破壊の創造主ビアスと、偽りの勇者たち
暗闇の洞窟の最奥、錬金術の悪臭と歪んだ魔力の波動が渦巻く空間。そこは、生命の理を無視してホムンクルスを生み出し続ける、創造と破壊の王の隠れ家だった。
ビアス。その名を冠する男は、完璧な美貌と虚無を宿した瞳を持ち、歪んだ玉座に座していた。彼の足元には、先日マスターとグリムに敗北した黒装束の男の息絶えた体が横たわっていた。その肉体は、既にホムンクルスの不完全な体に戻りつつあった。
ビアスは、周囲に控えるシエルに似た顔を持つホムンクルスたちに、静かに問いかけた。
「答えよ。この世で最も危険な存在は誰だ?」
ホムンクルスたちは、一斉に淀んだ声で答えた。「勇者の一族です」
ビアスは、微かに口角を上げた。その笑みは、侮蔑に満ちていた。
「半分正解で、半分外れだ。何故なら、忌々しくて考えたくもなかったが、俺たちの身体にも勇者の血が流れている以上、俺たちも勇者の一族であることに変わりはない」
勇者という名の化け物
ビアスは、玉座から立ち上がり、圧倒的な魔力を放出した。
「だが、勇者とは勇ましい者のことを言う。世間で言う勇者とは、呪いの怖さで王族に寄生している、人間気取りの化け物どもの事だ」
彼は、偽りの勇者たちへの憎悪を吐き出した。
「奴らは安息を謳いながら、血の呪いを恐れて何もしない。自分たちの完璧な安寧のために、王族の権威に隠れて生きているに過ぎない。奴らこそが、最も醜い怪物だ!」
ビアスの声が洞窟に響き渡る。
「なのに、化け物扱いされるのはいつも俺たちホムンクルスだ。俺たち週末を願う物たちは、この非論理的な世界を一刻も早く終わらせようとしている。その純粋な意志を持つ我々が、偽善者どもに裁かれるなど、許される数式ではない」
賢者の森の真実と、最初のホムンクルス
賢者の森の奥深く、古き精霊の気配と生命の穏やかな波動に包まれた場所。そこは、エルフの一族が外界から身を隠し、太古の歴史を守り続けてきた聖域だった。
集落の広場では、若いエルフたちが教典を囲み、古老に詰め寄っていた。
「古老様、その教典に載っている話は、本当に事実なのですか? 噂では、勇者の一族に関する記述は、人間側の出鱈目な伝説だと聞きましたが……」
古老は、千年の時を生きた深い知恵の宿る瞳で、若者たちを見つめた。
「確かに存在する」
古老は静かに頷いた。その声は、森の囁きのように穏やかだった。
「その教典にも載っているだろう。勇者とは、元々精霊と契約した人間の子孫であり、その後継者たちの成れの果てでもあるのだ」
呪いと王族の錬金術
古老は、勇者の一族が背負う真の歴史を語り始めた。
「勇者の一族は、我々精霊と血の契約を結ぶことで、強大な魔力を得た。しかし、その代償として、彼らは短命である呪いを背負うことになった。彼らはその呪いを恐れ、我々との原始的な契約を破棄する方法を探した」
「そして彼らは、短命の呪いを避けるため、人間の世界の王族と交わり、子供を作ることを選んだ。それこそが、一族の血を存続させるための数理的な解答だった」
若者たちは、驚きを隠せない。勇者の一族が、呪いを避けるために愛と契約を捨てたという事実は、彼らの信じてきた物語とはあまりにもかけ離れていた。
「人間の世界の王族は、元々錬金術という毒素を分解して薬に変える力を持つ。彼らの血が持つ浄化の力と、勇者の血が交わることで、勇者の一族は我々の力を借りずとも、その短命の呪いから解放されようとしたのだ」
最初のホムンクルスの憎悪
古老は、さらに恐ろしい真実を続けた。
「そして、その勇者の一族の産まれと同時に、最初のホムンクルスがこの賢者の森で歪んだ生命として誕生した。それが、ビアスという存在だ」
「ビアスは、勇者の一族が呪いから逃れるために我々を捨てたという裏切りと、自身が不完全な存在として生まれたという存在意義の否定を、何千年も憎しみ続けてきた。彼は、勇者の血を引くホムンクルスを精製し、化け物呼ばわりされてきた集団のただ一人の生き残りとして、その憎悪を世界の破壊へと昇華させたのだ」
古老は、静かに目を閉じた。
「ビアスが、七賢者の秘宝を集め、破壊の王としてこの世に顕現する。そうなれば、呪いから逃れた偽りの勇者たちだけでなく、世界全体の理が崩壊するだろう」
「生きていたら大変なことになるだろうな、などという悠長な話ではない。勇者の一族も、王族も、そして我々精霊も、全てが虚無の数式に飲み込まれる。もはや安息の維持どころか、存在そのものの数式を書き換えられる危機にあるのだ」




