名もなき夏(s)
なかなか降らない雨が
ようやく降ってくれた
雫のついた畑の草に
緑の元気が戻った
日差しか強すぎるから
葉が焼けてしまってた
日当たりよりも日陰が
欲しくなってた。
こんな夏になるなんて
思いもせずに人は暮らし、
こんな夏になるなんて
それでも西瓜は実ってる
蝉がずっと鳴いてる
あれば熊蝉なんだよね
子供の頃だと珍しかった
油蝉ばっかりだった
南がじわじわ押し寄せ
北がどんどん遠ざかる
生き物たちの戸惑い
少しはあるんだろうか
こんな夏になるなんて
思いもせずに時は過ぎて
こんな夏になるなんて
それでも蜩に泣ける
アイスがすぐに溶けるのは
昔からだったはずだけど
手のひらじゃなくて心が
ベタついてるような午後
風鈴の音が遠すぎて
夏がちゃんと来た気がしない
季節の中に置き去りで
でもちゃんと息はしてる
こんな夏を過ごしても
世界は今日も動いてる
こんな夏を過ごしても
洗濯物は風に揺れる
朝顔がそっと開いて
誰にも見られずに咲く
窓の側のプランターで
夜の名残と並んでる
月明かりはまだそこで
昼間の気配をためらうよ
今日が始まるその前に
小さな夢でもみるかい
こんな夏を暮らしても
朝と夜は巡り来る
こんな夏を暮らしても
名もなき心が詩になる
名もなき心が詩になる