感情と論理の融合
暴食のホムンクルス、ベルゼ
マモン王国の闘技場。貪欲の巨人を破壊され激昂するベリアルに対し、シズクとシエルが新たな連携で立ち向かおうとしていた。その時、空気が腐敗したような、冷たい粘性の魔力に満たされた。
「見苦しいな、ベリアル」
冷たく、一切の感情を持たない声が、闘技場に響き渡った。
ベリアルの背後の空中に、一人のホムンクルスが突如として出現した。その体は黒い甲殻に覆われ、異様に巨大な顎と、無数の複眼のようなものが光っている。彼は七天ホムンクルス「ベルゼブブ(ベルゼ)」、**「暴食」と「堕落」**を司る存在だった。
ベリアルは突然の出現に目を見開き、警戒した。「ベルゼ...なぜ貴様がここに?」
ベルゼはベリアルを**「価値のない残骸」**を見るような冷徹な視線で見下ろした。
「七賢者の秘宝を奪われ、マモンの裏切りを許した。そして、命の代償という脆弱な論理に縛られた勇者一族に、敗北寸前まで追い込まれている。貴様はビアス様の究極の論理にとって、もはや不要な汚点だ」
シズクはベルゼの殺意がベリアルに向けられていることを察し、一瞬躊躇した。彼女の宿敵であり、因縁の相手であるベリアルが、彼女の手ではなく味方に始末されるという、非情な現実。
「汚点は速やかに処理すべき。それがビアス様の合理的な命題だ」
ベルゼが巨大な顎を開くと、腐敗した粘性の黒い魔力がベリアルの全身を覆った。ベリアルの強靭な肉体が、一瞬で急速に腐食し始める。
「ぐぅ...ぁあ...!! ベルゼ...貴様...!!」ベリアルは全身の魔力を解放して抵抗しようとするが、ベルゼの堕落の魔力は、純粋なフィジカルを持つベリアルにとって天敵だった。
ゴボッ...という音と共に、ベリアルの肉体は黒い液体へと変わり、ベルゼの巨大な顎に吸い込まれていった。
グリムの演算とシズクの激昂
その凄惨な光景を目撃したシズクは、激しい怒りに支配された。それは、宿敵を自分の手で倒すという誇りを奪われた怒りと、ビアス陣営の非情な論理への憎しみだった。
「汚い! 卑怯者が!」シズクは激昂し、ベルゼめがけて突進した。
「マスター! 感情的になるな!」
グリムは咄嗟の判断で爆撃用の火炎属性を凝縮した矢を多数放ちシズクとベルゼの間に割って入った。
グリムの超火炎爆撃から高音の魔力の壁が展開し、ベルゼの腐敗の魔力と衝突した。ベルゼの魔力は粘性が高いものの、グリムのエネルギーによる防御の前に、その腐敗の速度を抑え込まれた。
ベルゼは冷たく、グリムを見た。「勇者の力を持つ異分子か...。予想外のデータだが、ベリアルの残骸を取り込んだ今、貴様らの新しい力も分析できる」
「分析...だと? お前たちの全てが、冷たい論理でできているのか...!」シズクが叫ぶ。
ベルゼは無感動に答えた。「我々にとって、感情は非効率なプログラムに過ぎない。そして、命は有限のエネルギー。貴様らは無限のエネルギーの力を手に入れたが、暴食の力はその無限すらも喰らい尽くす」
ベルゼは巨大な顎を再びシズクとシエルに向け、次なる標的を宣言した。
ベルゼの冷徹な処理によってベリアルが消滅した闘技場は、一気に危機的な静寂に包まれた。シズクの激しい怒りと、シエルの究極の演算が、ベルゼの堕落の魔力に押し負けないよう均衡を保っていた。
シズクの決意と「怒りの定数」
「非効率だと? 命を懸けて戦うことのどこが非効率だ!」
シズクの激昂は、ベリアルを個人的な宿敵として見定めることで、短命の呪いを背負い続けた彼女自身の戦士の誇りを否定されたことへの激しい反発だった。
「マスター!」グリムが冷静に呼びかける。「怒りだけに囚われるな! ベルゼの**『暴食の論理』は、俺達の感情を揺さぶらせる罠だ」
シズクはハッと我に返った。彼女の怒りがデータとして利用される。それは、アビスが主張した**「感情の非効率」**そのものだった。
その瞬間、シズクは怒りを抑え込むのではなく、それを制御されたエネルギーへと昇華させた。彼女の純粋なフィジカルに、「息子を護る」という狂気の愛だけでなく、**「命を弄ぶ冷徹な論理への憎悪」**が加わった。
「グリム。感情は非効率ではない。力の源だ。僕たちの命は、彼らの非情な論理を打ち砕く最高の対価だ!」
シエルの帰還
その時、シエルが転移陣の閃光と共に闘技場に舞い戻った。彼の手に握られた剣は、強い決意を帯びた輝きを放っていたが、まだ秘宝の力は組み込まれていない。
お待たせしましたマスター! この戦いを終わらせましょう」
シエルは、秘宝の力を自分の剣に定着させたことを確認した。彼の演算は、無限の防御力を持つ盾と、秘宝の力を宿した剣、そしてグリムの弓を、完璧な数式で連結させた。
「グリム! あなたの錬成と、僕の演算を接続します! 無限のエネルギーを**『最強の攻撃』**に変える!」
究極奥義の完全解放と剣の輝き
シエルは盾を地面に突き立て、闘技場全体の魔力回路を支配した。命の対価という制約がなくなったことで、彼の演算速度は限界を超えた。
『究極奥義・演算解放:イノベイティブ・リバース』
シエルとグリム、そしてシズクの力が、一つの大きな術式へと収束した。シエルが無限の防御でベルゼの堕落の魔力を完全に中和し、その中和で生まれた膨大なエネルギーを、シエルの右手に握られた剣へと集中させた。
シエルの剣は、七賢者の秘宝の力を受け、炎でも氷でもない、純粋な創造のエネルギーを纏った光の刃へと変貌した。それは、まるで夜空に煌めく流星のようだった。
グリムは全身の闘志を込めて矢を放った。矢は音速でベルゼの巨大な顎へ向かうが、ベルゼの暴食の魔力は矢を途中で腐敗させ、喰らい尽くそうとした。
「させるか!」
シエルは盾を背に、光を放つ剣を握りしめ、堕落の魔力を無視してベルゼへ向かって突進した。彼の剣は、命の代償という負のエネルギーを含まない純粋な創造の力であり、ベルゼの堕落の論理では解析も処理もできない。
「喰らえ、汚れたホムンクルス! これが論理と創造の力だ!」
ドォオオォンッ!!!
シエルの光の剣がベルゼの甲殻を貫き、暴食のホムンクルスの巨大な体を爆発的な光で包み込んだ。ベルゼの冷徹な顔に、初めて動揺と苦痛の表情が浮かんだ。




