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最終決戦前夜と、非論理的な増強ポーション



 

1. 弟の成長と最後の決闘

裏の執務から解放され、喫茶店の新人執務を完璧にこなすようになったグリムは、半年間の修行の成果を携え、数理要塞フォルティス・マティカに凱旋した。その佇まいには、以前のような苛立ちではなく、芯の通った落ち着きが宿っていた。

 

数日後、グリムはアリアとシエルがいる部屋の扉を開け、静かに挑戦状を叩きつけた。

 

「シエル・ヴァルカス。俺と決闘しろ」

 

アリアは猛反対した。「グリム!なぜまた!貴方がどれだけシエルを追い詰めたと思っているの!決闘は禁止よ!」

 

グリムは、アリアではなく、シエルへと視線を向けた。

 

「姉さん、これは貴方に言っているのではない。執事として、俺の数式を崩壊させた勇者に言っている」

 

シエルは、半年ぶりに再会したグリムを静かに見つめた。以前は疲労と過労で不安定だった瞳の色は、穏やかな黄金の輝きに戻っていた。彼の顔には、不満はありつつも、その立ち筋には確かな自信と覚悟が感じられた。

 

シエルは完璧な笑顔を浮かべた。

 

「分かりました、グリム様。貴方の成長の成果を拝見させていただきます。ただ、これで最後にして下さいね。僕の安息の数式が、これ以上非論理的に崩壊するのは執事の美意識に反します」

 

2. 修行の最終調整とポーションの発見

グリムは、決闘当日まで最後の追い込みとなる修行に没頭した。修行中、彼は弓の生成について一つの疑問を抱き、マスターに質問を投げかけた。

 

「マスター。弓の生成に必要な魔力反応についてだが、魔力属性に相性があるだろう。俺の魔力と合わないから、矢の構成が不安定になるのではないか?」

マスターは、カップを拭きながら冷静に答えた。

 

「確かに、魔力属性も相性はあります。ですが、それは二の次です。大切なのは、精密さと集中力を兼ね備えて、それを補える技術と体力さえ持っていれば、後はどうとでもなりますよ」

 

「それじゃダメなんだ!」グリムは苛立ちを募らせた。「まだ、何か決定的なものが必要だ」

 

グリムは、魔力の少ない自分でも瞬間的に勇者の力を引き出すための、非論理的な手段を見つけることにした。彼は、アリアが残したポーションの残骸をこっそり持ち出し、いつもの修行場所で**「実験」**を開始した。

 

魔力増強、火炎属性、精霊属性、治癒属性……様々な属性魔力ポーションを服用してから矢を生成する。すると、服用した属性を宿した矢が作れることがわかった。

 

しかし、火炎属性の矢は重すぎ、精霊属性の矢は軽すぎて、命中精度が数理的に不安定になった。半年の修行で身につけた体術と弓術の演算を、一週間で新しい重さの数式に合わせることは不可能だった。

 

そんな中、グリムと最も相性が良かったのは、皮肉にもアリア特製の「魔力増強ポーション」だった。ポーションで純粋な魔力リソースを増やした矢は、矢自体の重さは変わらないのに、魔力的な威力が段違いに跳ね上がった。

 

グリムは悟った。他の属性の矢は次のシエルとの決闘までに間に合わせることは無理だ。しかし、魔力増強ポーションであれば、重さは同じで威力のみが違うという、彼の数式に最適な状態を作り出せる。

 

3. 観覧席の非論理的な面々

決闘当日。要塞の演習場には、グリムの予想を超えた観客たちが座席に並んでいた。

 

観覧席には、リリアンヌ姫、マスター、そしてアリアとメイド長が、まるで王都の闘技大会でも見るかのように、豪華な茶菓子と共に鎮座していた。

「なっ……何故、貴方たちが!」グリムは混乱した。「これは見世物じゃない! シエルとの真剣な決闘だ!」

 

マスターは、茶菓子を優雅に口に運びながら、にやりと笑った。

 

「私の弟子のくせに、生意気言ってないで準備を整えたらどうだ。あなたの修行の成果が、数理的に証明される瞬間を、師として見届けに来ただけですよ」

リリアンヌ姫は扇子で口元を隠し、「完璧な執事の戦いは、王族の執務の一つよ」と冷たく言い放った。アリアは心配そうに身を乗り出している。

 

グリムは、五人の視線が非論理的に集中していることに気が散るのを我慢しながら、弓道着とゆかけを整えた。

 

対するシエルは、いつものように**黄金のロングヌス**を構えた。

 

「剣は使わないのか!」グリムは尋ねた。

 

シエルは、完璧な余裕のある顔で答えた。

 

「まずは、グリム様の成長を様子を見て考えますよ。僕が剣を出すような非論理的な状況にならないことを祈ります」

 

グリムの苛立ちの数式は臨界点に達した。彼は魔力増強ポーションを隠し持ち、いつでも使えるように備えた。

 

そして、メイド長が持つ完璧な金色の笛から、試合開始のホイッスルが、演習場に高く鋭く響き渡った。

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