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Paw Coutureの小さな奇跡


開店から数週間、美咲と彩花の「Paw Couture」は商店街の新たな名物になりつつあった。


朝のひんやりした空気の中、八百屋のおじさんの「朝採れ野菜!」という威勢のいい声に混じって、ワンちゃんの小さな吠え声や飼い主たちの楽しげな笑い声が店から漏れ聞こえる日が増えていた。


ある朝、店先に小さな柴犬を連れた中年男性がやって来た。少し照れくさそうに、男性はカウンターに立つ美咲に話しかけた。「あの、すみません。うちのコタローが最近、散歩中に震えるんですよ。歳も歳だし、なんか暖かい服があればなって…」彼の声には、愛犬への深い愛情が滲んでいた。

美咲は微笑み、祖母のスケッチブックからインスピレーションを得た、ふわふわの裏地付きマントを取り出した。

「これ、柴犬サイズに調整したんです。コタローちゃん、試着してみますか?」

コタローは少し戸惑いながらも、マントを着せられると、まるで誇らしげに尻尾を振った。男性の顔がパッと明るくなる。

「おお、こりゃ似合う! まるで小さな武将だな!」彼は笑いながら、財布を手に取った。「これ、絶対買います。妻にも見せたいから、写真撮ってもいい?」

「もちろん!」美咲は彩花を呼び、彼女が得意のスマホでコタローのベストショットを撮影。男性は「Paw Couture」のタグ付き写真をSNSにアップし、「商店街の隠れた名店!」とコメントしてくれた。その投稿は、意外なほど拡散され、週末にはコタローの写真を見たというお客さんがちらほら訪れるようになった。


別の日には、近所の小学生、莉子ちゃんが母親と一緒に店に飛び込んできた。莉子ちゃんは手にヨークシャーテリアのぬいぐるみを握りしめ、目をキラキラさせながら言った。

「美咲さん! うちのミミちゃんに、ぬいぐるみとお揃いの服作ってほしいな! ミミ、いつも私のベッドで寝るから、かわいいドレス着たらもっと仲良くなれる気がする!」

彩花がすかさずスケッチブックを取り出し、莉子ちゃんのアイデアを聞きながら即興でドレスのデザインを描き始めた。

「ほら、こんな感じはどう? リボンをここに付けて、フリルはふわっとね!」莉子ちゃんは大興奮で、「それ! めっちゃかわいい!」と叫んだ。

美咲はミシンを動かし、莉子ちゃんの希望を反映した小さなドレスを数日で仕上げた。

完成品を受け取った莉子ちゃんは、ミミを抱きしめながら「美咲さん、彩花さん、ありがとう! ミミ、絶対喜ぶよ!」と満面の笑み。

母親も「こんな丁寧な仕事、ほんと感動します」と、目を細めて感謝してくれた。


そんな小さな交流が、店の日常を彩っていった。常連の八百屋のおじさんは、自分の愛犬・太郎のためにオーダーメイドのベストを注文し、「これ着て散歩したら、商店街のスターだな!」と冗談を飛ばした。

マスターも時折、コーヒー片手に店を覗き、「お前らの店、なんかほっこりするな」と呟きながら、棚の微調整を手伝ってくれた。


ある夕方、クラウドファンディングで高額支援してくれた若い女性が店を訪れた。彼女は遠く大阪からわざわざ足を運んだと言い、ポメラニアンのマロンをお披露目した。「美咲さんのストーリー、クラウドファンディングのページで読んで、とても心動かされたんです。祖母さんのスケッチブック、愛情が詰まってて…。マロンにもその愛情を着せてあげたくて。」

彼女はそう言いながら、祖母のデザインを基にしたセーターを選び、マロンに試着させた。マロンが小さく「クゥン」と鳴くと、女性は目を潤ませ、「これ、祖母さんに自慢したいな」と呟いた。

美咲は胸が熱くなり、そっと祖母のスケッチブックを手に取った。「このデザイン、祖母が『ワンちゃんは家族だよ』って言いながら描いたものなんです。喜んでもらえて、祖母も絶対嬉しいはず。」女性は頷き、「Paw Couture、絶対応援し続けます!」と力強く言って帰っていった。


客との交流は、美咲と彩花に新たなアイデアももたらした。莉子ちゃんの「ぬいぐるみとお揃い」アイデアから、親子で楽しめる「ペアグッズ」の企画が生まれ、コタローのマントが評判を呼んだことで、シニア犬向けの暖かくて動きやすい服のラインも検討し始めた。

彩花は「次はハロウィン用のコスチュームとかどう?」と目を輝かせ、美咲は「それ、絶対ウケる!」と笑いながらミシンを動かした。

商店街の街灯が今日も優しく灯る中、「Paw Couture」は小さな店ながら、たくさんの笑顔と物語を生み出していた。美咲は祖母のスケッチブックを開き、新たなデザインに挑戦しながら呟いた。「祖母ちゃん、私、こんなに幸せでいいのかな。」


彩花がカウンターから叫ぶ。「美咲! 次のお客さん、ダックスフンド用のコート相談だって! いくよー!」

二人の夢は、ワンちゃん一匹、飼い主一人ひとりの笑顔とともに、商店街からさらに広がっていくのだった。



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