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□人生初のダブルデート

今後、□は藍夏目線になります。


第29話



私の言葉であっさりと機嫌を直してしまうなんて今崎君はチョロいですね。噂通りの女好きといったところでしょう。


(...これで遅刻したお詫びにはなるでしょうか?)


全く...今日はせっかくの神城君との親睦を深めるためのデートだったのにどうしてこの日に限って来客は現れるか不思議で仕方ありませんね...まぁ、いくら冷遇されているとはいっても私が笠武財閥の跡取り娘なのは間違いないので私に取り入ろうとする魂胆は理解できるのですが...


「こらっ!今崎!急に走り出したかと思ったらこんなところにいたのね!あんたは荷物持ちなんだから逃げんじゃないわよ!」


「げっ!」


...と、そこへ男勝りな口調で今崎君に声をかけてきたのは私がよく見知った顔でした。なぜなら...


「おや、あなたはクラスメートの弘橋朱乃(ひろはしあけの)さんですよね?」


「えっ?笠武さん!?笠武財閥のお嬢様がどうしてこんな庶民的な場所に...意外。」


彼女の名前は弘橋朱乃さん。私のクラスメートの一人です。


ちなみに他のクラスメートの話によると弘橋さんは今崎君とは同じ中学出身...所謂腐れ縁みたいな間柄らしく、将来の夢は女子プロレスラーとのこと。なお、今崎君とは一番絡みが多い女子であるらしいのですが絡みとはいっても皆さんが予想しているようなイチャイチャ展開はなく、会う度に口喧嘩し合うような関係で今崎君がボケたりしょうもない事をすると【制裁】と称して強烈なビンタやげんこつをお見舞いするのがお約束となっています。まるでどこかのお笑いみたいなやり取りですね。


「今日はそこの彼と親睦を深めるためにやってきたのです。」


「そこの彼って神城君でしょ?えっ!?二人って付き合っているの!?」


「付き合ってはいないぞ。」


「えぇ、お付き合いはしておりません。神城君とはあくまでお友達同士の関係ですから。」


「ふ~ん。」


(弘橋さんは一応、納得したかのような反応を見せていますがまだ少し疑っているようにも見えますね...)


そのように私が冷静に判断していた時です。


「なぁ!せっかくだし、この四人でダブルデートしないか!?」


「「「えっ?」」」


私と神城君...そして、弘橋さんの声が見事にハモった瞬間でした。


「ちょっと何言ってるのよ!二人を巻き込むのは迷惑だろうし...だいたい!私はあんたとデートしに来たわけじゃないんだからね!」


弘橋さんは当然のように抗議しています。彼女から見て今の今崎君は荷物持ちという認識ですからね。


「でもよ?豪牙と笠武さんは付き合っているわけじゃないんだし、構わないだろ!俺と豪牙は仲良いから絶対楽しくなるって!弘橋も笠武さんと仲良くなれるチャンスだぞ!クラスメートなんだろ?なぁ!笠武さんもそう思わないか?」


「私ですか?」


一見するとそれらしい事を言っているように見えますが私は今崎君の本心はちゃんと見破っています。大方、面倒な荷物持ちに神城君を巻き込む事と私と行動を共にできる貴重な時間を少しでも作っておきたい...そんなところでしょうか?


まぁ、私がここで断ってしまうのもありですが...


「私は構いませんよ。弘橋さんはもちろん、今崎君とも仲良くなりたいと思っていましたから。」


「よっしゃー!」


「えっ?ちょっ...笠武さん...!あっ、ほら!神城君からも何か言ってやって!」


私がダブルデートを了承したのが弘橋さんの予想に反していたらしく、彼女は助けを求めるかのように神城君に声をかけにいきました。


「いや、俺はお前や笠武が嫌がらないなら別に構わないが...弘橋は反対なのか?」


「...分かったわよ!その代わり、今崎は神城君と笠武さんに迷惑をかけない事!いいね?」


「もちろんだぜ!面白くなってきたな~!」


「ふふっ...」



こうして...私、神城君と今崎君、弘橋さんによるダブルデートが始まりました。













そして、ダブルデートが始まって数時間後...


(ダブルデートというものも中々楽しいですね...)


今、話題となっている人気アニメの映画をポップコーンを食べながら観賞したり...


フードコートでハンバーガーやフライドポテトといった普段は滅多に食べない料理を食べさせてもらったり...


ゲームコーナーのクレーンゲームやUFOキャッチャーで景品がたくさんGETできて思わず喜びの声が出てしまったり...


洋服店にて男子と女子に分かれてお互いに相手に似合う服を選び合って相手に着させたり...


そんな感じで色々と満喫できました!


(神城君と今崎君は元から仲良しだったのでともかく、私も弘橋さんと少し仲良くなれた気がしますね...)


大半は互いの本来の相手と会話しながらも時には男子同士、女子同士での話も盛り上がりましたね。


あっ、もちろんですが...今崎君が私に下心満載で露出度の高い服を勧めたり、いやらしい視線を向けたり、しつこく口説こうとしていた時は弘橋さんから容赦のない制裁がお見舞いされました~。おかげで今崎君の両頬は赤く腫れていて頭には大きなたんこぶが鎮座していますが、それでも彼は気にする様子もなく、相変わらず楽しそうにしていますね。普通の人ならば痛がる素振りくらいはしてもおかしくありませんのに...もしかすると慣れてしまっているのでしょうか?


「あっ、やべぇ!最近、大人気の漫画が発売されてたんだったぜ!ちょっと待っててくれ!」


突然に今崎君がそう言って手に持っていた荷物を放り投げるとブックコーナーへ向かって駆け出していきました。


「ちょっ!勝手に荷物を放り出して...こらっ!待ちなさい~!」


あっ、咄嗟に弘橋さんは今崎君が放り投げた荷物を慌てて拾い集めると今崎君を追いかけて同じくブックコーナーに向かって走っていきましたね...


そうなると必然的にその場には私と神城君の二人が残されてしまうわけで...


「やれやれ...ホセの奴、これはたっぷりと絞られそうだな。」


「放り投げた荷物の中に割れ物や貴重品がなかったのが幸いですね。」


そうやって神城君と話していると何故だか急に疲労感と眠気が私を襲ってきました...どうやら、知らず知らずの内に疲労を貯めていたのでしょうか?


「お二人が戻ってくるまでの間、私はあそこの大きなソファーで休んでおきますね...」


「奇遇だな。ちょうど俺も疲れてて休みたいと思っていたところだ。隣に座っても構わないか?」


「はい、構いませんよ。」


そんなわけで私と神城君は同じソファーでくつろぐ事になりました。少し気まずい空気の中、しばらくして口を開いたのは私の方でした。


「神城君、今日のデートは楽しかったですか?」


「あぁ、そうだな...ホセの奴に巻き込まれた感はあったが...まぁ、結果的には色々と楽しめたぜ。」


「それは何よりです。」


そう話す神城君も疲れと眠気がたまっていたのでしょうか?どことなくウトウトしているような気がします。


「そういうお前はどうなんだ?」


「私ですか?もちろん、楽しかったですよ。神城君に今崎君に弘橋さんと良い思い出が作れましたから。」


「お嬢様らしい模範解答だな...お前は俺に近づいたのも家への復讐に利用するためでしかないし、実際はどう思っているんだろうな...まぁ、別に知らなくてもいいが...」


「警戒しすぎ...ですよ...」


確かに私が神城君に近づいたのは()()()()()()()()なのは否定できませんが今回のダブルデートが楽しかったという気持ち自体に嘘はないのですよ?


「ふわぁ...それにしても、あいつらは遅いな...待ちくたびれて眠くなっちまったぜ...」


「う~ん、私もです...一瞬でも気を抜いたら眠ってしまいそうですね...」


「まぁ、お前は無理せずに寝てもいいんだぞ?何なら俺が子守り歌でも歌ってやろうか?」


「馬鹿にしないでください...こんな場所で眠るなんてはしたない事...私がするわけありません...」



いったい、あの二人はいつになったら戻っているのでしょうかね...













それから30分後...


「ただいま!わりぃ!目当ての漫画を探すのと弘橋と喧嘩しているのとで遅れ...はぁっ?」


「全くよ!あんたの漫画を探すのに付き合った私に感謝しなさ...あっ。」


ようやく今崎君と弘橋さんが戻ってきた...()()()()()()()


「くっそ~!豪牙の奴め!羨ましい~!」


「はぁ...あの距離感で本当に付き合ってないのかしら?」


後で聞いた話によれば私と神城君は待ちくたびれてしまったのか、二人で寄り添ってスヤスヤと気持ちよさそうに眠ってしまっていたそうです。ちなみに弘橋さん曰く、その様子はどこかの恋愛小説に出てきそうな主人公とヒロインみたいだったとの事らしいのですが...



私とした事がお恥ずかしい...




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