釣り餌と命の予行演習
緑の錬金術師の**「安全装置」という言葉は、シエルたちにとって衝撃だった。短命の呪いは、勇者一族の力を世界が受け止めるための枷**だったのだ。
釣り餌の代償
「釣り餌だと?」グリムは呆れたように口を開いた。「俺たちは七天と戦うのに、おっさんの釣り餌探しなんかやってる暇はねぇぞ!」
緑の錬金術師は笑みを浮かべた。「私は釣りが趣味でね。そして、私が求める餌は、この砂漠には存在しない。それは、深い海の底、あるいは冷たい雪山でしか見つからない極めて珍しい魔力の結晶だ」
彼は静かにマスターを見た。「対価は対価だ。それに、君たちはマモン王国へ行くのだろう? 私の求める餌は、王国の使節が運ぶ交易品の中に紛れている可能性が高い。それを探し、私に届けるのが君たちの役目だ」
マスターは腕を組み、不機嫌そうに唸った。「また面倒なパシリを...分かった。その餌とやらを探してやる。その代わり、命の対価からの切り離し方とやらを、すぐに教えろ」
命を切り離す訓練
緑の錬金術師は満足げに頷き、オアシスのそばに座るよう促した。
「それは、数式ではない。生命の理を無理やり捻じ曲げる感覚を、体で覚える必要がある」
彼はシエルとグリムに向き直った。「君たちの究極奥義は、発動時に全身の命のエネルギーを魔力へと変換する。私が教えるのは、その変換の回路の**『遮断弁』**を、意識的に閉じる訓練だ」
訓練が始まった。緑の錬金術師は、シエルとグリムの体内の魔力循環に手を触れ、生命力と魔力が繋がる根源の箇所を指し示した。
「シエル、君の精密な演算力で、その遮断弁を**『1秒間だけ』閉じる数式を組み込め。グリム、君の直感的な闘志で、『命を削るな』という意思を、その弁に魔力として叩き込め**」
シエルは目を閉じ、全身の魔力の流れを演算する。
「無理です! 奥義の詠唱中に、魔力回路を遮断すれば、術式が暴走するか、崩壊してしまう!」
「暴走すれば、君の命が散る」錬金術師は冷徹に言い放った。「だが、七天は君たちに猶予を与えてくれない。これは訓練だ。失敗すれば死ぬ。さあ、やれ」
一瞬の恐怖
緑の錬金術師の強制的な訓練の下、シエルとグリムは命の危険を感じながら、究極奥義の初歩的な起動を試みた。
グリムが氷属性の矢を錬成しようと試みた瞬間、全身の生命エネルギーが一気に引き抜かれる感覚が襲いかかる。
「くっ...」グリムの体が傾ぐ。
「今だ、シエル!」
シエルは顔を歪ませながら、練り上げた数式を魔力回路に叩き込んだ。
『演算開始:アブソリュート・オペレーション…回路遮断!』
次の瞬間、グリムの体から命の対価として引き抜かれかけた魔力が寸前でストップした。しかし、制御を失った氷の魔力が暴走し、グリムの腕を鋭い氷の結晶が覆い、肌を切り裂いた。
「成功だ」緑の錬金術師は静かに言った。「命の対価は切り離せたが、制御に失敗した。シエル、君の数式は遮断に特化しすぎて、術式の安定を忘れている。グリム、君の闘志はまだ暴走する魔力を御せていない」
マスターは、傷つきながらも生きている二人を見て、安堵の息を吐いた。
「命の対価を避けることは、究極奥義の真の制御への第一歩だ。これを完璧に使いこなせば、君たちはベリアルとも戦える」




