負けない男⑪
「数学の過去問、すぐに注文します。」
太郎吉先生は、そこで一息ついた。
「ワシは数学は専門外じゃが、
専門としておる国語、それと英語を調べた限りでは、
採用試験の専門科目のレベルは
大学入試レベルとみた方がいい。数学も同様だな。
だから、白チャートか黄チャートを
完璧に仕上げるのがいいんじゃないか? 」
「それなら、黄チャートは揃っています。
拡大コピーも、まだとってありますよ。」
「パーフェクトだ。
ただ念のため、過去問には目を通しておくことと、
計算練習は欠かさないことだ。
計算は定期的に練習しておかないと、鈍りやすいからな。」
「それにしても、先生はよく試験対策を考えつきますね。」
「過去問を見て、相手の手の内がわかれば、
どうということもない。
未知の相手ではどうにもならんが、
手の内がわかった相手は、こちらの対処の仕方を考えるだけだ。」
そして、こう付け加えた。
「敵は、他の受験生ではない。
ほかならぬ、点数を取れない自分自身だ。」
「そうですね。
『自分自身』との闘いです。」
「それにしても、調べてみてわかったのじゃが、
ワシが受験した40年前と、
ほとんど傾向が同じとはな。
もちろんその時代から時事的な部分の変化はあるものの、
他は変わらん。
準備さえ妥当なものなら、誰でも合格できそうなものじゃが、
現実にはそうなっとらんということは、
準備にどこか甘さがある受験生が多いということじゃな。」
そしてまた、太郎吉先生は一息ついたあと、こう言った。
「リコ君、君は余程のヘマでもしない限り、
トップ合格するじゃろう。
そのときは、用心することじゃ。」
「どういうことでしょうか? 」
「合格すればわかるよ。」




