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熱と油を凍らせる連携


 

油の傀儡との戦闘が始まった。マモン王国の石油錬金術によって生み出された傀儡は、グリムの火炎属性を最高の触媒に変えてしまうという、勇者一族の錬金術とは対極の性質を持っていた。

 

冷却と硬化の演算

「シエル! お前は風の演算で奴らの体温を下げ続けろ! グリムは氷だ! 奴らの油を凍らせて硬化させろ! 私が潰す!」

マスターの指示に、シエルとグリムは即座に反応した。

シエルは両手を傀儡に向け、高速の風属性魔力を放出した。

 

「演算開始――『テンペスト・クールダウン』」

 

目に見えない魔力の風が、高温の油の傀儡を包み込み、油の表面から熱を奪い始めた。石油の傀金から立ち上っていた湯気が一瞬で消え、粘性の高い油が僅かに動きを鈍らせた。シエルは、熱伝導率の数式を高速で演算し、油の塊から効率的に熱を奪うことに集中した。

 

その隙を見逃さず、グリムが連続で氷属性の矢を放った。

 

「凍れ、てめえのぬるい油!」

 

氷の矢は、シエルが冷やした油の表面に次々と突き刺さり、高温の油を外側から硬質化させていく。油の傀儡は、動くたびに**「パキッ」**という乾いた音を立て、動きがぎこちなくなった。

 

マスターの重圧

二体の傀儡の動きが鈍ったのを確認したマスターは、地面を蹴りつけ、爆発的なスピードで一体の傀儡に肉薄した。

 

「遅い!」

 

マスターは剣を抜き放つことなく、拳に魔力を集中させ、硬化した傀儡の胸部めがけて渾身の一撃を叩き込んだ。

 

ドォンッ!

 

硬質化していた油の鎧は、内部の熱膨張に耐えきれず、外部からの衝撃で脆く砕けた。亀裂が入った傀儡の体は、中から黒い油を噴き出しながら勢いよく爆散した。

 

「フン、話にならん」マスターは、跳ね上がった油の飛沫を素早く避けた。

しかし、残る一体の傀儡は、仲間が砕けたことで学習したのか、体の構造を変化させた。粘性の高い油が体表を覆い、鎧のように硬化。そして、両腕はさらに巨大な黒い槌へと姿を変えた。

 

「なるほど、形態変化まで使えるか」シエルは演算を止めず、冷静に分析する。「この状態だと、熱を与えずに破壊のエネルギーを伝えるのは難しいかもしれません」

 

グリムが矢を番えた。「じゃあ、氷で動きを完全に止めて、マスターのフィジカルで貫通させるしかないだろ!」

 

マスターは不敵に笑った。「上等だ。七天に会う前に、その頭の冴えを見せてみろ、お前たち!」

 

貫く重圧プレッシャー

シエルとグリムの風と氷の連携を受け、油の傀儡との戦闘は新たな局面を迎えた。

 

完璧な演算による氷結

マスターは一歩前に踏み出し、いつでも攻撃に移れる体勢をとる。彼女の視線は、シエルとグリムの連携が生み出す氷の鎧に集中していた。

シエルは演算を極限まで加速させ、冷風の圧力を増した。

 

「グリム、氷の純度を上げてください! 粘性の高い物質は、外部からの冷却だけでは完全な硬化に至らない。内部の熱を包み込むように、結晶の緻密さを最大化してください!」

 

グリムは額に汗を滲ませながら叫んだ。「わかってるって! これが俺の精密錬成だ!」

 

グリムは矢を放つ代わりに、両手を傀儡に向け、全身の魔力を氷属性に切り替えた。純度の高い魔力が、まるで極低温の霧のように傀儡に纏わりつく。傀儡の表面は漆黒から純白に変わり、巨大な氷の塊となって完全に動きを停止した。

 

キンッ!

 

硬質な氷の結晶が、砂漠の熱気の中で反射し、静寂が訪れた。傀儡は、その巨大な槌を振り上げる途中で、時間の止まった彫像のようになった。

 

破壊の極致

 

「ご苦労さん」

マスターは短く呟くと、剣を鞘に納めた。彼女の全身の筋肉が隆起し、凄まじい魔力が身体に集中していく。それは、ベリアルとの戦闘でも見せなかった、純粋なフィジカルの極致を目指す奥義の片鱗だった。

 

「貫け――『アブソリュート・ノックダウン』」

 

マスターは氷の彫像となった傀儡の中心、黒い油が最も濃い核の部分を目がけて、拳を突き出した。剣や槍のような鋭さではなく、**全てを押し潰すような重圧プレッシャー**を伴った一撃。

 

ドゴォォォンッ!!

 

衝撃波が砂漠に広がり、シエルとグリムの髪を激しく揺らした。傀儡を覆っていた分厚い氷の鎧は、内部からの振動と外部からの圧力によって粉々に砕け散り、内部の油の核も微細な粒子となって霧散した。

 

それは、まるで空間の構造そのものが崩壊したかのような、圧倒的な破壊の極致だった。

 

マモン王国の入り口

「...さすがマスターだ」グリムが息を吐いた。

シエルは演算を解除し、疲労を隠さずにマスターに近づいた。「お見事です、マスター。あなたほどのフィジカルの純度があれば、熱という要素を介さずに、物質の結合そのものを無力化できる」

 

マスターは少し荒い息を整えながら、砕けた傀儡の残骸を見下ろした。

「ふん。この程度で手間取ってるようじゃ、ベリアルには勝てんよ。行くぞ、緑の錬金術師の釣り堀はもう近い」

 

一行は再び馬車に乗り込み、熱い砂漠を走り抜けた。しばらく進むと、砂漠の景色の中に、不自然なほどの緑に囲まれた小さなオアシスが見えてきた。そこが、古老を超える知識を持つハーフエルフ、緑の錬金術師の居場所だった。

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