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優しさと、秘めた愛の調和



 

1. 王族の務めと婚約の具体化

ホムンクルス襲撃の撃退功績が認められ、シエルの王都への滞在は長引いていた。それはすなわち、王族の姫、リリアンヌとの婚約に向けた具体的な段取りが進んでいることを意味した。

 

王城の私室。シエルは王族の側近から、婚約の儀式や勇者の末裔としての今後の義務について、完璧な説明を受けていた。

 

「ヴァルカス殿。姫様は貴殿の完璧な知性を評価しておられます。しかし、姫様はご自身が数理魔法を苦手とされるため、貴殿の完璧すぎる態度に、時に反発を覚えてしまうようです。どうか、その点をご理解いただければ」

 

シエルは微動だにせず、完璧な執事の顔で答えた。

 

「畏まりました。感情的な側面は、国家の数理的安定には無関係です。私は私の使命を全うするのみ」

 

彼の心の中には、アリアという名の不完全な安息の数式が存在するが、この王城では、彼は冷徹な論理で振る舞うしかなかった。

 

その日の午後、シエルは王城内の図書室で、今後の防衛戦略の数理モデルを演算していた。

 

その時、リリアンヌ姫が図書室に乱入してきた。彼女は大量の数理魔法の教科書を抱えており、よろめいた拍子に、その本をシエルの足元に雪崩のように落としてしまった。

 

「ああ、もう!**計算なんて大嫌いよ!**こんなもの、全部燃やしてしまいたいわ!」

姫は、勉強が苦手な苛立ちから、乱暴な言葉を吐いた。

 

シエルは、一瞬眉間に皺を寄せそうになったが、すぐに完璧な笑顔に戻した。

「姫様。感情的な破壊衝動は、問題解決の最適解ではありません。よろしければ、私が効率的な学習計画を立てましょうか」

 

姫はシエルの顔を見て、ムッとした。

「結構よ!貴方の感情のない効率なんて、私には必要ないわ!」

そう言い放った姫は、落ちた本の中から一冊を拾い上げ、シエルの目の前に突き出した。

「ほら、これ!貴方が完璧すぎて吐き気がするから、せめて私が不完全な貴族の役目を果たすわ。この本、貴方の故郷の数理要塞の結界に関する、古くて重要な記述があるの。貴方、こんなの持っていないでしょう?勉強しなさい!」

 

姫の言葉は乱暴だったが、彼女が選んだ本は、シエルが密かに探していた要塞の防御結界の改良に不可欠な古い文献だった。姫は、シエルを毛嫌いしつつも、彼の使命を理解し、不器用な優しさを見せていたのだ。

 

シエルは戸惑いを覚えた。彼女は邪魔であり、非論理的だが、その行動には、他者を慮る温かい数式が存在していた。

 

2. 禁断の恋とポーションの温もり

深夜、王都から数理要塞に戻ったシエルは、いつものようにアリアの私室へと向かった。

 

シエルはソファに倒れ込み、王城での出来事を、愚痴として吐き出した。

 

「お嬢様……。姫様は、僕の完璧な報告書を台無しにする一方で、僕の使命に必要な文献を、投げつけるように渡してきました。あの非論理的な行動の裏側にある感情の数式が、僕には理解できません」

アリアは、シエルの言葉をすべて受け止めた。彼女は、シエルが王族の婚約者として務めを果たしていることに、胸の奥でチクリとした痛みを感じていた。

 

(シエルは、私の前から遠ざかっていく。でも、それはこの国のため、そして、この砦を守るため……)

アリアは、嫉妬ではなく、彼の使命を支えることを選んだ。それが、唯一の家族として、そして秘めた愛を持つ者としての、彼女の完璧な行動だった。

 

彼女は、静かにシエルに近づき、調合した**『カリブルヌス鎮静剤』**を渡した。

「シエル。あなたが姫様の非論理的な優しさを理解できなくても構わないわ。あなたには、私という安息の場所がある。そのポーションを飲んで。そして、あなたが王城で失ったエネルギーを、ここで回復させて」

 

シエルはポーションを飲み干し、その調和の数式によって心が安定するのを感じた。

 

「お嬢様……」

シエルは、アリアの腰に手を回し、そのまま彼女の膝に頭を預けた。それは、執事としては許されない、家族だけが許されるスキンシップだった。

 

「お嬢様は、本当に完璧です。僕の不完全な部分を、すべて受け入れてくれる」

 

「私は完璧ではないわ。ただ、あなたを家族として大切に想っているだけよ」

 

アリアは、シエルの髪を優しく撫でた。彼女は、このままシエルが王族の姫と結ばれることになっても、この秘密の温もりだけは、誰にも奪わせないと心に誓った。

 

その温もりが、禁断の愛なのか、かけがえのない家族愛なのか、シエルはもう区別がつかなかった。ただ、この場所だけが、彼が完璧な仮面を脱ぎ捨てて、深く安らげる唯一の数式だった。

 

3. 次なる脅威:磁力呪詛の進化

シエルが王都と要塞を行き来する中、要塞の防御網が再び微細なエラーを検知した。

 

シエルが前回撃退したホムンクルスは、その後、影の結社によって改良されていた。

 

シエルが仕掛けた**「元素共鳴の罠」は、ホムンクルスの磁力操作に大きな打撃を与えたが、結社はこれに対抗する新たな数式**を組み込んだのだ。

 

それは、磁力操作が失敗した場合、その魔力を自己の肉体変成に利用し、一時的に鉄よりも硬い装甲を纏うという、防御進化の数式だった。

 

この新たなホムンクルスは、「磁力呪詛」が効かない場合、すぐに近接戦闘に切り替えてくるだろう。それは、シエルの剣のトラウマを再び抉る、最悪の戦術であった。

 

シエルは、王族との婚約とアリアの愛、そして自身のトラウマという三つの枷を背負いながら、この進化する脅威に立ち向かわねばならなかった。

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