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愛と挑戦の商店街。

ふたりの店が軌道に乗った頃……

商店街の外れに大型ショッピングセンターが建設されるという噂は、まるで秋の風のように静かに、しかし確実に「Paw Couture」の店内にまで吹き込んできた。


ある朝、八百屋のおじさんがいつもの野菜の仕入れから戻るや否や、興奮気味に話しかけてきた。

「美咲ちゃん、彩花ちゃん、聞いたか? あの空き地にでっかいショッピングセンターができるってよ! しかも、ペット服のチェーン店も入るらしい。ほら、あの全国展開してる『PetPop』ってやつ!」

美咲はミシンを動かす手を止め、彩花と顔を見合わせた。

「PetPop」――安価でトレンドを押さえたペット服を大量生産する大手チェーンだ。オーダーメイドの丁寧な仕事が売りの「Paw Couture」とは真逆のアプローチ。

価格は「Paw Couture」の半分以下で、派手な広告とSNSでのインフルエンサー戦略で若者に人気だった。

彩花は眉をひそめ、スマホで「PetPop」のサイトをチェックし始めた。

「うわ、めっちゃ安いね…。デザインは悪くないけど、なんか…こう、魂がない感じ?」彼女はそう言いながら、祖母のスケッチブックを手に取った。「美咲、これ見てよ。こんな愛情、絶対真似できないよね?」

美咲はスケッチブックを眺めながら、頷いた。「うん、うちの服は一つひとつに物語がある。それが強みだよ。でも…」彼女は言葉を切り、窓の外の商店街を見つめた。「安さで勝負されたら、常連さん以外のお客さんが流れるかもしれない。」


その夜、閉店後の店内で二人はいつになく真剣な話し合いを始めた。美咲はコーヒーをすすりながら、慎重に言葉を選んだ。

「彩花、うちの店は祖母ちゃんの想いを継いで、ワンちゃんや飼い主さんのために特別な服を作る場所でいいよね? でも、正直、ショッピングセンターができたら、商店街の人の流れが変わるかもしれない。価格競争になったら…厳しいよ。」

彩花は少し苛立ったように髪をかき上げた。「価格競争なんて、したくないよ! うちはオーダーメイドで、莉子ちゃんみたいな子やコタローさんのおじさんのために作るのが大事じゃん。大量生産の服に負けるわけないって!」

「でも、彩花、みんながオーダーメイドの価値をわかってくれるとは限らないよ…。若い子とか、SNSでバズってる安い服に飛びつく人も多いし。」美咲の声には不安が滲んでいた。


彼女は祖母のスケッチブックをそっと撫でながら続けた。「私、祖母ちゃんの想いを守りたい。でも、店を続けるためには現実も見なきゃいけないのかなって…。」

彩花は腕を組み、カウンターに凭れながら反論した。

「現実って何? 値下げして、PetPopと同じ土俵で戦うってこと? それじゃ、うちの良さが死んじゃうよ! 私はもっとSNSで発信して、うちの物語を広めたい。コタローちゃんの写真みたいに、バズらせればいいじゃん!」

「バズるだけじゃ、ずっと来てくれるお客さんを増やすのは難しいよ。常連さんだけじゃ店は持たないかもしれない…。」美咲はそう言いながら、クラウドファンディングの支援者リストを眺めた。

「遠くから来たあの女性みたいに、うちの想いに共感してくれる人を増やしたいけど…それだけじゃ足りない気がする。」


二人の意見は平行線のままだった。美咲は店の持続可能性を考え、価格を抑えた既製品ラインの導入や、オンラインショップの強化を提案した。 


一方、彩花は「Paw Couture」の個性であるオーダーメイドとストーリー性を貫くべきだと主張し、SNSやイベントでブランドの魅力を発信することに注力したいと訴えた。


数日後、商店街の定例会でショッピングセンターの話が正式に議題に上がった。

マスターがいつものコーヒーを手にやってきて、ため息交じりに言った。「美咲、彩花、PetPopの話、本当らしいぞ。商店街の他の店も焦ってる。どうするんだ、お前ら?」

美咲は静かに答えた。「まだ…彩花と話し合ってる途中です。うちの強みをどう守るか、考えなきゃ。」

彩花は少しムッとした表情で付け加えた。

「守るだけじゃなく、攻めたいんですよ! うちの服の価値、もっとたくさんの人に知ってほしい!」

マスターは苦笑いしながら、「まぁ、どっちにしろ、お前らの情熱は本物だ。それを忘れなきゃ、なんとかなるさ」と言い残し、店を出て行った



その夜、美咲は祖母のスケッチブックを開き、ページをめくりながら考え込んだ。祖母のデザインには、ワンちゃんへの愛情だけでなく、作り手の心が宿っていた。それを守るためには、彩花の言うように「攻める」ことも必要かもしれない。でも、店の未来を考えると、妥協も避けられないのかもしれない。


一方、彩花は店の奥でパソコンに向かい、SNS用の動画を編集していた。莉子ちゃんとミミのドレス姿や、コタローの武将マントを着た写真を織り交ぜ、「Paw Couture」の物語を伝える投稿を作り上げていた。

「これでバズれば、PetPopなんて関係ないよ…!」と呟きながら、彼女は投稿ボタンを押した。

翌朝、彩花の動画は予想以上に反響を呼び、コメント欄には「こんな素敵な店、初めて知った!」「絶対行きたい!」という声が溢れていた。


しかし、同じ朝、ショッピングセンターの建設予定地にはすでに看板が立ち、「PetPop」オープンの告知が派手な文字で掲げられていた。

美咲は店のカウンターで、祖母のスケッチブックを手に深呼吸した。「彩花、私たち、どっちの道を選ぶにしても、覚悟が必要だね。」

彩花は振り返り、力強く頷いた。「うん、でも、どんな道でも、祖母ちゃんの想いとワンちゃんの笑顔は絶対に守るよ!」


商店街の街灯が灯る中、「Paw Couture」は新たな挑戦の岐路に立っていた。二人の夢は、試練を前にどう進化していくのか――それは、まだ誰も知らない未来だった。



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