表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/79

六ヶ月間の非論理的試練と、弟の執念



 

1. 喫茶店の日常と非論理的な数式

グリムが喫茶店の**「裏の執務室」で働き始めてから、数日が経った。彼の任務は、ひたすら清掃と雑用**だった。

 

カウンターの奥では、マスター(シエルの母)がグラスを磨きながら、グリムの動きを常に数理的な厳しさで評価し続けた。

 

「遅いぞ、新人のグリム君。その床の拭き方では、ホムンクルスの汚れも取りきれない。もっと一点に集中し、魔力的な無駄を削ぎ落としなさい」

 

「早くしてくれないか。そのグラスの拭き方には、非論理的なムラがある。完璧執事の弟としては、完璧な成果を期待しますよ」

 

グリムは内心、「うるさい、やってるだろ!俺は貴族だぞ!」と何度も叫びたくなった。しかし、「帰ってくれても構わない」というマスターの言葉が、彼のプライドを縛り付けていた。

 

グリムは、怒りと反骨心をエネルギーに変え、床やテーブル、食器の掃除から洗い物まですべてを、軍事アカデミーのトップにふさわしい完璧なスピードと正確さでこなすのだった。

 

「終わったぞ!次持ってこい!」

 

グリムは業務を終えるたびに宣言したが、それは単なる次の執務への移行を意味するだけだった。

 

2. 最初の壁と走り込みの追加

最初の週が過ぎ、楽しみにしていた修行の日がやってきた。グリムは、山で弓道着を纏い、腕輪を弓に変形させ、的を狙った。

 

矢を放つと、以前より飛距離は少しだけ伸びたものの、結果は変わらなかった。矢は空中で魔力の制御を失い、光の粉となって消えていった。

 

「先週と魔力操作の数式が全く変わりませんね。これでは、シエル様の最小限の演算には程遠い」マスターは、グリムの努力を数理的に無効だと指摘した。

「拭き掃除にはなれて来た頃合いだろうし、次からは仕事の後、ここで走り込みをしていて下さい。身体的な体力と魔力のリソース管理を同時に鍛えます」

 

マスターはそう言い残し、さっさと山を下りて行った。

 

(舐めやがって……!ただの体力バカにさせるつもりか!)

グリムはイライラしながらも、「言われた通りには絶対に負けない」という反発心を動力源に、毎日王都の裏通りを走り続けた。

 

3. 三ヶ月の停滞と自前の矢

そこから三ヶ月が経過した。グリムの肉体は引き締まり、喫茶店での動きには数理的な無駄が消えていた。

 

三ヶ月ぶりの修行の日。グリムが矢を放つと、ついに矢は的に当たるようになった。しかし、矢は的を貫くことなく、衝撃と共に光の粉となって消えた。

 

「飛距離が伸びても、魔力操作がまるでなってないですね。矢を物質として固定化する技術が欠けている」

 

マスターは、グリムの小さな喜びを数理的な事実で打ち砕いた。

 

「次にやるべきことは、矢を自分の魔力で創り出せるように訓練して下さい。今までは私が事前に用意した矢を使わせていましたが、本来勇者の武器は自分の魔力で構成されます。ゆかけの力を使えば魔力の出力は得られますが、その構成の数式を覚えない限り、矢は存在確率の低い非論理的な物質のままだ」

「自前の弓矢」の訓練は、さらに非論理的な苦行だった。彼の腕輪は矢を生み出そうとしても、すぐに魔力が霧散した。

 

4. 半年の到達点と卒業

さらに三ヶ月が過ぎ、修行開始から半年を迎えた頃。

グリムが集中して魔力を込めた。カチッという小さな音と共に、腕輪から放たれた矢は、ついに的の表面に刺さった。命中率は低く、浅く刺さっただけだが、矢は光の粉にならなかった。

 

グリムは、人生で初めて、自分の力で物質を構成し、目標に到達したことに、アカデミーのトップに立った時以上の喜びを感じた。

 

しかし、彼の喜びもつかの間だった。

 

それからも修行の項目は数ヶ月おきに増えていき、体術、魔力演算の応用、さらには精神的な安定の訓練などが次々と課された。グリムは、マスターに弱音を吐くまいという反発心だけで、それらを全て乗り越えていった。

 

そしてある日、マスターはいつものように皿を拭いているグリムに、静かに告げた。

 

「グリム様。もう私から教えることはありません。後は、ご自分で調整して下さい」

 

グリムは、達成感と寂しさが入り混じった複雑な表情でマスターを見つめた。

「ですが、一つだけ。この店での仕事には遅れずにちゃんと来て下さいね。あなたの裏の執務は終わっても、喫茶店の新人の執務はまだ終わっていませんから」

 

マスターは、優しい笑顔を浮かべたが、その瞳は**「私のおごりの報酬のためにも、逃がしませんよ」**と語っていた。

 

こうして、グリムは**「勇者の修行」を終えながらも、「喫茶店バイト」という新たな人生の執務**を背負わされることになったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ