表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/79

完璧執事の最終演算



 

1. 勇者の真の力

鎖から解放され、アリアのポーションで演算回路が安定したシエルは、完璧な執事の笑顔を浮かべたまま、その場を支配した。彼の黄金の瞳は、目の前の敵を数理的な脅威としてのみ認識していた。

 

「僕の執務の遅延は、貴方がた影の結社の存在確率に起因する。故に、貴方がたの存在自体を、演算魔力で消去する」

 

シエルは黄金のロングヌスを構え、魔力を高めた。彼の背後に、アリアとリリアンヌ姫が、それぞれの不完全な優しさと完璧な支援を込めて、見守っていた。

 

黒装束の男は嘲笑した。「愚かな。我々の呪詛は、貴様の魔力を奪った。貴様に残されたのは空っぽの器と、忌まわしい剣のトラウマだけだ!」

 

「いいえ」シエルは静かに否定した。「僕の器を満たすのは、魔力だけではありません。家族への愛と、使命への責任。そして、貴方がたのような非論理的な存在への激しい怒りです」

 

シエルは槍を捨てた。そして、両手を広げた。

 

「貴方がたの磁力操作、呪詛、ホムンクルスの存在。すべては、数理的な破綻を招く不協和な要素です」

 

シエルの演算魔力が、極限まで純粋化された。彼は、剣の暴発やトラウマを恐れることなく、自らの存在そのものを巨大な数式へと変えた。

 

「アルス・マグナ(大いなる術式)――存在の逆変成」

 

シエルの体から、黄金の魔力が光となって噴き出した。それは、槍や剣といった物理的な具現化ではなく、空間の数理構造そのものを書き換える究極の演算だった。

 

2. 数理的な消去

シエルの放った**「存在の逆変成」の光は、まず黒装束の男**を襲った。

 

男が放つ不協和な呪詛は、シエルの調和の数式によって瞬時に分解された。男の魔力回路、そして存在を定義する元素結合式そのものが、シエルの演算魔力によって**「無」へと回帰」**させられていく。

 

「な…馬鹿な!この演算は…神の領域!」

 

男は絶叫したが、彼の体は原子レベルで解体され、一瞬にして光の粒子となり、地下迷宮から数理的に消去された。

 

次に、シエルの演算は、ホムンクルスへと向けられた。

 

ホムンクルスは、シエルの攻撃を鋼鉄の装甲で防ごうとした。しかし、シエルの数式は、物理的な装甲ではなく、彼女の存在の根源を構成する**「勇者の血の要素」**に直接作用した。

 

シエルは、同容姿の彼女に対し、悲しみと決意の混じった声で語りかけた。

 

「貴方たちの存在は、僕の里の悲劇の上に成り立っている。僕は、貴方を敵として消去するのではなく、元のあるべき姿へと解放します。それが、勇者の血を背負う僕の、最後の使命です」

 

ホムンクルスの銀色の瞳から、涙が一筋流れた。彼女の体から、禍々しい磁力の魔力が抜け落ちていく。そして、彼女の不自然な成長が止まった肉体は、純粋な魔力の塊へと還り、やがて温かい光となって消えた。彼女は、悲劇の連鎖から解放されたのだ。

 

3. 完璧な終わりと不完全な安息

敵が完全に消去されたことを確認したシエルは、脱力し、その場に膝をついた。彼の勇者の演算魔力は限界まで消費されていた。

 

「シエル!」

 

リリアンヌ姫が、王族の威厳をかなぐり捨て、彼の元へ駆け寄った。彼女は、シエルの自己犠牲的な強さと、その裏にある壮絶な苦悩を初めて目の当たりにした。

 

「あなた…なんて無茶苦茶な数式を使うのよ!完璧な執事は、自分の命を完璧に管理しなさい!」

 

姫はそう怒鳴りながらも、シエルを抱き起こそうとした。

 

アリアは、姫にそっと鎮静剤の予備を手渡した。

 

「姫様。彼は今、完璧な力を使った反動で、最も不完全な状態です。このポーションを」

 

姫は、アリアの指示に従い、シエルにポーションを飲ませた。

 

シエルは、アリアとリリアンヌ姫に支えられながら、力なく微笑んだ。

 

「姫様、お嬢様……僕の執務の遅延を、これで完璧に解消しました。ですが、僕は今、完璧な休息が必要です……」

 

数理要塞に戻ったシエルは、その日から一週間、アリアの部屋のソファで完璧な昏睡状態に陥った。その間、アリアは献身的な看病を続け、リリアンヌ姫は王族の権限で、この事件の事後処理と要塞の防衛強化を完璧に行った。

 

シエルが意識を取り戻したとき、彼の目の前には、温かいハーブティーと、幾何学的に完璧なミルフィーユが並べられていた。そして、いつものように、アリアが彼の隣に座っていた。

 

「お嬢様……。僕は、完璧な執事に戻れますか……?」シエルは、弱々しい声で尋ねた。

 

アリアは、シエルの髪を優しく撫でた。

 

「ええ、シエル。あなたの完璧な使命が続く限り、あなたは完璧な執事よ。でも、ここでは、永遠に疲れてだらしない、私の家族でいてちょうだい」

 

シエルは、不完全な安息の数式の中で、深い満足感を覚えた。

 

彼の完璧な物語は、不完全な愛と温かい家族の絆によって、これからも支えられ続けていくのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ