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二人の令嬢と、マスターの助言



 

1. 喫茶店の静寂と不調和な茶会

公然デートの喧騒から逃れるように、アリアとリリアンヌ姫は、メイド長に案内されて王都の裏通りにある小さな喫茶店にいた。シエルは、メイド長からの厳命で**「過労寸前の身体」**を理由に、要塞に強制送還されていた。

 

二人が飲んでいるのは、もちろんマスター特製のハーブティー。その温かい香りが、二人の間の複雑な空気を少しだけ和らげていた。

 

「フン。あんなに騒がしかったのに、急に静かだなんて、非論理的で気が抜けるわね」リリアンヌ姫は、カップを揺らしながら不満そうに言った。

アリアは、シエルの母であるマスターに感謝の意を述べた後、俯いたまま静かに話し始めた。

 

「姫様……シエルは、本当に完璧な執事です。私の孤独を埋めてくれて、私を家族として愛してくれた。でも、貴方という完璧な婚約者がいる以上、私の存在は不必要なノイズでしかありません」

 

姫は、アリアの諦めの言葉に苛立ちを感じた。彼女は、**「不完全な自分」と「完璧なシエル」**の婚約に、自身も疑問を抱いていたからだ。

 

「アリア。貴方、まだそんなことを言っているの?貴方たちが互いを**『家族』**として深く愛し合っているのは、私が一番よく知っているわ」

 

姫は、冷たい表情の中に、不器用な優しさを滲ませて言った。

 

「私が言っているのは、数理的な結論よ。貴方さえ良ければ、そのまま貴方たちが結婚すればいいじゃない。私は、使命として王家の血筋を絶やさなければいいだけだわ」

 

2. マスターの助言と運命への抵抗

アリアは驚き、顔を上げた。王族の姫から、禁断の愛の肯定をされたのだ。

 

「姫様……それは、あまりにも非論理的な提案です。王族の婚姻は、国を安定させるための数式であり、個人の感情ではない。それに、シエルは勇者の末裔としての使命を背負っている。最初から決まっている運命に、私たちが抗っても仕方がないわ」

 

アリアはそう言って、諦めという名の冷静さで話を終わらせようとした。

 

その様子をカウンター越しに見ていた**マスター(シエルの母)**は、静かに二人の間に割って入った。

 

「お嬢様方。すみませんね、お節介かもしれませんが……」

 

マスターは、ハーブティーの入ったポットを置き、アリアの目を見て優しく語りかけた。

 

「本当に諦めてしまうのですか?いいですか、気になっている男の子に、ちゃんと自分の気持ちを伝えてからにした方が、後々後悔しないですよ」

 

シエルの母の言葉は、「勇者の一族の母」としての、運命に抗ってきた経験に基づいていた。アリアの瞳が、強く揺れた。彼女の錬金術の数式では、計算できない感情の変数を突きつけられたのだ。

 

3. アリアの反撃と姫の拒否反応

マスターの助言に、アリアは動揺を隠すため、話をすり替えるようにリリアンヌ姫に尋ねた。

 

「そ、そこまで言うなら、姫様はどうなんですか!貴方だって、運命に逆らって、ご自分の素直な気持ちでシエルを評価すべきじゃないですか!」

 

アリアの目は、責めるような強い光を宿していた。

 

「シエルは、貴方の婚約者でしょう!?貴方は、シエルのこと、どう思ってるんですか?」

 

リリアンヌ姫は、突然の問いに驚き、少し頬を赤らめた。そして、彼女は正直な気持ちを口にした。

 

「な、なんですって。そうね……最初の頃のような冷たい人形の感じは、ちょっとだけ収まった気がするけど……やっぱり私は好きになれないわ」

 

姫は、正直に続けた。

 

「彼のすべてが、あまりにも完璧すぎて、私には拒否反応が出てしまうの。私だって、不完全な王族なのに。そんな完璧な男と、どう接したらいいか分からないのよ!」

 

姫の言葉は、彼女の根深い劣等感と不器用な心を露わにした。しかし、その逃げの言葉は、シエルを愛するアリアには耐えがたいものだった。

 

アリアは、思わず頬を膨らませて、呆れ混じりの強い口調で反論した。

 

「そんなの、当たり前じゃないですか!貴方がちゃんと向き合ってないから、そんな答えになるんです!シエルの完璧な仮面の下にあるだらしなさや疲労に、貴方が一歩も踏み込んでいない証拠です!」

 

「好きになれない」という姫の言葉は、アリアにとって、自らの禁断の愛を公然と否定されたのと同じくらい、シエルの尊厳が踏みにじられたように感じられたのだ。

 

二人の令嬢の間に、ハーブティーの温かい香りとは不調和な、激しい感情の数式が交差した。

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