●悪事その① 晩食破壊作戦?後編
第6話
喜愛が帰ってきた母親の対応をするために出ていった後、部屋には俺一人だけが残されていた。
「さて、どうすっかな...」
俺は暇潰しに何かしたいと考え始めていた。
部屋には幾つかのゲーム機なんかも置かれているが勝手にプレイでもしたら喜愛に怒られてしまうのは明白だ。何より、ゲームに気を取られて悪事に失敗してしまうという本末転倒みたいな事に成りかねない。
仕方がないから大人しく隠れていようとした俺だったが、次第にとある欲が芽生えつつあった。
(せっかく、女の子の部屋に入れたのに...ここで終わっても本当にいいのか?)
そして、俺の視界に入ったのは扉の側にあった中型くらいのタンスだった。
(女の子の部屋のあのタンス...もしかしなくともアレとか...あるよな!)
タンス自体は他にもあるが大きさ的にあのタンスに俺のお目当てのモノが収納されていると容易に推測できた。
これが以前までの俺ならお人好しさのせいで妄想止まりで直接行動するなんて事はなかったはずだ。だが、今の俺は悪者になると数日前に決めたばかり。だから...
「喜愛、悪く思うなよ?あの日から俺は悪になると決めたんだからな...チェック!チェックだぜ...まず、最初の段は...」
己に芽生えてしまった欲望を抑える事など不可能だった。
そして、三段あるタンスの最初の段には今時の女の子なら着そうな可愛らしい服やスカートやズボンが幾つも収納されていた。
「へぇ、すげぇ...可愛いな...それにしても、喜愛もこういう服を着たりするんだな...おまけにこんなミニスカートまで!やっぱり、あいつも女の子なんだな...」
俺から見た喜愛は『生意気で変な奴』というイメージだが、こんな女の子らしくて可愛らしい部分もあった事に俺は少しだけ驚いていた。
これが以前までの俺ならこの辺で満足していたに違いない。だが、今の俺にはここまで来て止めるなんて選択肢は残されていなかった。
「さて、二段目は...ちぇっ、ハズレか...」
二段目の段には寒い時に着そうなジャンバーやセーターといった防寒具が収納されていた。確かにそれらも女の子らしくて可愛らしいものではあるのだが、最初の段に収納されていたものを見た後ではどうしても見劣りしてしまう。
「となると、最後の段に...」
どうやら、俺のお目当てのモノは最後の段に収納されているとみて間違いない。
(もう後戻りなんてできるか...よし、行くぞ!)
覚悟を決めた俺は最後の段を開けた。すると、そこには...
「うっひょおおっ!おっと、危ない。声を出したらバレちまう...」
俺のお目当てのモノ...喜愛のブラジャーやパンツといった下着の数々が収納されていた。
(すげえ...そういや、喜愛はいい身体だったりするんだよな...)
喜愛は顔やスタイルだけなら瑠莉と人気を二分できるほどでおまけに胸もそれなりに大きい美女である。そんな彼女の下着の数々を見て俺は興奮していた。終いには見るだけだったつもりのはずが、遂には直接手に取ってしまった。
「これが喜愛の下着...はぁ...!はぁ...!」
俺は興奮のあまりに頭が真っ白になって息が荒くなっていた。そんな時、ポタポタと何かが自分の腕に滴る音がした。
「...ん?げっ!まずい!興奮のあまりに鼻血が...」
正気に戻った俺は大慌てで喜愛の下着をタンスに戻した。とにかく、急いで鼻血を止めなければならない。
(うわぁ、やばいな...思っていた以上に俺って女性の下着に対する耐性がなかったんだな...)
そう思っていた時だった。下の階から自分を呼ぶ声が響いたのは...
「神城先輩!今です!」
そうだった...忘れかけていたが本来の悪事をおこなわなければならない。
そうして俺は階段からかけ下りたまではいいのだが、目の前で待機している喜愛を見るとつい先程の事を思い出してしまう。
「その...お助けマンとしての働きは中々やるじゃねぇか!おっ...お前とならこれからもやっていけそうだな!じゃ...じゃあ、次は俺の番だな!行ってくるぜ!」
俺は緊張と動揺のあまりに喜愛に対して思ってもいない事を口走りながら、台所へと向かった。
台所にはちょうど完成間近のスープが用意されていたのでそれに冷蔵庫にあった適当な調味料をろくに確認もせずに片っ端から注入した。というか、そんな余裕もなかったのだ。
そして、悪事を終えた俺は喜愛の家を飛び出し、全力ダッシュで帰路に着いたのだった...
その日の夜中、俺は携帯で悪のお助けマンから結果を聞いてみたところ、大失敗に終わってしまったと返事が返ってきた
『おいおい、マジか...適当に調味料混ぜた結果、奇跡的に美味になってしまうなんてそんなギャグ漫画みたいな事ってあり得るのか?』
『それはこっちの台詞ですよ。まさか、初めての共同悪事がこんな本末転倒な形で終わってしまうなんて...どういう精神状態でやったらこうなるんですかね?』
『それはその...すみません...』
お前の下着に興奮してしまったせいだ!なんて言えるはずもなく、俺はただお助けマンに謝る事しかできなかった。
『全く...悪役同盟が善行を働いてしまうなんて一生の不覚です...ですが、次は必ず成功させましょう!』
『おう!今回はたまたま運が悪かっただけだ!次こそは絶対に成功するはずだぜ!』
次も...そのまた次も、悪事が失敗しまうなんて展開はありっこないはずだ!
『では、次の悪事が決まり次第でいいので私に連絡をくださいね~!』
『また、俺が考えるのかよ...』
『当たり前です。私はあくまでお助けマンですから、悪事を考えるのは神城先輩の仕事に決まってるじゃないですか?』
『まぁ、よく考えたらそうかもな...よし!次は絶対に失敗しない悪事を考えておくから楽しみにしてろよ!』
そう...俺と喜愛による悪役同盟はまだ始まったばかりなのだから...
如何にも最終回っぽい終わり方ですが、物語はこんな感じでまだまだ続きますのでご安心を。
一旦、作者は別作品の執筆に移りますので気長にお待ちください。