕落は、七天ホムンクルスの襲来を明確に示していた。
喫茶店の緊急避難
グリムは、住民の熱狂的な群れを掻い潜り、リリアンヌ姫の護衛としてマスターとシエルが待つはずの喫茶店へと駆け込んだ。
喫茶店の扉は厳重に施錠され、窓はカーテンが閉められていた。グリムが合図を送ると、シエルが素早く鍵を開け、グリムを中へ引き入れた。
「グリム! 無事だったか!」マスターはカウンターの内側で、狂気の愛の魔力を極限まで圧縮し、いつでも戦闘に入れる状態で待機していた。
「間に合ったか……! 王都はもう……」
シエルは眼鏡を深くかけ直し、冷静な声で状況を説明した。
「アザゼルの魔力の波長が王都に到達した直後、住民の行動原理が一斉に破綻しました。これはゴレモリー(色欲)の魅了と、シルファ(嫉妬)の魔力システムへの干渉の複合攻撃です」
グリムは、唐紅の弓懸に力を込めた。火の国で緑の錬金術師とクレナイが時間を稼いでいる間に、最悪の事態が進行していたのだ。
「アザゼルは広域的な論理の遅延を狙っている。そして、シルファは王都の魔力に嫉妬の魔力を植え付け、僕の演算を妨害している。マスターと僕は、リリアンヌ姫の安全と、王都の魔力核を護るため、ここに潜伏しています」
唐紅と狂気の愛、王都防衛戦
王都はゴレモリーとシルファの複合魔力により、情熱と嫉妬が渦巻く、機能不全の状態に陥っていた。
グリムがアザゼルの情報を伝え終えた直後、シエルの演算が完了した。
「マスター、グリム。演算の結果、二つの結論が出ました」シエルは冷静に告げた。
1. 「嫉妬」の核の特定: シルファは王都の魔力核(王都塔地下)に直接干渉し、ビアスの最終演算を植え付けようとしています。この侵入を阻止しなければ、王都の魔力システムは永久にホムンクルスに掌握されます。
2. 「色欲」の王の誘引: ゴレモリーは、魅了で王都を混乱させている最中ですが、彼女の本命はマスターです。マスターが外に出れば、彼女は必ずそちらに注意を向けます。
「グリムの唐紅の理は、アザゼルの論理を一時的に上回ることを証明しました。しかし、僕は王都の魔力核を演算で護らなければならない」シエルは強い決意を滲ませた。
マスターは笑った。その狂気の愛を宿した目は、既に戦場を見ていた。
「よし。作戦は二手に分かれる。シエルは王都塔へ移動し、俺とグリムが** decoyとなってゴレモリーを引きつける**。そして、シルファの防衛ラインまで突破する」
グリムは唐紅の弓懸を握り、炎の闘志を燃やした。「マスターと二人か……! わかった! やってやる!」
情熱の弓と狂気の拳
マスターとグリムは喫茶店を飛び出した。マスターの巨大な拳が地面を叩き、狂気の愛の波動を発生させると、周囲の魅了された住民が一瞬ひるんだ。
その波動を察知し、空から優雅な笑みを浮かべたゴレモリー(色欲)が舞い降りた。
「ああ、シズク! 会いたかったわ! その狂気の愛を、私の愛で塗り替えてあげる!」
ゴレモリーの魅了の魔力が、王都の全住民を狂喜させながら、マスターに集中する。
「悪趣味な愛だな、ゴレモリー!」マスターは避難したリリアンヌ姫の居場所を脳裏に焼き付けながら、愛の論理を拳に込めた。「私の愛は、守り抜くための拳だ!」
マスターがゴレモリーに突進する。
「!?……いきなり殴りかかるなんて無礼じゃないの!」
グリムの火炎の矢とマスターのフィジカルで囲まれたゴレモリーは驚愕し、魅了の魔力を防御に回さざるを得なかった。ゴレモリーの護衛を兼任していたシルファはシエルから完全に引き剥がされていた。
「マスター! 今だ!」グリムが叫ぶ。
マスターはゴレモリーを牽制しつつ、王都塔へ向かう道をグリムに開けた。グリムは魅了の熱狂を背中に感じながら、王都塔へと全力疾走する。
塔の入り口には、既に冷たい笑みを浮かべたシルファ(嫉妬)が待ち構えていた。彼の周囲の空間は、無数の論理の断片で歪んでいた。
「情熱の愚者が来たな。演算のない力など、我の論理の前では無意味」




