不完全な令嬢たちの、完璧な共闘数式
1. 悲劇の報告と二人の決意
アカデミア・マギカでの爆発から数時間後、**数理要塞**の執務室は、重い沈黙に包まれていた。
アリアは、王城から戻った兵士からの報告を、震える手で受け取っていた。報告書には、学園の破壊状況と、シエル・ヴァルカスの行方不明が記載されていた。
「シエルが…ホムンクルスと、謎の男に攫われた…そして、彼の黄金の魔力が、大量に奪われた……」
アリアは、シエルが命を懸けて守ってきた数理要塞の設計図と、剣のトラウマに関する記録が盗まれたことよりも、家族であるシエルの安否に心を痛めた。
その時、要塞の門番が、リリアンヌ姫の強引な来訪を告げた。姫は、いつもの乱暴なドレスではなく、動きやすい乗馬服姿で執務室に飛び込んできた。
「アリア!あの完璧な執事を、そのままにしておくつもり!?」
姫の表情には、いつもの反発ではなく、婚約者としての、そして人としての強い怒りが滲んでいた。
アリアは涙を拭い、静かに答えた。
「姫様。シエルは、私の家族です。私は必ず彼を救出します。しかし、今回の敵は未知の魔力を持つ男。私の錬金術だけでは、数理的な突破口が開けません」
姫は、アリアの**「家族」という言葉に、一瞬唇を噛んだ。しかし、シエルへの不器用な想いと王族の使命**が、彼女を動かした。
「フン。あんな完璧で冷たい男、放っておけばいいと思うけど…。あの男は私の婚約者よ。そして、彼の演算魔力は、この国の数理的安定に不可欠なの。王族の務めとして、取り返すわ」
2. 不完全な令嬢たちの作戦会議
アリアとリリアンヌ姫は、**「シエルを救出する」**というただ一つの目的のために、完璧な共闘体制を敷いた。
二人の前に広げられたのは、シエルが残した最後の演算記録と、姫が王族の権限で集めた影の結社の活動データだった。
「シエルの最後の記録によると、敵は**『勇者の血』を狙っていた。ホムンクルスの生成に必要な純粋な魔力**を得るためにね。そして、謎の男の呪詛は、シエルの演算を麻痺させていた」アリアが分析する。
リリアンヌ姫は、持参した王族秘蔵の魔力探知装置を机に置き、不満そうに言った。
「その魔力定着率がどうとか、私には数理的なことはわからない!でも、あの男はシエルの弱点を突いたのよ。そして、アリア。貴方のポーションはシエルの演算を安定させる。ならば、私は、シエルの演算を妨害するものを破壊すればいい」
姫の言葉は非論理的だったが、核心を突いていた。
アリアは、姫の直感と実技の強さを評価した。
「姫様の仰る通りです。謎の男の呪詛は、シエルの魔力に**『不協和な周波数』**を送り込んでいた。この周波数を打ち消すには、**強力でシンプルな『破壊の元素操作呪詛』**が必要です。それは、姫様の最も得意とする分野」
「フン。完璧な執事を助けるために、乱暴者の力を使うなんて、最悪の数式ね!」姫は顔を赤らめたが、その瞳は覚悟を決めていた。
3. 禁断の調合と共闘の約束
アリアは、夜を徹して鎮静剤の改良版と、対呪詛用の結界符の調合に没頭した。彼女の調合は、錬金術の令嬢としての使命と、家族への愛という二つの熱意によって、完璧な精度を誇った。
一方、リリアンヌ姫は、アリアの研究棟で、自身の元素操作の呪詛を磨き上げていた。彼女の乱暴な言葉とは裏腹に、その真剣な眼差しは、王族の責務を果たす高貴な決意を示していた。
夜明け前、二人は要塞の裏門で合流した。
アリアは、改良版のポーションを姫に手渡した。
「姫様。この鎮静剤は、シエルの演算を安定させると同時に、一時的に魔力を高める効果もあります。彼が意識を取り戻したら、これを」
リリアンヌ姫は、ポーションを受け取り、目を合わせることなく答えた。
「フン。こんなもの、完璧な執事の怠け癖を助長するだけでしょうが。でも、分かったわ」
そして、姫はアリアに、一つの質問を投げかけた。
「ねぇ、アリア。貴方は、本当にシエルのことが…好きなの?」
アリアは、禁断の愛を胸に押し込め、静かな決意を込めて答えた。
「はい。私は、彼にとって、完璧である必要のない、唯一の安息の場所です。だから、私は、彼を完璧な勇者として、貴方にお渡しします」
リリアンヌ姫は、アリアの悲しいほどの献身的な愛を理解した。彼女は、乱暴な言葉の中に、不器用な優しさを込めた。
「そう。じゃあ、貴方はそこで完璧な調合をして、私に完璧な支援をしなさい。そして、私は、あの完璧すぎて憎たらしい男を、王族の婚約者として連れ帰る。それが、私たち不完全な令嬢たちが、完璧な勇者に仕える、唯一の数式よ」
二人の令嬢は、不完全な優しさと秘めた愛を胸に、シエルを救出するための共闘の道を選んだ。彼女たちが向かう先には、勇者の血を狙う、影の結社の最深部が待ち構えていた。




