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演算の不完全燃焼



北の大地の山でマスターに促されて訓練を開始したシエルに対し、グリムは楽しげな挑発を投げかけた。 

 

「おいシエル、見せてもらおうじゃねえか、アンタの新しい方程式ってやつをよ!」

 

グリムはそう言って、多重属性の矢を構える。シエルは、いつものように勇者の剣を顕現させ、魔力を整えた。

 

剣と矢、距離を詰める演算

グリムが放ったのは、風と炎と雷を複雑に混成させた三連矢。ぶつかればシエルの身体は跡形も残らないと演算(予測)する。シエルは即座に剣の剣筋を真上に上げ、黄金の斬撃でその矢を打ち消した。

 

シエルは、剣の究極奥義『アブソリュート・オペレーション』の数式を頭の中で展開し、戦術を前の戦いとは異なる「グリムと距離を詰めていく作戦」に切り替えた。ゼロ距離で放つ『絶対演算』こそが、この奥義の制御の真価を問うことになる。

 

グリムも負けじと、今度は氷と雷と風の矢を立て続けに放つ。全てがシエルの足元を狙い澄ましていることから、シエルは次のグリムの動きを予測した。上から下に向かって剣の剣筋を振り下ろす。そうする事でただ斬撃を飛ばすだけでなく、生じた風圧で矢の軌道を乱し、同時に正面のグリムへの道筋を演算する。

 

「力の使い方は、それぞれ相性がある。だが、グリムの属性矢の使い方は、戦うたびに変わっている……」

 

シエルは、相性だけでなく、戦局によって応じる演算を、結果による行動とは異なる回答で毎回計算し行動しているグリムの進化を感じ取っていた。「やはりマスターに鍛えられてるだけあって、一筋縄ではいかない」そう思いながら、シエルは前に出る。

 

盾の顕現と演算の破綻

グリムもまた、シエルの接近に合わせ、最初に戦った時のように距離を詰めてきた。

 

「お得意のゼロ距離狙撃ですか? 辞めといた方が身の安全ですよ」シエルはそう挑発し、突きの構えで前に出た。

 

「リーチの短い剣なら、アンタの演算の結果なんざ見えてんだろうがよ!槍の時とは違うんだ! 前に踏み込んだ事後悔しな!」

グリムは、炎属性の矢と精霊属性、雷属性の矢を超近距離から放つ。その瞬間、シエルは剣を盾に変え、爆発的な火力の前に突進した。

 

爆風と砂埃が舞う中、グリムは驚きを覚えた。シエルが今まで使ったことのなかった盾を顕現させたことに動揺したが、自分の多重に放つ属性矢に適うはずがないとタカを括っていた。

 

しかし、シエルは吹き飛ばされず、なんと盾を持ったまま爆心地を突撃したのだ。グリムは自分の浅はかな考えに苛立ちを覚えながら構える。

 

「良いぜ! そんなチンケな盾、すぐにぶっ壊してやんよ!」

 

シエルは、何度も盾で属性の爆撃を受け止め続けたが、体力と気力が減り続けるばかりで、『リフレクトカウンター』はなかなか決まらない。一定の法則というものが、まだ不明瞭なのだろう。

 

シエルは剣に戻して前に踏み込んだ。

 

マスターの介入と失敗の数式

二人の激しすぎる戦いを見ながら、マスターはとうとう耐えかねて大声で叫んだ。

 

「終了だ! お前ら、今の戦いの趣旨忘れてんじゃねーだろうな! こんなに地形を変形させやがってよ。ここが王都の街だったら壊滅してるぞ」

 

「仕方がない。グリムの横暴な属性の矢で爆撃されたら、嫌でもこうなるのだ」とシエルは内心で毒づいた。

 

修行場は、炎と雷による焦土と、風圧による岩の崩壊で、原型を留めていなかった。

 

結果として、シエルは**『リフレクトカウンター』の法則を見つけることができず、また『アブソリュート・オペレーション』の制御をゼロ距離で完璧に完了させる演算の方程式**も見つけられないまま、訓練は終わってしまった。

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