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現場の絶望と、二人の令嬢の和解



 

1. 現場の絶望と新たな敵の出現

爆発現場となったアカデミア・マギカにたどり着いたシエルは、変わり果てた光景に息をのんだ。

 

建物の壁は崩壊し、錬金術の研究棟からは黒煙が噴き出している。そして、その瓦礫の中には、教授や生徒たちが突っ伏して倒れ込んでいる。彼らの多くは、爆発の衝撃と、それに伴う魔力暴走の反動を受けていた。

 

シエルは倒れている一人の生徒に駆け寄り、「大丈夫ですか?何があった?」と声をかけたが、生徒に意識はなかった。次々と声をかけるが、返答はない。

 

(いけない。魔力の乱れがひどい。これは磁力呪詛と毒の複合だ…僕の演算を最優先しなければ、救える命も救えなくなる)

 

シエルはすぐに救護活動を諦め、勇者の演算魔力を起動させた。彼の瞳は黄金色に輝き、爆発の数理的な原因と敵の居場所を瞬時に解析した。

 

「見つけた」

 

建物の奥、保管されていた数理要塞の設計図と剣のトラウマに関する記録が保管されていたエリアから、二つの魔力反応があった。

 

一体は、おなじみの女性のホムンクルス。そして、もう一体は、黒装束の謎の男。その魔力は、ホムンクルスとは比べ物にならないほど巨大で不気味な不協和音を発していた。

 

シエルは**黄金のロングヌス**を具現化させ、瓦礫の山を飛び越えて奥へと向かった。

 

2. 完璧な防戦と不協和な敵

シエルがたどり着いたエリアは、すでに破壊され尽くしていた。ホムンクルスが磁力で周囲の金属を操り、設計図を焼き払おうとしている。

 

「また会ったわね、不完全な勇者。今度は貴様のトラウマの記録を、この世から消してあげる」

 

ホムンクルスは冷酷に告げた。彼女の傍には、すべての光を吸収するような黒装束の男が立っていた。男は動かないが、その存在自体がシエルの演算を妨害するノイズを放っていた。

 

シエルは、二対一という最悪の状況に冷静に対処した。

 

ホムンクルスは磁力による猛攻、そして謎の男は、シエルの魔力供給を遮断しようとする呪詛を放ってきた。

 

シエルは黄金の槍一本で、ホムンクルスの攻撃を完璧に捌くが、謎の男の呪詛は、アリアのポーションで安定したはずの彼の演算回路にまで侵入してくる。

 

「くっ…!」

 

シエルは、防戦一方を強いられた。彼は、カリブルヌスを避けるために、最小限の魔力で敵の攻撃を計算し、受け流すことに徹する。彼は、戦闘そのものを長引かせることで、敵の魔力切れを狙う、まさに長期戦戦略を強いられていた。

 

(この男は…ホムンクルスとは次元が違う。僕の演算魔力が、奴の呪詛の数式を解析できない…!)

 

シエルは、完璧な執事の顔の裏で、初めて絶望的な焦りを感じていた。

 

3. アリアの謝罪と姫の先制

その頃、爆発の轟音から少し離れた場所で、アリアはリリアンヌ姫を見つけ、謝罪の決意を固めていた。

 

(私が謝罪しなければ。昨日の私の言葉は、シエルの使命と姫様の立場を否定した、最も非論理的で感情的な過ちだった)

 

アリアは姫の前に進み出た。

 

「姫様。昨日は申し訳ありませんでした。私の感情的な言動で、貴方とシエルの関係を…」

 

アリアが頭を下げようとした瞬間、リリアンヌ姫は反射的にアリアの肩を掴み、頭を下げさせまいとした。

 

「貴族が簡単に頭を下げるんじゃない!」

 

姫は乱暴な口調でアリアを制した。そして、顔を赤くしながら、ぼそりと呟いた。

 

「…私の方こそ、悪かったわ。あの完璧な執事のことは、正直、今でも好きじゃないけど、言いすぎたのは事実だし、貴方の気持ちを乱暴に踏みにじった。これで、問題は解決してくれるよう、頭を下げるわ」

 

姫は、「謝罪」という言葉を、まるで呪詛のように辛そうに口にした。そして、本当に頭を下げようとした。

 

アリアは、王族がこれほどまでに己のプライドを曲げている姿を見て、動揺した。

 

「姫様、どうか!貴方は王族です。貴族の私が頭を下げるべきです…」

 

アリアは、姫を立たせ、自分の生い立ちについて話し始めた。

 

「私は、辺境の数理要塞という、面倒で不人気な役職を背負っています。周りの貴族たちは、私を**『不完全な砦の令嬢』と見下しています。だから、私は彼らに付け入る隙**を与えないよう、完璧でなければならなかった…」

 

アリアは、孤独な生い立ちを打ち明けた。

 

「そして、私はしっかりしてないから、シエルに完璧な執事になるしか、道を選ばせてあげられなかったのです。彼は私の不完全さを補う、完璧な数式だったから……」

 

リリアンヌ姫は、アリアの孤独と、シエルが背負う**「家族を守る」という重圧**の構造を初めて理解した。

 

「そんなの……周りの勝手じゃない!貴方が不完全でも、貴方は貴方よ!」

姫はそう叫んだが、その言葉にはもはや攻撃性はなかった。孤独な令嬢同士の、共感の数式が成り立った瞬間だった。

 

4. 託された使命とシエルの限界

その頃、シエルは限界を迎えていた。謎の男の呪詛は彼の演算回路を麻痺させ、ホムンクルスの猛攻は槍一本で捌ききれなくなっていた。

 

「諦めなさい、勇者。貴方のトラウマが、貴方の演算を鈍らせている」

 

ホムンクルスが嘲笑う。

 

(ダメだ。このままでは、設計図が奪われる。そして、僕はまた、剣を使わなければならない…!)

 

シエルは、アリアが禁断の愛を込めて調合した鎮静剤のポーションを、最後の希望として握りしめた。

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