戒めの剣と崖上の強制覚醒
演算外の轟音
賢者の森から戻り、精霊との再契約という究極の選択を前に、俺はマスターとグリムに相談した。結果、俺の心に巣食う祖先の恐怖、そして短命の呪いの克服のため、剣を扱う修行をつけることになった。
俺たち三人は、誰もいない北の大地の広大な草原に立っていた。マスターの指導のもと、グリムが容赦のない攻撃を仕掛けるという、非論理的な特訓が始まった。
「行くぞ、シエル! 攻めが甘いぞ!」
グリムは弓を引き絞り、精製された矢を正面から放ってきた。俺は剣を抜き、迫りくる矢を最小の動きで弾き、そのままグリムの懐へ突っ込もうと加速する。
その瞬間、嫌な予感が俺の演算回路を駆け巡った。即座に体を右に捻って大きく避ける。
次の瞬間、俺が立っていた場所の背後で、凄まじい轟音が響いた。振り返ると、そこには炎と爆風による巨大なクレーターができていた。グリムが放ったのは、火炎属性ポーションを極限まで混合したハイブリッドな爆発矢だった。
「マジでぶっ放しやがって……!」
俺が舌打ちをすると、グリムは楽しそうに叫んだ。
「さっさとしねーとぶっ殺されちまうぞ! オメェの完璧な防御は、俺の非論理的な火力の前では意味ねーんだよ!」
崖上の孤立
俺はその後も防戦一方に陥った。剣を振るう隙を与えまいと、グリムは全属性の矢を波状攻撃のように浴びせてくる。氷結で足場を奪い、精霊矢で牽制し、そして常に爆発矢で威嚇する。
やがて、俺はグリムの弓矢によって草原の果ての崖の上に追い詰められた。背後には断崖絶壁。もう逃げ場はどこにもない。
「そうなるだろうな」
見ていたマスターが静かに口を開いた。
「シエル。貴方は心のどこかで威力を制御しようとして縮こまった戦い方しかしない。貴方の剣は、祖先の呪いを恐れて力を出し惜しみしている。それでは、グリムの命を懸けた攻めには勝てない」
マスターの言葉は、俺の最も触れられたくない核心を突いていた。
短命の呪い。力を解放すれば、自分の生存期間が短くなる。その演算結果が、無意識のうちに俺の力を制限していたのだ。
山脈を割る一閃
「容赦はしないぞ、シエル!」
グリムは再び弓を引き絞る。今度は3本の混合矢を同時に生成している。これを食らえば、崖ごと俺の演算回路も崩壊する。
逃げ場は、ない。
逃げ場を無くしたおかげか、俺の中で何かが弾けた。そうだ。自分の命を惜しんで安息を護るなど、偽善でしかない。グリムが命を懸けて俺の心を殴ってくれたのだ。俺の覚悟が足りていなかった。
「安息の維持?ふざけるな。安息とは、俺が護り切ることだ!」
俺は呪いの恐怖を振り払い、自分の命を惜しむ演算を強制的に停止させた。
体内の魔力が、堰を切ったように解放される。祖先が恐れ、逃げ出した真の勇者の力が、剣に宿る。
俺は黄金の剣を一閃した。
その一閃は、グリムの5本の混合矢を熱量ごと蒸発させ、そのまま遥か彼方の山脈を一直線に切り裂いた。轟音は一瞬で山々を越え、辺り一帯の草原が爆発的な魔力で吹き飛ばされた。
俺は荒い息を整えながら、斬り裂かれた山脈を見た。
「フン。これで、ようやく俺の修行のスタートラインに立てたな」
マスターは、半ば呆れ、半ば嬉しそうな複雑な半笑いを浮かべていた。
「やれやれ。これでまた、地図の書き換えが大変だ。シエル、貴方の剣は安息のためではなく、世界の理を書き換えるためにあるようだ」




