マモン王国の武術大会と嫌な予感
賢者の森から戻ったシエルたちは、残っていたエルフたちを救助し、増援を警戒して転移結晶の魔法陣で一旦王都へ移動した。
王宮では、リリアンヌ姫が即座に対応。エルフたちを王宮の庇護下に置き、賢者の森と同じくらいの高魔力の土地である神秘の湖を一時的な避難場所として貸し出す手配をした。
シエルはグリム、マスター、そしてアリア様、リリアンヌ姫と共に王宮の会議室に集まり、今回の事件の経緯と、初めて現れた七天と呼ばれる上位存在のホムンクルスのことを報告した。
ベリアルの底知れぬ力
グリムがマスターにベリアルの実力について尋ねた。
「あれは只者じゃない。本気を出さずにずっと私の実力を測っていた。まるで本気を出せば赤子の手を捻るくらい簡単だと思わせる程、底が見えなかった」マスターは静かにそう話し、拳を強く握りしめた。
シエルも続けた。「正直、僕たちも本気を出されていなかった。もっと早く駆けつけていても古老を守ることが出来たかどうか」
グリムは床を見つめ、苛立ちを滲ませる。
「たらればの話をしたってキリがねえ。それよりベリアルって奴の動き見ただろ? あいつ俺の矢を風圧だけで消し飛ばしやがった。なんちゅう威力だよ。強くなった気でいた自分が苛立って仕方ねーよ」
七賢者の秘宝と武術大会
マスターはアリアに視線を向けた。
「気になってるのはそれだけじゃない。ベリアルって男は最後に武術大会で会おうぜと言っていた。まるで私たちが次そこに行くことを見越していたように」
その言葉を受け、リリアンヌ姫が話を切り出した。「そのことで分かったことがあるのよ」
リリアンヌ姫は一枚の文書を広げた。
「此処とは別の錬金術の歴史を歩んできた砂漠の気候のマモン王国から、武術大会の優勝賞品で七賢者の秘宝の一つが出されるそうなの」
その言葉にグリムが「なるほどな」と声を上げた。シルファたちが賢者の森の古老を潰し、次の標的が秘宝であることを示唆している。
全員の視線がマスターに集まる。
「はあ、分かったよ。やれば良いんだろやれば」マスターは嫌な顔を隠そうともしなかった。
アリアが尋ねた。「行きたくない理由でもあるんですか?」
マスターは吐き捨てるように答えた。
「マモン王国は石油の原産地で、色々な国から使者が送られるんだよ。王国もその使者を送ってるんだけど、その人と私が個人的に会いたくないだけだ」
古老を超える存在、緑の錬金術師
武術大会への参加が決まり、重い空気の中で今後の作戦を話し合う王宮の会議室。
シエルはコーヒーカップを静かに置き、新たな情報を切り出した。
「そういや、エルフの人たちを助けている時に聞いたんですが、森の古老よりも長生きしているエルフが存在しているらしいんですよ」
グリムは驚いて身を乗り出した。「何処にいんだよ、そのエルフ! 古老より長生きってことは、短命の呪いの何かを知ってるかもしれねぇぞ!」
シエルは冷静に答える。「世界中を歩き回っては病を治すハーフエルフと言っていました。その名も**『緑の錬金術師』**とか」
アリア姫がハッと息を飲んだ。「わたくし、その名前は聞いたことがあるわ! 確か七賢者の弟子の一人で、今もどこにいるか分からない謎の存在とされていました」
皆の視線が、情報を整理しているマスターに集まる。マスターは腕を組み、顎を撫でながら記憶を辿った。
「ああ、緑の錬金術師か。確か今は旅を辞めて、とある国の釣り堀でよく顔を見せているらしい。マモン王と緑の錬金術師は友好関係にあると聞いている」
グリムが興奮して声を上げる。「釣り堀!? マジかよ。そんな大物が釣り堀で!」
マスターは続けて、重い口調で核心を突いた。「ベリアルは古老を潰し、情報を消した。しかし、古老を超える知識を持つ七賢者の弟子が、マモン王国に近い場所にいるかもしれない」
シエルが静かに結論を導く。「マモン王国の武術大会へ向かう道中、その緑の錬金術師に立ち寄るべきですね。話を聞けば、短命の呪いの起源や、七天のホムンクルスの目的について、何か重要な手掛かりが掴めるかもしれない」
マスターはため息をつき、「ふん、どうせ秘宝を手に入れるだけじゃなく、また面倒なパシリをさせられる羽目になるんだろうさ」と言いながらも、次の目的地とやるべきことが決まったことに、僅かに闘志を燃やしていた。




