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地下迷宮の光と影



 

1. 地下への潜入と姫の突破

アリアとリリアンヌ姫は、シエルの最後の演算記録と、姫が手に入れた情報を基に、影の結社の隠れ家が王城地下の古い魔力炉の廃墟であることを突き止めた。

 

夜陰に紛れ、二人は廃墟の入り口に立った。アリアは、姫の乗馬服のポケットに、対呪詛用の特殊な結界符をそっと忍ばせた。

 

「姫様。この符が、貴方の元素操作の魔力回路を、謎の男の不協和な呪詛から守ります。あくまで支援に徹してください」

 

「フン。うるさいわね、完璧な支援を期待してるわよ、アリア」

 

姫はそう乱暴に言い放つと、巨大な廃墟の扉に立ち向かった。扉は強固な数理結界で守られていたが、姫は迷いなく、最も得意とするシンプルな破壊の元素呪詛を詠唱した。

 

ズガアァン!

 

結界は不調和な破壊の力によって一瞬で崩壊し、扉は粉砕された。姫の魔力は、完璧な理論ではなく、乱暴なまでの集中力によって、シエルの緻密な結界をも凌駕した。

 

「さあ、行くわよ!完璧な執事を、完璧な王族が連れ戻してあげる!」

 

二人は廃墟の暗い階段を降りた。内部は、錬金術の変成式が刻まれた不気味な地下迷宮になっており、随所に警備のホムンクルスが配置されていた。

 

姫は単独で突破役を担った。彼女は、火や岩といった単純だが強力な元素操作で、警備ホムンクルスを次々と無力化していく。その戦い方は、シエルのような精密な数式とは対極にある、豪快で、一切の迷いがないものだった。

 

アリアはその後ろを、精密な支援役として続く。彼女は、静かな数理魔法で、姫が破壊した結界の再生回路を遮断し、見つかった罠の数理式を、シエル直伝の**「冗長式の挿入」**で無力化していった。

 

「姫様、右手の廊下、麻痺毒の罠が起動します。回避は計算上不可能。私が解毒ポーションを散布します」

 

「ちっ、面倒くさいわね!」

 

姫は文句を言いながらもアリアの指示に従い、アリアが空中に散布した解毒ポーションの霧の中を駆け抜けた。不調和な姫と完璧な支援者。二人の共闘は、理不尽なほどの効率を発揮していた。

 

2. シエルの発見とホムンクルスの問い

地下迷宮の最深部、古い魔力炉の中枢で、二人はついにシエルを発見した。

シエルは、祭壇のような台座に横たえられ、彼の黄金の腕輪は、魔力炉と直結した禍々しい呪詛の鎖に繋がれていた。彼の表情は完璧な執事の仮面を失い、蒼白になっていた。

 

彼の傍には、黒装束の男と、シエルと同容姿の女性ホムンクルスが立っていた。

 

「来たか、不完全な令嬢たち。王族の姫と、辺境の貴族令嬢が手を組むとは、最も非論理的な数式だ」黒装束の男が、嘲るように言った。

 

リリアンヌ姫は、怒りに燃えながら前に出た。

「あの冷たい完璧な男は、私の婚約者よ!勝手な数式で、私のものを盗むんじゃないわ!」

 

「彼の血は、このホムンクルスを完全な勇者にするために必要だ。邪魔はさせない」

 

男が再び不協和な呪詛を放とうとした瞬間、姫は最大の元素操作を放った。炎と岩石が混ざり合った破壊の波動が男を襲い、その隙に、アリアはシエルに駆け寄った。

 

「シエル!ごめんなさい…私が、感情的なことを言わなければ……」

 

アリアが懺悔の言葉を述べたその時、ホムンクルスがシエルの傍に立ち塞がった。彼女の瞳は銀色に輝いていたが、その表情は静かな悲しみを湛えていた。

 

「アリア・ラプラス。貴方は、彼の不完全さを愛しているのね」

 

ホムンクルスは、シエルの顔を見つめながら、静かに問いかけた。

 

「私は、彼の血から生まれた**『完璧な勇者』となるはずだった。彼はトラウマと感情という欠陥を抱えている。貴方は、そんな欠陥**を愛するの?」

 

アリアは、ホムンクルスの問いに、迷いなく答えた。

 

「欠陥ではないわ!それは、彼が人間である証拠。私は、彼の完璧な執事の仮面の下にある、疲れてだらしない、温かい人間性を愛している。そして、彼を救うのが、私の家族としての使命よ!」

 

アリアは、ポーションを取り出した。

 

3. 鎮静の数式と勇者の覚醒

姫が謎の男の呪詛と激しく交戦している間に、アリアはシエルに最後のポーションを投与した。

 

『カリブルヌス鎮静剤・改良版』。それは、シエルの演算回路を調和の数式で満たす、アリアの愛そのものだった。

 

ポーションがシエルの体内に回った瞬間、シエルに繋がれた呪詛の鎖が、ノイズを立てて輝きを失い始めた。

 

シエルの演算回路が、再び起動した。彼の脳裏に、アリアの温もりと、姫の不器用な優しさが、「守るべきもの」という数式となって刻まれた。

 

シエルの瞳が、ゆっくりと開かれた。その目は、執事の冷静さと、勇者の強い意志が混ざり合った、黄金色の輝きを放っていた。

 

「お嬢様、姫様……僕の不完全な安息の場所に、ご迷惑をおかけしました」

 

シエルは静かにそう言い、自らに繋がれた呪詛の鎖に、黄金の魔力を集中させた。鎖の元素結合式は、完璧な演算によって瞬時に解体された。

シエルは立ち上がった。彼の右手には、**黄金のロングヌス**が具現化されていた。

 

「さて、非論理的な計画を実行した影の結社の方々。僕の執務時間が、貴方たちによって大きく侵害されました。この業務の遅延は、完璧な執事として、看過できません」

 

シエルは、完璧な笑顔を浮かべた。その笑顔は、これまでにないほど冷徹で、狂気的ですらあった。

 

「これから、僕の**『勇者の演算魔力』のすべてを使って、貴方たちの組織の存在そのもの**を、数理的に消去させていただきます」

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