弓に刻まれた錬成陣と、ハイブリッドな解答
北の大地での修行を続けるうちに、俺の頭には一つの非論理的なアイデアが舞い降りた。
俺の属性矢の精製は、**ゆかけ(安定性)とポーション(出力)**のハイブリッド構造によって成り立っている。つまり、俺自身が錬金術師のように、魔力と素材を体内で扱っているということだ。
ならば、いっそ俺自身の身体に錬成陣を刻み込めば、矢の精製効率が倍増し、ポーションの混合も楽になるのではないかと考えた。
錬成陣と魔力の数式
そのアイデアをマスターとライムに伝えた瞬間、二人とも顔色を変えた。
「ダメだ、グリム!」マスターは珍しく強い口調だった。「その分、貴方の純粋な魔力が必要になって、すぐに枯渇してしまう可能性がある。貴方は錬金術師ではない。身体の数式を弄るのは危険すぎる」
ライムも頷いた。「勇者の血統は錬成陣に頼りすぎるあまり、短命の呪いを相殺するための錬金術の血まで不安定にした過去がある。それは回避すべき最悪の数式だ」
二人の言葉は論理的だった。俺の魔力は元々低い。身体に刻めば、確かに即効性の火力は上がるかもしれないが、持続的な戦闘において自滅する可能性が高すぎる。
弓に宿るハイブリッド構造
だから俺は、身体ではなく、弓に錬成陣を刻むことにした。
俺の弓は、マスターからもらったもので、耐久性に優れている。この弓のグリップ部分とリム(弓のしなる部分)に、精製と属性付与を助ける錬成陣を、師匠の力を借りて細かく刻み込んだ。
これにより、俺の魔力が錬成陣を通ることで、矢を放つと同時に別の矢を精製しながら、ポーションの成分を最適に混合できるハイブリッドな構造が完成した。
俺が目指すのは、ライムのように純粋な実力で3本の矢を同時に放つ芸当ではない。
一本目の矢を放つ瞬間、弓に刻まれた錬成陣が二本目の矢の属性を事前調整し、三本目の矢のポーション混合を準備する。これなら、実力と錬金術の構造を組み合わせることで、ライムの技術を俺なりの数式で再現できる。
「非論理的な成長を、論理的な構造で補う」
俺の弓矢のアルケミストとしての道が、今、明確に幕を開けた。
天才の限界と、構造による超克
俺は弓矢のアルケミストとして錬成陣を弓に刻み込んだが、現実は非論理的だった。
錬成陣から流した魔力は、俺の想定以上に不安定で、矢を放つたびに軌道がブレ、狙った通りに飛ばないという結果に終わった。
ライムは俺の弓を見て、冷静に言った。
「グリム。お前のやろうとしていることは、私が3本の弓矢を実力で放つよりも、はるかに繊細な技術を必要とする。弓に魔力を分散させながら、それを矢一本一本に正確に流し込むのは、生体魔力回路を通すよりも難しい」
そして彼は、目標を修正するよう命じた。
「まずは、錬成陣に組み込まなくても、2本の矢を同時に放てるようにしろ。それが魔力制御の基礎となる」
純粋な実力という壁
俺は、構造に頼ろうとした自分の浅はかさを認め、再び地道な修行へと戻った。
錬成陣を封印し、ひたすら自分の集中力と肉体の記憶に叩き込む。数週間、毎日何百本と矢を放ち続けると、確かに2本の矢であれば、自分の力だけで安定して同時に放てるようになった。
「よし、数理的に安定したな」とライムは満足そうに頷いたが、俺は止まらなかった。
さらに数週間が経ったある日。俺はついに、ライムが手本で見せてくれた**「3本の矢を、自分の力だけで百発百中に放つ」**芸当を成し遂げた。
錬成陣という構造に頼るのではなく、純粋な実力で天才の壁を乗り越えた瞬間だった。
構造と実力のハイブリッド
そして、満を持して当初の計画に戻った。錬成陣が刻まれた弓を握り、ポーションで魔力を増幅する。
3本の矢を自分の力で放てるようになったことで、魔力の不安定な部分を3本の矢に均等に適当な配分で流すという制御が、肉体の記憶によって緩和されていた。**構造(錬成陣)と実力(集中力と記憶)**が、融合したのだ。
俺は集中し、弓を限界まで引き絞った。
一本、二本、三本――そして、錬成陣の補助によって、さらに二本の矢が精製され、同時に放たれた。
放たれたのは、計5本の矢。
5本の矢は、異なる属性を帯びながら、全くブレることなく、異なる5つの的の中心を射抜いた。連発はできない。だが、一瞬の爆発的な制圧力は、通常の弓術の常識を遥かに超えている。
ライムは、静かに弓を下ろした俺を見て、初めての驚愕を露わにした。
「……信じられん。お前は私の極めた技術を、非論理的な構造と途方もない努力で超えてみせた。これは、もはや勇者の弓術ではない。破壊の王が相手でも、お前の矢は脅威となるだろう」
すぐに、通信魔道具で報告を聞いたマスターから、いつもの厳しい叱責が届いた。
「五本だと? まだまだ甘いな。狙うべきは七賢者の秘宝の数だ。もっと精進しろ」
口ではそう言いながら、マスターの顔は満更でもない、誇らしげな笑みを浮かべていたように、俺には見えた。




